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第112回 国際問題研究会 2016.07.08(金) 16:00〜18:00

「中国を理解するために」
ビジネスマンとして知っておくべき基本知識

http://www.geocities.jp/cato1963/20160708.html 加藤徹
最初の公開2016-7-7 最新の更新 2016-7-8
[今まで書いた本]の一部。↓

中国文明の特徴は大人口。“海滨浴场 饺子”でネットの画像を検索すると…[Googleでの画像検索結果]
→「インフラとしての人間関係」「摩擦損失」「コモディティ化の美意識」など中国社会の特徴が生まれる。
 中国人の政治・信仰・行動様式の根底には無意識的な「四角形」「統一感」「自己相似形の連続感」の美意識がある。
 「“八荣八耻”などのスローガン」「北京城、故宮、四合院などの設計思想」「満漢全席の食器」「五行思想」「七言絶句」「京劇の舞台」「オープンエンドを嫌い、クローズエンドを好む」……
 中国人の暗黙知的な「美意識」の作用の結果、過去においては「儒教」が、現代においては「共産党」が、それぞれ支配的な思潮となった。
 cf.島国である日本は「ガラパゴス化の美意識」「棲み分け」などの特徴が強い。

「故上兵伐謀、其次伐交、其次伐兵、其下攻城。攻城之法、為不得已。」(孫子)
故に上兵は謀を伐つ、其の次は交を伐つ、其の次は兵を伐つ、其の下は城を攻む。 城を攻むるの法、已むを得ずと為す。
「用兵之道、攻心為上、攻城為下。心戦為上,兵戦為下。」(三国志)
用兵の道は、心を攻むるを上と為し、城を攻むるを下と為す。心戦を上と為し、兵戦を下と為す。

ざっくり言うと、 (1)「浸透戦術」「教養の力」「人間力」を活用し、
(2)「日本人vs中国人」という図式になることを回避し、
(3)「攻心為上」により「上兵伐謀」を達成する。
 東洋的な「義理」「情」「面子」「建前と本音」「恩義のしがらみ」「腹芸」は全部、中国人にそのまま使える。
 「日本人vs中国人」というお決まりの図式だけでなく、さまざまな「チャンネル」を切り開くためのセンスを磨く。
 相手の中国人の「世代」「出身地」「社会的位置」を把握し、それにあわせて「心」を攻める。
 美しい字が書ける、漢詩を暗記する、「三国志」など歴史を学ぶ、など「雅」の教養を涵養する。
 その一方、アニメ、スポーツ、昔のなつかしい映画、その他の「俗」の話題も開拓しておく。
 自分が自然に身につけられる範囲で、「雅」と「俗」の話題のタネになるようなものを携帯しておくとよい(携帯の写真に入れておいてもよい)。
 また、かつて革命家の孫文が“孙大炮”とあだなされたように、壮大なホラを吹く能力も磨いておくとよい。

中国人の「人生観」や「心性」を知るために有益な中国語のことわざや言い回しの例
  1. 人挪活,树挪死。
    人は動いてこそ生きる。木は動かすと枯れる。
  2. 一回生,二回熟。
    初回はみんな初対面。二回目からはなじみ。
  3. 有缘千里来相会,无缘对面不相识。
    縁があれば千里離れていても出会う。縁がないと対面しても知り合いにならない。
  4. 不是冤家不聚头。
    かたきでなければ、出会わない。かたきに限って、出会う。(「逆縁」も「順縁」も「良縁」になりうる)
  5. 天时不如地利,地利不如人和。
    天の時は地の利にしかず、地の利は人の和にしかず。
  6. 酒逢知己千杯少,话不投机半句多。
    知己と酒をくみかわすと千杯でも足りない。話が盛り上がらないと半句でも長い。
  7. 在家靠父母,出門靠朋友。
    家では父母にたよる。家を出たら友にたよる。
  8. 富也不过三代,穷也穷不过三代。
    金持ちも三代続かない。貧乏も三代続かない。
  9. 三十年河东, 三十年河西。
    (自分が動かなくても時代の潮流が変わるため)三十年は川の東、次の三十年は川の西(に居場所が移る)。
  10. 有书真富贵,无事小神仙。
    書物があるのは本当の富貴。なにごともない平穏な日々は神仙の境地に近い。(文化や教養を楽しめる平穏な日々こそ人間として最高の幸せ)
  11. 留得青山在,不怕没柴烧。
    木がはえている山を確保すれば(子々孫々まで)たきぎに困らない。
  12. 南甜北咸,东辣西酸。
    南は甘い。北は塩辛い。東は辛い。西は酸っぱい。(漢民族のエスニック・グループどうしの嗜好の差異は、欧州各国の差異に匹敵する)
  13. 老婆是人家的好,饺子和孩子是自家的好。
    女房は他人のがよく見える。餃子と子供は自家製のがよく見える。
  14. 台上三分钟,台下三年功。
    舞台上の三分間の演技、舞台の下での三年間の練習。(京劇のことわざ)
  15. 演人, 別演行。
    人を演じよ。役柄を演じるな。(京劇のことわざ)
  16. 吃软不吃硬。
    やわらかいものは食べるが、かたいものは食べない(ソフトな態度なら受け入れるが、強硬で無礼な態度なら受け入れない。逆のことわざも存在する)。
  17. 有功无コ变成魔,有コ无功不成佛。
    功あるも徳なければ悪魔となる。徳あるも功なければ仏になれず。(中国人の「功」と「徳」に関する考えかた。「功」は「工に力」で外面からも見える能力の高さや功績。「徳」は「得」と同系で内面的に身についている心のやさしさや豊かさ)
  18. 难得糊涂。
    「昼行灯」がよい(韜晦と明哲保身のすすめ)。
以下は時間があれば言及。参考までに掲載
参考例:中国人との会話で使える漢詩(正確には「宋詞」)の一例
《丑奴儿·书博山道中壁》辛弃疾
少年不识愁滋味,爱上层楼。爱上层楼,为赋新词强说愁。
而今识尽愁滋味,欲说还休。欲说还休,却道天凉好个秋
この詩の日本語の解説は[サイト「詩詞世界(碇豊長)」のこちらの頁]

