English Summary of this page is HERE ダイアトニック・アコと 空気を「こねる」楽器たち1998,11,22開設 最新の更新2011-10-23本稿は「アコーディオン・ジャーナル」誌掲載の拙稿に大幅に加筆、HTML化したものです。 姉妹ページ[コンサーティーナ私論]もどうぞ。
キアラン・カーソンが書いていないダイアトニック・アコの優位点を補足すると、リード数が少なくて済むため楽器を軽く丈夫にしあげられること(普通のダイアトニック・ボタン式アコで5キロ以下、コンサーティナで2キロ以下)。調律などメンテも楽で値段も安いこと、なども強みです。 なお、アイルランドの伝統音楽(ケルト、アイリッシュ)でも、アラン・ケリーのようなピアノ・アコ奏者もいることを、ピアノ・アコの名誉のために付け加えておきます。(参考:アイリッシュとスコティッシュの鍵盤式アコ奏者たち) 次に、アコーディオンの親戚たちについての一覧表をあげておきます。
「ダイアトニック・アコ」A book entitled "Accordion Tutor", written by Chikashi Matsubara in 1930s. 「ダイアトニック・アコ」は、歴史も古く、また世界各地の民族音楽と融合したため、クロマチック以上にいろいろなバリエーションがあります。 ダイアトニック・アコの基本形は、右手に旋律用のボタンが、左手には少数のベースボタンがついています(右手のみの機種もあります)。ベースは一応ついているものの、どちらかというと旋律中心の楽器といえます。 右手のボタンが一列のタイプ(1ロー)は、押引異音のボタンが十個くらい特定の調のハーモニカの要領でならんでいて、半音ぬきの「ドレミファ・・・」が弾けます。 二列のもの(2ロー)は、B/CとかD/Gなど調の違うハーモニカを並べたようなもので、半音もカバーできます。 三列のもの(3ロー)は、例えばA/D/G、G/C/Fといった組み合わせで、さらに半音がひきやすくなっています。 これらは程度の差こそあれ、クロマチック式と違い、曲のキーによって楽器を持ちかえる必要があります。自分が弾きたい音楽に適した調の機種を選ぶ必要があります。 気になるお値段ですが、オーダーメイドの手工品は高価ですが、量産品ならば数万円台で手に入ります。日本ではもう作っていませんが、欧米各国では今でもさまざまな機種を作っていて、例えば、ホーナー社の2列ボタン「ポーカーワーク」は「プロ奏者も使っているビギナーズモデル」として人気があります。また、もし使い捨ての玩具感覚で買うというのであれば、韓国製や中国製の数千円台の廉価版もあります。 コンサーティーナ(1)筆者の愛器。バスターリ製40ボタンのアングロ・コンサーティーナ。押引異音式ながら、和音と旋律を同時に弾くことができ、音量もけっこうある。 My Anglo concertina. 40 buttons. Made in Italy. ややカッコつけて言えば「1830年代に発明された、小指一本で持ち上げられる軽さのフリー・ベース・アコーディオン」です。そもそも「アコーディオン(和音の器)」の名称は、1829年にウィーンのシリル・デミアン親子が「音楽の知識のない人でも簡単に弾けるきわめて軽い楽器」として特許登録したことにはじまりますが(渡辺芳也著『アコーディオンの本』75頁参照)、当時の「初心」を今も伝えているのは、子孫たるピアノ式アコではなく、案外、このコンサーティーナかもしれません。 コンサーティーナにもいろいろな種類がありますが、最も普及しているのは、ダイアトニック式であるアングロ・コンサーティーナと、クロマチック式であるイングリッシュ・コンサーティーナの二種類です。 ちなみに「アングロ」というのは、「アングロ・ジャーマン」すなわち「英独」を省略したものです。楽器の外形はイングリッシュ・コンサーティーナと同じだが、ボタン配列はジャーマン・コンサーティーナ(四角く大きなドイツ式コンサーティーナ)と同じ押引異音式を採用していることによる命名です。 気になるお値段ですが、だいたいギターと同じくらいです。