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高温高圧下における物質の性質を決定し、地球物理的観測と比較することで、地球内部の構造を推定することを目指しています。 ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた高温高圧その場電気伝導度測定システムの構築や、放射光施設における放射光X線を用いた測定に取り組んでいます。 現在の地球がどのような内部構造・化学組成をもっているのかを理解することを目標としています。 例えば、NaCl水溶液の電気伝導度を高温高圧下で測定し、観測と比較することで沈み込む帯における海水の還流経路を明らかにしました(図1右上、Sinmyo & Keppler 2017)。 また、ブリッジマナイトという鉱物の電気伝導度を測定し、地球内部最大層である下部マントルの化学組成を推定しました(図1右下、Sinmyo et al. 2014)。 その結果、下部マントルの化学組成は上部マントルと似ているのではないかと推定できました。 また、新しく発見された高圧下でのみ安定な酸化鉄相の電気伝導度を高圧力下でその場測定し、地球内部に存在する酸素雰囲気の不均一構造が、電気伝導度測定で発見できるのではないかと提案をしました(Maitani et al. 2022)。

図1 地球内部の構造解明

図1 地球内部の構造解明



地球内部物質の安定相関係や元素分配係数、遷移元素の価数状態を決定し、地質学・地球化学的分析の結果と比較することで、地球内部の進化プロセスを制約することを目的としています。 ダイヤモンドアンビルセルや大型プレスで高温高圧を発生させ、得られた試料に対し、X線回折測定や、様々な分光測定、透過型電子顕微鏡を用いた分析を行っています。 物質間元素分配や化学種を決定することで、地球内部の安定相関係や揮発性元素循環を推定し、46億年を通した物質進化を理解することを目標としています。 例えば透過型電子顕微鏡を用いることで、高温高圧状態から回収した超微小鉱物の結晶構造・化学組成・価数をナノメートルスケールで決定することができます(Sinmyo et al. 2011, 2013)。 他にもX線回折測定や様々な分光測定を行うことで、高温高圧下で物質がもつ結晶構造を決定することができます(図2)。 例えば下部マントル深部へ高酸素雰囲気物質が大規模に持ち込まれると、これまで知られていなかった新しい酸化鉄相が安定となり、共融点が大幅に下がることが明らかになりました(Sinmyo et al. 2016, 2019)。 酸化還元状態と揮発性元素循環が、地球内部の進化に大きな影響を与えることが示されています。

図2 地球内部物質の進化解明

図2 地球内部物質の進化解明



地球内部は最大で360万気圧6000 ℃に達するような非常に高い温度圧力の世界ですので、それを再現する実験には常に技術的困難が付きまといます。 少しでも精度の高いデータが得られるような高温高圧実験手法を日々模索しています。 ダイヤモンドアンビルセルにおける代表的な高温発生手法であるレーザー加熱法の改良や、比較的新しい抵抗加熱法の高度化に挑戦しています。 内部抵抗加熱式ダイヤモンドアンビルセルという手法では導電体をセル外部まで導通させ、電圧を印可することで抵抗加熱を行うことができます(図3a-c)。 広く用いられているレーザー加熱法と比べ安定かつ均質な加熱が可能となると期待されます。 この手法で世界記録の2倍以上に相当する温度圧力を発生させることに成功し、地球核の温度構造に制約を与えることに成功しました(Sinmyo et al. 2019)。 他にも、流体の研究に特化したダイヤモンドアンビルセルシステムを開発し、これまで測定が難しかった沈み込む海水の高温高圧その場電気伝導度測定に成功しました(図3d、Sinmyo & Keppler 2017)。

図3 高温高圧実験手法の開発

図3 高温高圧実験手法の開発