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ダイアトニック・アコと
コンサーティーナについて

空気を「こねる」楽器たち

1998,11,22開設 最新の更新2011-10-23

本稿は「アコーディオン・ジャーナル」誌掲載の拙稿に大幅に加筆、HTML化したものです。
姉妹ページ[コンサーティーナ私論]もどうぞ。

コンサーティーナって、要するにこんな楽器です!!
YouTubeで見る  再生リストhttp://www.youtube.com/playlist?list=PL6F41BFF8F8A76C34

別の動画(リアル・プレイヤー専用)↓
 【ここをクリックすると演奏の動画が見られます】
 (ストリーミング、RealOne Player、45Kbps、51秒)。
 曲はスメタナのモルダウで、楽器はバスターリのダイアトニック・コンサーティーナ(=アングロ・コンサーティーナ)、C/G、40ボタンです(詳しくはこちら)。
 RealOne Playerの無料配布版・有料版・体験版はhttp://www.jp.real.com/からダウンロードできます。
東京・池袋にて
2007.9.23
concertina

ダイアトニック・アコを弾くスナフキン。

クリックすると拡大。

ダイアトニック、日本でも復活?



戦前の国産ダイアトニック・アコーディオン(トンボ製「オリンピック」)を弾く筆者。
The founder playing a one-row diatonic accordion Tombo "Olympic" which was made in Japan in 1930s.



 ダイアトニック式蛇腹楽器はさまざまな種類があります。蛇腹を押すときと引くときとで一つのボタン(鍵盤式はありません)から違う音が出る、というしくみは共通しています。
 日本でも戦前は、いかにも「手風琴(てふうきん)」という感じの国産の小型のダイアトニック・アコーディオン(当時は「アッコーヂョン」と表記していました)が主流でした。
 いま若い世代を中心に、日本でもこうしたエスニック音楽のダイアトニック式蛇腹楽器が、静かなブームになっています。

こだわりの兄「ダイアトニック」と
つぶしのきく弟「クロマチック」



二列ボタンのダイアトニック・アコ
ホーナー社製「エリカ」、C/#C

 アコーディオンなど蛇腹楽器(じゃばらがっき)の一族は、
  ダイアトニック(diatonic。「ディアトニック」とも。押引異音式)
という兄と、
  クロマチック(chromatic。押引同音式)
という弟の、二つの系統に分かれます。

 普通の音楽用語としての「ダイアトニック」は本来「全音階」つまりピアノの鍵盤で言うと黒鍵をのぞいた白鍵だけのような音階を指しますが、こと蛇腹楽器に関しては習慣的に「同じボタンを押しても蛇腹を押すときと引くときとで違う音が出る楽器」というハーモニカ的ボタン配列の楽器を指します。
 アコの歴史は1820年代に始まりますが、はじめはみなダイアトニック式でした。クロマチック式アコの開発はそれよりずっと遅れ、鍵盤式(ピアノ式)アコの普及に至ってはようやく20世紀に入ってからのことです。
 現代の日本では鍵盤式アコ(これもクロマチックの一種です)の天下ですが、世界的にみるとダイアトニック式も健在です。例えば、
  • タンゴ(tango)におけるダイアトニック式のバンドネオン(bandoneon)
  • アイリッシュ・トラッド(Irish trad)におけるメロディオン(melodeon)とコンサーティーナ(concertina)。ちなみにスズキのピアノハーモニカ「メロディオン」は、これとまったく違う楽器です。念のため。
  • その他、ケイジャン(Cajun)、ザディコ(Zydeco)、テックス・メックス(Tex-Mex)、アルペン(Alpen)などにおける独特のダイアトニック・ボタン式アコ

