レーザ誘起蛍光法(LIF)


流体に混入された物質が温度や濃度に依存した明るさや色を示せば、それらを画像として捉えることで温度や濃度の分布を計測することができる。 水の濃度や温度の計測に多用される方法であるレーザ誘起蛍光法(LIF, laser induced fluorescence)はそんな画像計測の代表的な手法である。

蛍光染料と蛍光発光

レーザ誘起蛍光法による水流の可視化や温度・濃度計測ではキサンテン系の有機蛍光染料が用いられる。下図は代表的染料であるローダミンBである。25gで3000円程度と安価であり、緑色の褐色粉末として売られている。


これを耳かき一杯とって水に溶かすと下図のようにピンク色なる。スプーン一杯などいれたら真っ黒けになるくらい染色性が高い。


このローダミンB水溶液にNd-YAGレーザを照射すると、下図のようにとても良く光る。


単位微小体積の蛍光染料が単位時間あたりに放射する光エネルギI [W/m3]は、励起光の光子を吸収する分子の単位体積単位時間における数に比例し、次式で表される。



ここで、I0[W/m2]は微小体積に入射する励起光束、C[g/m3]は蛍光染料の濃度、φ は吸収された励起光の蛍光発光に寄与する割合を示す量子収率、ε [m2/g]は入射した励起光強度に対して励起光が単位濃度の溶液を単位長さだけ通過するときに吸収される光強度の割合を示す吸光係数である。

 

染料濃度と励起光の減衰(Beer Lambertの法則

光束I0[W/m2]の励起光が有限体積の蛍光染料溶液に入射し、溶液をx[m]通過したところでの励起光束aは、

a
で与えられる。これはBeer-Lambertの法則として知られており、入射した光が溶液を通過する間に吸収され減衰することを表している。よって、有限体積を通過した励起光による蛍光の放射エネルギは、
a

となる。

濃度や温度の計測

励起光強度aが一定であり、また、通過距離xあるいは濃度Cが小さくa(一定)と見なせる場合には、Iは濃度Cに比例するので、蛍光強度に基づいて蛍光染料の濃度を計測することが可能となる。蛍光強度をCCDカメラ等で計測することで、2次元的な分布を計測できる。このとき、既知の濃度における蛍光強度を予め求めておけば、濃度の絶対値を計測することができる。

量子収率φは温度依存性があり、一般に温度の上昇に伴って減少する。これは、温度が高いことで分子の衝突によるエネルギの消失,内部転換,系間交差が起こりやすいことが原因である。一方、吸光係数εの温度依存性は小さいので、I0、Cを一定とすれば蛍光強度は温度の関数となる。緑色光を吸収しオレンジ色を発光する蛍光染料Rhodamine Bは、温度依存性が高く(約−2.3% / K)、水に可溶なため広く用いられている。

消光

蛍光強度は溶媒の塩素イオンや各種金属イオン、酸素などによって弱くなる(消光)。溶媒として普通の水道水を用いると、下図のように時間と共に蛍光強度が下がっていく。これを解決するのに良い方法は金魚水槽で用いるカルキ抜き剤をいれることである。カルキ抜き剤をいれることで塩素イオン濃度が下がり、消光が抑えられる。


また、強い光を当て続けることで、蛍光染料の分子が光り分解を起こす(光消光)。下図はレーザー光をパルス的に照射した場合に蛍光強度が低下する様子を示している。

 


 

フィルター

レーザ誘起蛍光法では、流体中に浮遊するゴミや粒子からの励起光のMie散乱やレイリー散乱を除去するために、光学フィルターをカメラに装着する。もっともよいのは下図のようなカラーガラスフィルタである。1枚数千円と安価であるが、不透過帯における透過率は限りなくゼロに近い(下図スペクトルの540nm以下)。



下図はその一例である。フィルターを通さないでみると、オレンジ色の蛍光と緑色の散乱光が両方見えるが(上)、フィルターを通してみると、散乱光は完全に見えなくなる(下)。


 

カメラ入出力の線形性

蛍光強度をCCDカメラで計測するときは、CCDカメラの出力がカメラへの入射光強度に比例することが求められる。しかし、なかなかそうはいかないことが多い。下図は、レーザ光強度(横軸)と蛍光(縦軸)をフォトダイオードで計測した場合であるが、両者は線形関係にある。

 


しかし、蛍光をCCDカメラで撮影すると、明かに線形ではない。カメラによっては内部のルックアップテーブルで線形になるよう補正しているものもあるが、その線形性について明記されていない場合が多い。カメラの購入にあたってはこの点を十分に確かめる必要がある。


濃度計測

レーザ誘起蛍光法による濃度計測の一例はこちらを参照。

 

二色LIFによる温度計測

通常、温度が非一様な流動場では密度も非一様であるため励起光が流動場を通過する際に屈折が生じる。そのため、測定部分において励起光が時空間的に変動し、計測誤差が無視し得ない場合がある。それを回避するには2種類の染料を用いる(2色LIF)。蛍光強度の温度に対する依存性および発光波長が異なる2種類の染料A, Bを混ぜて溶解させ、励起光を照射する。ダイクロイック・ビームスプリッターや色フィルターによって波長を分離し、2台のカメラで同時撮影すれば蛍光強度費は

a

となり、局所励起光強度aに依存しない。下図は上面冷却・下面加熱された矩形容器内の自然対流を2色LIFで計測した例である(1)。Rhodamin BおよびRhodamin 110の蛍光画像と両者の比を示してある。蛍光画像には光の屈折に伴うスジが多く現れているが、強度比画像には殆ど現れず温度プルームが明瞭に観察される。この計測におけるランダム誤差は±0.17℃である。
この他に、蛍光強度のPHに対する依存性を利用した温度とPH濃度の同時計測(2)や、PIVとLIFによる温度と速度の同時計測(3)など、複数の物理量の同時計測が試みられている。

リンク

 

参考文献


1)J.Sakakibara, R.J.Adrian: Exp. Fluids, 37(3), 2004, 331-340.
2)J.Coppeta J, C.Rogers: Exp. Fluids, 25 (1), 1998, 1-15.
3)J.Sakakibara et al.: Exp. Fluids, 16 (2), 1993, 82-96.