「東方地中海」と「西方地中海」

中国史の三つのスタートライン:古典古代(3千年前〜)、近世(3百年前〜)、現代(30年前〜)
11世紀:日本、高麗、宋 → 21世紀:日本、韓国・北朝鮮、中国
cf.「三十年河東、三十年河西」
 「世」の字源と「卅」「丗」
『論語』為政第二;子張問「十世可知也?」 子曰「殷因於夏礼。所損益可知也。周因於殷礼。所損益可知也。其或継周者、雖百世可知也。」

中国の課題:意外に弱いブランド力→世界中で愛されるキャラクターは孔子とパンダだけ
 しにせ企業が育たない→「木は動かすと死ぬ、人は動いてこそ生きる」、襲名制・家元制はない
 「摩擦損失」が多すぎる→外国に出たがる中国人、1937年〜1978年の「失われた40年」、「三十年在河東、三十年在河西」

中国人とのつきあいかた(一例)
(1)ホンネとタテマエを一致させた「大義名分」。cf. 「?」 > 愛国心 > 共産党
(2)現場中心の「浸透戦術」。cf.「電撃戦」「人海戦術」「包囲攻略戦」
(3)顔の見える「拙誠」の物語。cf.「英雄」と「ヒーロー」の違い
人物、キャラクター、物語、芸術作品などの風格の分類
知(知性)情(感情)意(意志)
雅知雅情雅意
雅俗共賞共知共情共意
俗知俗情俗意
例:「三国志演義」のキャラクターづけ:劉備は共知、関羽は雅意(義の人)、張飛は俗情(酒好き)。諸葛孔明は雅知、趙雲は共意、馬超は俗意。
「庶民の良識」:風刺まんがにおける庶民の良識とは「権力は悪い」「昔はよかった」の2種類のみである。(『サルでも描けるまんが教室』)

東洋人の思考法、日本人と中国人の共通点。
cf. リチャード・E・ニスベット:著・村本由紀子:訳『木を見る西洋人 森を見る東洋人』ダイヤモンド社、2004年

中国的思考法の特徴(「特長」に非ず)
【人間】(にんげん、じんかん)…(1)人と人との間。人の世。(2)そこに住むニンゲン。
【摩擦損失(friction loss)】物体の運動エネルギーの一部が摩擦により失われること。
【摩擦の種類】すべり摩擦、転がり摩擦、粘性摩擦、動摩擦、静止摩擦、・・・
【摩擦のジレンマ】
 摩擦係数が小さいほど、運動効率はよくなる。
 摩擦係数が小さすぎると、発進・制動・方向転換などの運動性能は悪くなる。
車輪と路面の転がり抵抗係数
 鉄道の鉄製車輪と鉄製レール・・・1とする
 スポーツ自転車の高圧タイヤと舗装道路・・・約10倍
 自動車タイヤと舗装道路・・・約50倍
 自動車タイヤと砂地・・・約1000倍

イングランド社会の摩擦損失の小ささと近代化
 長子相続制の確立、階級社会 →「君臨すれども統治せず」民主主義。中国では清朝の「太子密建」
 ディオゲネスクラブ →変人・天才にも居心地のよい社会。中国では儒教の中庸の思想や美意識。
 bachelor →独身男性、学士。中国では「不孝有三、無後為大」。
 イングランド料理 →手間をかけず、まずい、というステレオタイプ。中国では「民以食為天」。
 ユーモア、ジョーク →潤滑油、緩和剤(Tory党、Whig党の呼称等)。中国の「党争」との違い。

漢字語源説「なめらかに美しく並ぶ」→隣、礼(禮)、麗、令、霊、…
 cf.拙著『本当は危ない『論語』
君子之交淡若水、小人之交甘如醴。――『荘子』山水篇第二十
当仁不譲於師。――『論語』衛霊公十五。
【仁・敗北】人が二人並ぶと「仁」。人が二人、背中どうしを向けあうと「北」。

集中・蓄積・展開
【皇帝の字源】皇:膨張志向 帝:一極集中
 漢字・漢文 長所:蓄積に有利。短所:エントリーコストが高く、展開に不利。


富永仲基(1715〜1746)『出定後語』および『翁の文』
   竺人…幻  漢人…文  邦人…絞  (洋人…説)
 『出定後語』「子煕又嘗与余語云、竺人好無量無辺等語、其性然、漢人之好文辞佶屈語、東人之好清介質直語、亦其性然。」
   cf.弊サイト[中国人の知恵]
中国人の「知」の四大象限

(2)   形式知   (1)

内省的・虚学的← →外向的・実学的

(3)   暗黙知   (4)

(第1象限)外向的形式知・・・孫子、孔子、韓非子など
(第2象限)内省的形式知・・・玄奘、朱子など
(第3象限)内省的暗黙知・・・荘子、達磨など
(第4象限)外向的暗黙知・・・老子など

日本文明(4)の国。「葦原の瑞穂の国は神ながら言挙げせぬ国」(柿本人麻呂。『万葉集』3253番)
西洋文明(1)と(2)から近代科学が生まれた。
中国文明(1)は強かったが(2)が弱かったため、近代科学が生まれなかった。


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