などです。
 ダイアトニック式は奏法の特性上、出せない音(特に半音)が多く、転調などが不自由で、あまり「つぶし」はききません。むしろ「こだわり」の楽器といえます。
 バンドネオンの、あの暗殺者のナイフのような響き。アイリッシュ・コンサーティーナのしゃくりあげるような速弾き。逆に、万能選手型の鍵盤式アコでこれらの楽器のパートを模倣しようとしても、なかなか一筋縄にはゆかないのです。(参考:鍵盤式アコによるアイリッシュの演奏 by 筆者)
 この点については、キアラン・カーソン氏が、いかにもアイルランド的な魅力ある毒舌で書いています。筆者はピアノ式アコも弾く者として、彼の意見に全面的に賛同するわけではありませんが、面白いので、少々長くなりますがご紹介します。
 特にピアノ・アコーディオンには、もって生まれた多くの不利な点がある。重いし、扱いにくいし、しばしば伝統音楽にふさわしくない幅広いヴィブラートがかかるように作られている。(中略)そのうえ、この楽器が、蛇腹を押しても引いても同じ音の出る楽器であるため、ダンスの音楽になくてはならない「メリハリ」をつけることが難しい。それに、ダンスの音楽はテンポが速いので、この楽器で「ひどい音」をちりばめることなく、キーボードの端から端まで指を動かして演奏するのは困難である。(中略)
 おそらく、ピアノ・アコーディオンそれ自体が悪い思いつきである。(中略)
 「ボタン・アコーディオン」は「ピアノ・アコーディオン」とは異なる楽器である。この楽器は、蛇腹を押した時と引いた時で違う音が出る。そのことによって素晴しい「メリハリ」をつけることができ、指の動きも節約できる。(中略)
 メローディオンにはキー(ボタン)が十個あり、ダイアトニック(全音階)上の二十の音が出る。「ボックス」とも呼ばれるこの楽器の左手側には、スプーン型のキーが二つついており、簡単なベースが演奏できる。メローディオンは実に単純な楽器であるが、そのできることがとても限られているところが、さまざまな点においてダンスの音楽の演奏に適している。

Ciaran Carson著、守安功訳『アイルランド音楽への招待』70頁-71頁より。


 キアラン・カーソンが書いていないダイアトニック・アコの優位点を補足すると、リード数が少なくて済むため楽器を軽く丈夫にしあげられること(普通のダイアトニック・ボタン式アコで5キロ以下、コンサーティナで2キロ以下)。調律などメンテも楽で値段も安いこと、なども強みです。
 なお、アイルランドの伝統音楽(ケルト、アイリッシュ)でも、アラン・ケリーのようなピアノ・アコ奏者もいることを、ピアノ・アコの名誉のために付け加えておきます。(参考:アイリッシュとスコティッシュの鍵盤式アコ奏者たち)

 次に、アコーディオンの親戚たちについての一覧表をあげておきます。

蛇腹楽器一族の系譜(主要メンバーのみ)

戦前の日本は貧しく、高価なピアノ式アコが買えたのは一部のプロのみだった。写真の解説はここ



鍵盤式(ピアノ式)アコ

(Piano Accordion)
 押引同音式。現在の日本で普通「アコーディオン」というとこのタイプ。国産品も現在はこのタイプのみ。右手の鍵盤部の配列はもちろん世界共通だが、狭(きょう)鍵盤タイプもある。左手のベース・ボタン配列はいろいろ。小型のものもあるが、日本で普及しているのは右手41鍵盤、左手120ボタン・ストラデラベースのタイプで、重さは10キログラム前後。フリーベース・ストラデラベース兼用型となるとさらに重くなり、重さ15キロに達する機種もある。鍵盤式アコが普及している国は、アメリカや中国、日本など「アコーディオン途上国」が多い。

クロマチック・ボタン式アコ

(Chromatic Button Accordion)
 単に「クロマチック・アコ」とも言う。鍵盤式よりもクロマチック・アコの方が、人間工学的にはすぐれた設計なので、ヨーロッパのアコ先進諸国では鍵盤式をおさえてこちらの方が普及している。右手のボタン配列はB式とC式の二種類がある。ロシアのバヤン(Bayan)もこの一種。左手のベース配列は、鍵盤式と同様でいろいろある。

