2.培養槽のなかの脳 「夢為胡蝶」(『荘子』)を読むための補助線 以下は、星新一の短編SF「これからの出来事」の梗概である。 未来の病院。交通事故に会い重体となった男が運びこまれた。 男は目を覚ます。ぼんやりとした明るさがあるだけで、目の焦点がさだまらない。ただ女医の呼びかけの声だけが聞こえる。 男は足の裏がかゆいので、女医に、かいてくれ、と頼む。女医は気の毒そうに、 「実はあなたの足はもうありません」 と答えた。 男はショックを受けるが、気をとりなおし「おなかが痛い」と訴えた。女医は、 「実はあなたのおなかもありません」 と打ち明けた。 男はびっくりし、心臓がどきどきし、頭に血がのぼり「こめかみが痛む」と訴えた。 女医はためらったあと、真実を打ち明ける。 「実は、あなたの体は、もうありません。すべては、あなたが感じる幻肢痛(げんしつう)にすぎません。交通事故であなたの肉体は砕け散りました。かろうじて、あなたの脳だけを生きたままこの病院に運ぶことができたのです。いま、あなたの脳は培養槽(ばいようそう)のなかに浮かんでいます。私は、あなたの脳に直接電線をつなぎ、コンピュータを通して意思疎通をしているのです」 男は覚悟を決めて、最後の質問をする。 「おれは生きているのだろうか。それとも、生きているような気がしているのだろうか」 女医は考えたあと、こう答えた。 「×××××××・・・・・・」 女医の最後の言葉が、この話の眼目である。 さて、あなたがもしこの女医なら、何と答えるか? 原作とは関係なく、自分で女医のせりふを考えて答えよ。 解答・解説は授業で。キーワードは「培養槽の脳」。ヒントは『漢文力』第1部第3章。 |