イギリスの名職人に特注して何か月(ときには「年」単位)も待つというン十万円から百万円の高級手工品もある一方、一万円台からの廉価な量産品もあります。 コンサーティーナ(2)・アングロタイプのボタン配列についてアングロ・コンサーティーナのボタン数は10(左右各一列)、20(左右各二列)、30(左右各三列)、40(左右各三列)など機種によってさまざまです。当然、ボタン数が多い方が、音域も広く半音も出しやすくなります。最も普及しているのは30ボタン・タイプです。 ボタン配列はかなり合理的なので、習得は容易です。例えば3列ボタンの場合、左手の低音部と右手の高音部に、それぞれ上中下三列に分かれて並んでいます。中と下の列はそれぞれCとGの2本のハーモニカにあたります。最上列は半音等を出すための「アクシデンタル」ボタンです。 各ボタン列の数や調は、機種により違いますが、下列および中列のボタン配列は基本的にハーモニカ式という点で共通しています。 要注意なのは(3列の場合にかぎりますが)右手の最上部である「アクシデンタル」の配列法です。これは「Lachenalシステム」(ないし「Bastariシステム」)と「Jeffreyシステム」とでは全く異なるのです。 Lachenalシステムの方はめったに使わない高音までカバーしていますが、最高音までの音がとびとびで弾きにくいという欠点があります。Jeffreyシステムの方は音域拡張を妥協しているぶん、音がなめらかにつながっています。このどちらを選ぶかは演奏者の好みによります。このほか、オーダーメイドの特注品では、アクシデンタルについて自分独自のボタン配列を指定するプレイヤーも多いようです。 この絵の解説はこちら Click here. コンサーティーナ(3)・アングロタイプによる和音演奏について日本では、コンサーティーナは独奏楽器としてより、トラッド音楽のセッションやロック音楽のライブなどで合奏に使う場合が多く、結果として旋律演奏中心の楽器のようになってしまっています。しかしもちろん「コンサーティーナ」(日本語に直訳すると「演奏会子」!?)という名前のとおり、独奏楽器としての演奏能力も持っています。 イングリッシュはもちろん、アングロ・コンサーティーナでも(ボタン数の多い機種に限りますが)、旋律と和音伴奏を同時にかなでることができます。たとえば、左手(音が低い方)で、バンドの外に出している親指をのぞく4本の指で適切な形を作り、上中下三列にまたがるようにボタンを押せば、CやGだけでなく、AマイナーとかEメジャーとか、任意のいろいろな和音を出すことができます(セブンスやディミニッシュ、オーギュメントなども可能)。これと同時に、右手の高音部で旋律を弾けば、ピアノ式アコ的な演奏が楽しめるわけです。 ただしダイアトニックという性質上、同じ和音を出そうとする場合でも、蛇腹を押すときときと引くときで、指の形=ボタンの組み合わせを変えねばなりません。その結果、たとえば同じCメジャーでも、押すときは重厚、引くときはきゃしゃな感じになったります。ピアノ式アコの左手のストラデラ・ベースに慣れている人には、最初ちょっと面倒くさいです。逆に考えると、同じコード伴奏でも、あたかも美人の横顔で左をむいたときと右をむいたときに微妙に違うような、陰影の違いを表現することができるのです。 ちなみに、コンサーティーナの「指形コード・ブック」のようなものは海外にも存在しません(アクシデンタル・ボタンの配列が機種によって違うため)。プレイヤーがそれぞれ独自に工夫する必要があります。 以上、言葉で説明すると難しいですが、案ずるより生むがやすし。実際に楽器を手にとって弾いてコツさえつかめば割合簡単です。 筆者が愛用しているのは、イタリアのバスターリ社製の40ボタンのアングロ・コンサーティナです。押引異音のボタンが40個ということは、単純計算でのべ80音(!)も出る計算になります(実際には重複があるので全体の音域はそれよりかなり狭くなります)。ダイアトニックといえど40個もボタンがあれば、半音も豊富に出せるので、旋律だけでなく、いろいろな和音を作ることができます。