ダイアトニック式アコ

(Diatonic Accordions)
 ほとんど全部がボタン式。ボタン数はいろいろで、ボタン配列もマチマチ。左手のベース・ボタンは一般に少なく、出せる伴奏和音の数は限られる。ちなみに現代中国語で「手風琴shoufengqin」というとアコーディオン全種を指すが、日本語で「手風琴(てふうきん)」と言う場合は、本来、ダイアトニック式アコーディオン(戦前は「アッコーヂョン」と表記)のみを指すのが正しい用法。
  • 「一列ダイアトニック」(1 Row Diatonic) 右手の旋律部のボタンが十個(前後)一列に、ハーモニカ的に並んでいる。発明当初のアコの面影をのこすタイプ。全音しか弾けない。
  • 「二列ダイアトニック」(2 Row Diatonic) 右手のボタンが二列に並び、半音の演奏も可能。二列の「調」の組み合わせはB/C配列、C/G配列などさまざま。
  • 「三列ダイアトニック」(3 Row Diatonic) 右手のボタンが三列に並び、半音の演奏がさらに容易。
  • メロディオン(melodeon) イギリスのトラッド音楽におけるダイアトニック式アコの呼び方。ただし用語法は統一されておらず、一列ダイアトニックのみをメロディオンと呼び、その他を「伝統的アコーディオン」と呼ぶイギリス人もいれば、二列B/C調ダイアトニック・アコもふくめてメロディオンと呼ぶイギリス人もいる(地方差が大きい)。
  • その他、オルガネット、ヘリコン、シャンドなど特化したタイプも豊富にある。



コンサーティーナ

Concertinas
 演奏会を意味する英語「コンサート」を女性化した名称。両手の中ではさんで弾く。六角形(まれに八角形)の木製胴ふたつの間に、蛇腹(皮製、布製などさまざま)がはさまっていて、左右の胴体それぞれにボタンがついている。ボタン配列によりいろいろな種類に分かれる。音源であるリードも、単リードのほか、MM(ミュゼット風)、ML(バンドネオン風)など機種により異なる。一般にアコーディオンのような「音色切り替えスイッチ」は無い。
 以下の各種類があり、それぞれ奏法や音色にかなり個性がある。
  • アングロ・ジャーマン・コンサーティーナ」(Anglo-German Concertina)
     特長:習得が容易なわりに、奥深いテクニックもある。押引の繰り返しでメリハリのある奏法が可能。アイリッシュ音楽の演奏にも最適。
    ダイアトニック式。別名「アングロ・サクソン・コンサーティーナ」あるいは単に「アングロ・コンサーティーナ」とも言う。1850年代にイギリスのジョージ・ジョーンズ(George Jones)が開発した。楽器の命名の由来は「英(アングロ)と独(ジャーマン)の折衷式」の意で、楽器の外形は英国式コンサーティーナのまま、ボタン・システムはドイツ式のを導入したことから。アイリッシュ(ケルト)音楽など民族音楽でも多用され、世界で最も広く普及しているコンサーティーナ。以下で詳しく解説する。
  • イングリッシュ・コンサーティーナ(English Concertina)
     特長:なめらかな奏法に最適。半音も全てカバーされており、音域も広い。
     クロマチック式。1833年にイギリスの科学者チャールズ・ホイートストン(Charles Wheatstone)が発明。半音も自在に弾ける。発明当初から洗練された完成形だったため、今でもほとんど変化していない。
  • ジャーマン・コンサーティーナ(German Concertina)
     特長:ヨーロッパの歴史を感じさせる易しい音色。
     ダイアトニック式。1834年ドイツで開発され、のちにバンドネオンの原形となった大型のコンサーティーナ。現在では量産されておらず、演奏者もまれ。ときどき中古楽器市場で出物がある。
  • トライアンフ・コンサーティーナ(triumpf concertina)
     特長:習得は難しいが、そのぶん学び甲斐がある希少楽器。
     クロマチック式。ボタン配列がイングリッシュ・コンサーティーナよりさらに洗練されている。まれなタイプだが、日本での演奏者がいないわけではない。ここをクリック
  • デュエット・コンサーティナ(Duet Concertina)
     特長:楽器通には珍しがられる希少性。
     右手が旋律用ボタン、左手がコード伴奏ボタンになっているタイプ。めったに見かけない。
 上記の各種類のどのタイプのコンサーティーナを使うかは、演奏者のコンセプトや、弾きたい音楽の特性により決定される。
 上記のどのタイプが優れていて、どのタイプが劣る、というような優劣の問題ではない。念のため。

