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読書メモ 『長崎虫眼鏡』1703 『長崎聞見録』1800 『瓊浦雑綴』1805


[長崎虫眼鏡]  [長崎聞見録]  [瓊浦雑綴]
2008.8.1




江原某『長崎虫眼鏡』(元禄十六年序=1703)より
(長崎文献叢書 ; 第1集 ; 第5巻)『長崎虫眼鏡 / 江原某著 ; 弄古軒菅秋序 ; 丹羽漢吉校訂 . 長崎聞見録 / 広川獬著 ; 丹羽漢吉校訂 . 長崎縁起略 / 正覚寺隠居蓮池院会釈聞書 ; 丹羽漢吉校訂』長崎文献社, 1975


南京(なんきん) え 三百四十リ
北京(ほつきん) え 五百リ
広東(かんとう) え 九百リ
 此の国夏至の日、いたたきのうへにありてかげなし
福州(ほくちう) え 五百四十リ
台州(ちやくちう) え 三百弐十リ
[水章(サンズイに章]州(とんちう) え 六百三十リ
蘇州(そちう) え 三百リ
 是明州(ミんじう)の津(つ)也、しかれとも今ハ寧波より来たる故、此国より入津なし
寧波(ニンホ) え 三百リ
阿[女馬]港(あまかわ) え 九百リ
呂宋(ルソン) え 千八十リ




広川獬『長崎聞見録』(寛政十二年刊=1800。寛政九年序=1797)より
(長崎文献叢書 ; 第1集 ; 第5巻)『長崎虫眼鏡 / 江原某著 ; 弄古軒菅秋序 ; 丹羽漢吉校訂 . 長崎聞見録 / 広川獬著 ; 丹羽漢吉校訂 . 長崎縁起略 / 正覚寺隠居蓮池院会釈聞書 ; 丹羽漢吉校訂』長崎文献社, 1975

33 唐の帝都之事
 乾隆帝の都は北京(ほつきん)にて順天府という。宮殿美麗を尽くすという。日本に来るにはまず南京(なんきん)に出る。

34寧波 このうえなくよい湊であり、人家およそ六万戸。

35唐船

36舟揚り之図

37唐人の風俗
 唐人の風俗は。寛広なれど。諸事無器用に見へ。何事をするにも。大勢寄集り。却而はかどらざる也。…そろばんでも、中国のは、盤粒(ばんりゅう)を貫く串がいたって長く作ってあるため、日本のような早算(はやざん)はできない。…いとうべきは不潔である。風呂はまれで、ときどき尺布に湯をひたして皮膚をぬぐうくらいである。また厠にのぼって手を濯がない者も多い。また足をふく布で頭をふいたり、顔をあらう器で食事を作るなどである。…唐人も、日本は清潔を好む国だと言っている。彼らのすぐれたところは文華である。…唐人も己か国は文国なりとて自慢する顔色熟熟(つらつら)見ゆ。是ハ悪べき事なり

38唐人食事

39唐韻不便の事 日本人は訓をもって諸事を弁ずるが、唐人は韻をもって万事を通ず。音韻をもってするのは、事の微細なるに似たれども、かえって不便であり、わが国で訓を用いるのに及ばない。長崎に来た唐人は、お互いにジェスチャー(原文は「仕形」しかた)を使う。ジェスチャーを省くと、意思疎通が互いに困難になるようだ。方言が違うと意味が通じない。朱華緑地という唐人は、予が長崎に遊んだとき予の帰洛を送りたる詩などを作った人だが、彼は唐人長崎御役所の閑静にして諸事すみやかに事の弁ずるを見て、感動して、貴国の役人が言語諸事閑静にても事通弁速やかであるのは、感動にたえることだ、と感心して人に語ったという。彼は学者だから、例外的に率直に実事を語ったのである。彼以外の唐人は、日本に来て、たとえ感動することがあっても、負け惜しみをして、自分の国の「ふ勝手なる事」は、語らないものである。

40唐人舟綱を製する事

41唐人服薬

42李仁山医案

43陸明斎浄瑠理の事

 陸明斎という唐人は、長崎へ時々来るということで、この地の言語にもほぼ通じ、浄瑠璃(原文では浄瑠理)などを語り習って、かの地でも賓客があるときは、この陸明斎をやとって日本浄瑠璃を催し、饗応にするそうである。浄瑠璃はたぶん、遊妓から習ったのであろう。忠臣蔵の三段目が得意だという。ちかごろ松前の者が、唐土に漂着して、このとき陸明斎の舟で送って来た。この漂流者の噂を聞くと、唐で段々に送られ、陸明斎の宅に至ったが、この陸明斎はまことに日本好きであり、その宅などにも日本流の席があって、膳椀に至るまで日本物を用い、日本料理で、もはや本国に帰った気分であったと、厚く饗応に逢ったということである。逗留中、婦人は見なかった。もっとも陸明斎の娘で、十二三の者だけを折々出して、茶などを饗応させたということだ。

44唐の婦人

45唐人の蹴事

 唐人の力量は日本人よりずっと劣り、雲泥の差である。ここをもって、彼の地でも、日本人一人に対して七八人を当たる、という。しかしながら、彼らは身軽で靴で蹴る術がある。日本人が知らないことである。彼の地はすべてこの術がある。日本人はこの術に気づかない。一概に唐人は弱いものだと軽慢し、かつて朝鮮人に蹴られたことがある。かえって朝鮮人一人に、日本人が七八人も蹴られ、ひっくりかえったことがあるという。こういうわけで、唐人と事を論ずるときは、まず相手が蹴るかもしれないということを心得ておくべきである。この、蹴るという事だけを知っておれば、七八人はもとより二三十人であってもたやすく屈服させることができる。