やや誇張して言えば「小指で持ち上げられるフリーベース・アコーディオン」とも呼ぶべき高度な演奏能力を持っているのです。 わずか1.5キログラムの重さの楽器のくせに、ソロで「(スメタナの)モルダウ」「リリー・マルレーン」「魔女の宅急便」「となりのトトロ」など和音伴奏もつきで演奏できてしまうというスグレモノです。 しかも演奏姿勢は自由。散歩しながら弾くもよし。テープルの下に両手を入れてこっそり弾いて相手を驚かせるもよし。ヨーロッパのサーカスでは、ピエロがこの楽器を弾きながら一輪車に乗ったりします。(ぼくは一輪車に乗れません) 日本語によるコンサーティーナの教則本は公刊されていませんが、蛇腹操作はアコの要領で、ボタン操作はハーモニカ配列なので、我流でもけっこう弾けてしまいます。もっとも、アイリッシュ音楽のアングロ・コンサーティーナの達人ノエル・ヒル(Noel Hill)のような超絶技巧を身につけるためにはン十年の修練が必要。小粒ながら、入り口は広く奥が深い楽器です。 コンサーティーナ(4)・いつでもどこでもこの六角形の小さな楽器は、ハーモニカのような音色をかなで、形や動きが絵になるので、漫画週刊誌の表紙のイラストになったり、NHKの朝の連続TVドラマ「やんちゃくれ」にチョイ出したり、思わぬところで見かけます。中でも傑作なのは、いまテレビで放映中のグリコの「絹練り」チョコレートのCMで、若い女性が(撮影用に大型化したつくりものの)コンサーティナで空気をねっている(?)姿でしょう。たしかにこの楽器は、両手の中で空気の「ねばり」を感じつつ、うどん生地をこねるように蛇腹の中から音をこね出すという感触が味わえます。 たまにバンドネオンと混同する人がいますが、大きさも形も(バンドネオンは四角)音色もボタン配列も、全く違います。バンドネオンはくせのある楽器で、たとえば横森良造さんばりにニコニコ笑って弾く人はめったにいません。一方、コンサーティーナは誰がいつ手にとってもサマになります。実際、長いあいだ、船乗りは港の酒場で、兵隊は冷たいざんごうの中で、民族衣装の少女は春のダンスの輪の中で、漫画雑誌の表紙のトマト男は煙突のうえで(?)、楽しい曲や悲しい歌を、この両手の中に入る小さな楽器で弾いてきたのです。 日本での演奏者、情報収集法など市場が小さい日本では、ダイアトニック蛇腹楽器だけでメシが食べられるプロ奏者はまだいませんが、CDを出したり、演奏法を教えていらっしゃる方はいます(米山永一さん、守安功・雅子夫妻、吉田文夫さん、坂田進一(ここをクリック)さんなど)。 またダイアトニック蛇腹楽器愛好家の交流の場として、トラッド音楽のライブ会場や、合宿(毎年夏に滋賀県高島郡高島町で行われるアイリッシュ・トラッド・キャンプが有名)などがあります。 このほか、音源の一つとしてダイアトニック蛇腹楽器を活用するバンドも増えており、例えば「エグザイル」(大阪)や「近世雑楽団・エストラーダ」(徳島)がそうです。「第12回ビバ・アコ」(大阪)でも、ピアノ式アコにまじって、ダイアトニック・アコ(大垣良雄さん)やコンサーティーナの演奏も見られました。 残念ながら、日本語によるダイアトニック・アコやコンサーティーナの教則本は公刊されていませんし、全国的な組織もありませんが、これを補う情報収集源として「インターネット」の「ホームページ」があります。なかでも小泉(瀧谷)真樹さんによる「メロディオンのホームページ」(メロディオンとコンサーティーナのサイト)は内容が充実しており、日本テレビの全国放送番組で、ご夫妻の演奏とこのホームページが紹介されたことがあるほどです。 みのりんさんのふわ☆ふわ でいこう!では、コンサーティーナを弾くミッフィーと楽器の解説が読めます。 ZENさんのZEN's Roomでは、コンサーティーナによるオリジナル曲の演奏を聴くことができます。 また、コンサーティーナのウェブ・リングもあります。 今の時代も、なかなか捨てたもんじゃありませんね。 [google「コンサーティーナ」検索結果] [ディアトニック・アコのサイトのリンク集] [Accordion Top Page] |