バンドネオン

(Bandoneon)  ダイアトニック式。ドイツ式コンサーティーナをもとにバンドが発明。「バンドネオン」という名前は、彼の死後に定着したもの。ダイアトニック蛇腹楽器の中では最も大型のものの一つ。ドイツでは船員、炭鉱夫などを中心にナチス時代まで広く普及し、民俗音楽のほか、独奏楽器としてバッハのオルガン曲や賛美歌の伴奏にも使われていたが、第二次大戦後急速にすたれた。歴史的にドイツと関係の深い南米、特にアルゼンチンでは今もよく使われる。日本ではバンドネオンをタンゴの合奏専用楽器と誤解している人もいるが、あのアストル・ピアゾラ(Astor Piazzolla,1992没)でさえ若いころはこの楽器でモーツアルトなどを弾いていたように、本来はクラシック音楽も弾ける高度な独奏楽器である。ボタン配列を合理化して弾きやすくしたクロマチック・タイプ(押引同音式)もある。






「ダイアトニック・アコ」



1930年代に出版された故・松原千加士(ちかし)著『最新手風琴(アツコーヂヨン)独習』。一列ダイアトニック・アコのための教則本。
A book entitled "Accordion Tutor", written by Chikashi Matsubara in 1930s.



 「ダイアトニック・アコ」は、歴史も古く、また世界各地の民族音楽と融合したため、クロマチック以上にいろいろなバリエーションがあります。
 ダイアトニック・アコの基本形は、右手に旋律用のボタンが、左手には少数のベースボタンがついています(右手のみの機種もあります)。ベースは一応ついているものの、どちらかというと旋律中心の楽器といえます。
 右手のボタンが一列のタイプ(1ロー)は、押引異音のボタンが十個くらい特定の調のハーモニカの要領でならんでいて、半音ぬきの「ドレミファ・・・」が弾けます。
 二列のもの(2ロー)は、B/CとかD/Gなど調の違うハーモニカを並べたようなもので、半音もカバーできます。
 三列のもの(3ロー)は、例えばA/D/G、G/C/Fといった組み合わせで、さらに半音がひきやすくなっています。
 これらは程度の差こそあれ、クロマチック式と違い、曲のキーによって楽器を持ちかえる必要があります。自分が弾きたい音楽に適した調の機種を選ぶ必要があります。
 気になるお値段ですが、オーダーメイドの手工品は高価ですが、量産品ならば数万円台で手に入ります。日本ではもう作っていませんが、欧米各国では今でもさまざまな機種を作っていて、例えば、ホーナー社の2列ボタン「ポーカーワーク」は「プロ奏者も使っているビギナーズモデル」として人気があります。また、もし使い捨ての玩具感覚で買うというのであれば、韓国製や中国製の数千円台の廉価版もあります。




 

コンサーティーナ(1)



筆者の愛器。バスターリ製40ボタンのアングロ・コンサーティーナ。押引異音式ながら、和音と旋律を同時に弾くことができ、音量もけっこうある。
My Anglo concertina. 40 buttons. Made in Italy.



 ややカッコつけて言えば「1830年代に発明された、小指一本で持ち上げられる軽さのフリー・ベース・アコーディオン」です。そもそも「アコーディオン(和音の器)」の名称は、1829年にウィーンのシリル・デミアン親子が「音楽の知識のない人でも簡単に弾けるきわめて軽い楽器」として特許登録したことにはじまりますが(渡辺芳也著『アコーディオンの本』75頁参照)、当時の「初心」を今も伝えているのは、子孫たるピアノ式アコではなく、案外、このコンサーティーナかもしれません。
 コンサーティーナにもいろいろな種類がありますが、最も普及しているのは、ダイアトニック式であるアングロ・コンサーティーナと、クロマチック式であるイングリッシュ・コンサーティーナの二種類です。
 ちなみに「アングロ」というのは、「アングロ・ジャーマン」すなわち「英独」を省略したものです。楽器の外形はイングリッシュ・コンサーティーナと同じだが、ボタン配列はジャーマン・コンサーティーナ(四角く大きなドイツ式コンサーティーナ)と同じ押引異音式を採用していることによる命名です。
 
 気になるお値段ですが、だいたいギターと同じくらいです。イギリスの名職人に特注して何か月(ときには「年」単位)も待つというン十万円から百万円の高級手工品もある一方、一万円台からの廉価な量産品もあります。