46唐人無力(むりき)の事

47唐人空談  唐人の話すことは、ホラ話やウソが多い。

48唐土の藁の事

49ぜんざい餅の事

50唐人幽霊の事
 唐人は幽霊の沙汰をよくするもの也。唐人館内にも幽霊堂などあり。彼の地にて流行する幽霊は、此の地にて伝ふ腰以下なき幽霊とは違ふ。一身全備したる幽霊にて、履(くつ)の響などあり。又白昼にても、某(それ)は彼所にて逢た、某は此所にて見たという程の事也。勿論確験するには足らざる事なれども、又大海に浮み万里を経て空しく死する者多ければ、其遺恨幽霊とも成べき也。昔時唐人に博識多聞の学者来たる。其名は忘れたり。崎陽の人此唐人に学問せんことを官辺に願ひて、通詞某の宅に寄寓せしむ。数月ありたるに、其隣家の娘、ふ図死たりけるが、かの先生毎夕戸?の際より其隣家を窺ふ。主人あやしみて尋ければ、日本の幽霊をミむと欲す、と答ふ。主人日本にては中々容易に幽霊などはなき事なりと噺ければ、彼先生ふ思儀なる事のやうに思ひけるとなん。是を以て考ふるに、彼地にては幽霊、実に多き事ならんか。いぶかしき事なり。

51唐人流くわんじやう
 唐人此国に来り、死する者往々多ければ、館内ややすれば幽霊徘徊するを以て、時々仏事供養するなり。…

52唐人生物を殺す事
53聖堂
54講堂之額并聯
55唐人墓

58唐人館

111蛮人の学問并三堂の事
 蛮人は風流すくなきものにて諸事有益第一とするものなり。学問などにても、まず医を学ぶ。是人の急なる所なればなり。次に経済を学ぶ。是生々の元なればなり。次に天文地理を学ぶ。彼国の王風なればなり。神仏などの沙汰なし。只天を拝するなり。…





「瓊浦雑綴」の観劇記事。
 大田蜀山人(1749〜1823)は、日本人として最初にコーヒーを長崎で飲んだ話などが有名だが、彼が「乙丑」の年(文化二年=1805年)に唐人屋敷で中国の芝居を見た記録も貴重である。
以下、『大田南畝全集 第八巻』(岩波書店、1986年)pp.514-517より。

○乙丑二月二日、唐館に戯場ありときゝて行て見る。二の門の内に戯台一座を設く。福徳正神の廟の前庭なり。戯台にかけし水引幕に、赤地に縫物あり。戯台の中に古き扁額三つあり。左右は金声玉振の二字づゝ、中の扁は忘れたり。戯台の前の方の欄干に狛犬のごとき彫物むかひたてり。今日は福州のものゝ戯をなすゆへに、南京人にもわかりがたしといふ。船主陳国振はかの国のものにて、予が写し置し戯文を見せしに、了解して扮戯するものを指し、かれは馬明元帥なり、かれは宗林兄弟なりなどいへると、訳司柳屋新兵衛かたれり。琵琶一ツ、銅鑼[欄外。銅鈸子一ツ。清俗紀聞ノ小鈸也。銅鑼は金鑼也]一ツ(同楽館の字みゆ)太鼓一つ(小さし)胡弓四ツにて合奏す。正旦(ワカダンナカタ)小旦(ムスメカタ)のごときもの、末(タチヤク)のごときもの、場に登りて愁歎の体あり。それより戦場の体になりて、馬明元師()は小き旗四本を負ひ、宋(ママ)林兄弟その外十余人、剣をとりて戦ふさま也。一人額の上に【註参照】(色赤し)図のごときものをつけしあり。冑の面なるや、未審。申の刻過る頃に終れり。これより夜戌の刻比にはじまるといふ。火を灯すべきやうにして、扁額一ツ聯二ツ(赤き紙にてはる)戯台の前に出し置り。扁額(ヨコガク)は清歌妙舞の四字、聯は一曲商音分出当年韵事、数声越調装成今古奇観の文字也。程赤城餐して酒肴をすゝむ。(中略)これより、明三日四日にも戯ありといふ。明日手妻つかふものゝ上手出るといふ。(下略)
【註】 原文では、「凸」の字の六つの角に丸みを帯びさせ、字全体を上下さかさにひっくり返した記号が書いてある。
明朝弘治年間有一人、姓蘭名芳艸、祖居河南開封府登豊深人氏生有二子、長子宗林、乃黌門秀士、次子宗秀、早妻亡過、(中略)名為双貴図

列国
 崔子弑斉
三国
 斬樹別庶 走馬薦語葛 加藤思うに、「語葛」は「諸葛(孔明)」の誤りか?
宋朝
 釣亀謀宝
 托夢告廟

 別親過寇
 贈下山
   ●は、リッシンベンの右横に、「白」の下に小さく「八」を添えた漢字
右は紅紙にかきて折しを、前日田口保兵衛清民贈れり。
   坐中示柳屋生   無名氏
 山館春風対玉壺 相逢目撃尽歓娯 人間世上長看戯 総是一場双貴図

(中略)

○乙丑二月三日唐館に做戯あり。
 賜福 回朝 四繍旗 遊街 聞鈴 三侠剣 補缸 斬子 和番 売拳 別妻 打店 走報 救皇娘 頭二聞
右の戯目を紅紙にかきしを見る。此日は手づま遣ひ出て、毛氈の下より品々の物を出せしとぞ。
 二月五日書



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