コンサーティーナ(2)・アングロタイプのボタン配列について



 アングロ・コンサーティーナのボタン数は10(左右各一列)、20(左右各二列)、30(左右各三列)、40(左右各三列)など機種によってさまざまです。当然、ボタン数が多い方が、音域も広く半音も出しやすくなります。最も普及しているのは30ボタン・タイプです。
 ボタン配列はかなり合理的なので、習得は容易です。例えば3列ボタンの場合、左手の低音部と右手の高音部に、それぞれ上中下三列に分かれて並んでいます。中と下の列はそれぞれCとGの2本のハーモニカにあたります。最上列は半音等を出すための「アクシデンタル」ボタンです。
 各ボタン列の数や調は、機種により違いますが、下列および中列のボタン配列は基本的にハーモニカ式という点で共通しています。
 要注意なのは(3列の場合にかぎりますが)右手の最上部である「アクシデンタル」の配列法です。これは「Lachenalシステム」(ないし「Bastariシステム」)と「Jeffreyシステム」とでは全く異なるのです。
 Lachenalシステムの方はめったに使わない高音までカバーしていますが、最高音までの音がとびとびで弾きにくいという欠点があります。Jeffreyシステムの方は音域拡張を妥協しているぶん、音がなめらかにつながっています。このどちらを選ぶかは演奏者の好みによります。このほか、オーダーメイドの特注品では、アクシデンタルについて自分独自のボタン配列を指定するプレイヤーも多いようです。

この絵の解説はこちら
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コンサーティーナのイラスト

コンサーティーナ(3)・アングロタイプによる和音演奏について



 日本では、コンサーティーナは独奏楽器としてより、トラッド音楽のセッションやロック音楽のライブなどで合奏に使う場合が多く、結果として旋律演奏中心の楽器のようになってしまっています。しかしもちろん「コンサーティーナ」(日本語に直訳すると「演奏会子」!?)という名前のとおり、独奏楽器としての演奏能力も持っています。
 イングリッシュはもちろん、アングロ・コンサーティーナでも(ボタン数の多い機種に限りますが)、旋律と和音伴奏を同時にかなでることができます。たとえば、左手(音が低い方)で、バンドの外に出している親指をのぞく4本の指で適切な形を作り、上中下三列にまたがるようにボタンを押せば、CやGだけでなく、AマイナーとかEメジャーとか、任意のいろいろな和音を出すことができます(セブンスやディミニッシュ、オーギュメントなども可能)。これと同時に、右手の高音部で旋律を弾けば、ピアノ式アコ的な演奏が楽しめるわけです。
 ただしダイアトニックという性質上、同じ和音を出そうとする場合でも、蛇腹を押すときときと引くときで、指の形=ボタンの組み合わせを変えねばなりません。その結果、たとえば同じCメジャーでも、押すときは重厚、引くときはきゃしゃな感じになったります。ピアノ式アコの左手のストラデラ・ベースに慣れている人には、最初ちょっと面倒くさいです。逆に考えると、同じコード伴奏でも、あたかも美人の横顔で左をむいたときと右をむいたときに微妙に違うような、陰影の違いを表現することができるのです。
 ちなみに、コンサーティーナの「指形コード・ブック」のようなものは海外にも存在しません(アクシデンタル・ボタンの配列が機種によって違うため)。プレイヤーがそれぞれ独自に工夫する必要があります。
 以上、言葉で説明すると難しいですが、案ずるより生むがやすし。実際に楽器を手にとって弾いてコツさえつかめば割合簡単です。

 筆者が愛用しているのは、イタリアのバスターリ社製の40ボタンのアングロ・コンサーティナです。押引異音のボタンが40個ということは、単純計算でのべ80音(!)も出る計算になります(実際には重複があるので全体の音域はそれよりかなり狭くなります)。ダイアトニックといえど40個もボタンがあれば、半音も豊富に出せるので、旋律だけでなく、いろいろな和音を作ることができます。やや誇張して言えば「小指で持ち上げられるフリーベース・アコーディオン」とも呼ぶべき高度な演奏能力を持っているのです。
 わずか1.5キログラムの重さの楽器のくせに、ソロで「(スメタナの)モルダウ」「リリー・マルレーン」「魔女の宅急便」「となりのトトロ」など和音伴奏もつきで演奏できてしまうというスグレモノです。
 しかも演奏姿勢は自由。散歩しながら弾くもよし。テープルの下に両手を入れてこっそり弾いて相手を驚かせるもよし。ヨーロッパのサーカスでは、ピエロがこの楽器を弾きながら一輪車に乗ったりします。(ぼくは一輪車に乗れません)
 日本語によるコンサーティーナの教則本は公刊されていませんが、蛇腹操作はアコの要領で、ボタン操作はハーモニカ配列なので、我流でもけっこう弾けてしまいます。もっとも、アイリッシュ音楽のアングロ・コンサーティーナの達人ノエル・ヒル(Noel Hill)のような超絶技巧を身につけるためにはン十年の修練が必要。小粒ながら、入り口は広く奥が深い楽器です。

コンサーティーナ(4)・いつでもどこでも



 この六角形の小さな楽器は、ハーモニカのような音色をかなで、形や動きが絵になるので、漫画週刊誌の表紙のイラストになったり、NHKの朝の連続TVドラマ「やんちゃくれ」にチョイ出したり、思わぬところで見かけます。中でも傑作なのは、いまテレビで放映中のグリコの「絹練り」チョコレートのCMで、若い女性が(撮影用に大型化したつくりものの)コンサーティナで空気をねっている(?)姿でしょう。たしかにこの楽器は、両手の中で空気の「ねばり」を感じつつ、うどん生地をこねるように蛇腹の中から音をこね出すという感触が味わえます。
 たまにバンドネオンと混同する人がいますが、大きさも形も(バンドネオンは四角)音色もボタン配列も、全く違います。バンドネオンはくせのある楽器で、たとえば横森良造さんばりにニコニコ笑って弾く人はめったにいません。一方、コンサーティーナは誰がいつ手にとってもサマになります。実際、長いあいだ、船乗りは港の酒場で、兵隊は冷たいざんごうの中で、民族衣装の少女は春のダンスの輪の中で、漫画雑誌の表紙のトマト男は煙突のうえで(?)、楽しい曲や悲しい歌を、この両手の中に入る小さな楽器で弾いてきたのです。




日本での演奏者、情報収集法など



 市場が小さい日本では、ダイアトニック蛇腹楽器だけでメシが食べられるプロ奏者はまだいませんが、CDを出したり、演奏法を教えていらっしゃる方はいます(
米山永一さん、守安功・雅子夫妻、吉田文夫さん、坂田進一(ここをクリック)さんなど)。
 またダイアトニック蛇腹楽器愛好家の交流の場として、トラッド音楽のライブ会場や、合宿(毎年夏に滋賀県高島郡高島町で行われるアイリッシュ・トラッド・キャンプが有名)などがあります。
 このほか、音源の一つとしてダイアトニック蛇腹楽器を活用するバンドも増えており、例えば「エグザイル」(大阪)や「近世雑楽団・エストラーダ」(徳島)がそうです。「第12回ビバ・アコ」(大阪)でも、ピアノ式アコにまじって、ダイアトニック・アコ(大垣良雄さん)やコンサーティーナの演奏も見られました。
 残念ながら、日本語によるダイアトニック・アコやコンサーティーナの教則本は公刊されていませんし、全国的な組織もありませんが、これを補う情報収集源として「インターネット」の「ホームページ」があります。なかでも小泉(瀧谷)真樹さんによる「メロディオンのホームページ」(メロディオンとコンサーティーナのサイト)は内容が充実しており、日本テレビの全国放送番組で、ご夫妻の演奏とこのホームページが紹介されたことがあるほどです。
 みのりんさんのふわ☆ふわ でいこう!では、コンサーティーナを弾くミッフィーと楽器の解説が読めます。
 ZENさんのZEN's Roomでは、コンサーティーナによるオリジナル曲の演奏を聴くことができます。
 また、コンサーティーナのウェブ・リングもあります。
 今の時代も、なかなか捨てたもんじゃありませんね。


[アングロ・コンサーティーナ私論]
[google「コンサーティーナ」検索結果] [ディアトニック・アコのサイトのリンク集]

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