ここまで,熱エネルギーはどう伝わるのか,より多く伝える工夫を中心に学んできました。
伝熱工学最終回は,これまでとは逆に,熱を伝えないようにする(断熱(thermal insulation))にはどうしたらよいかを学びます。
断熱技術は,身近な家の壁や窓,保冷バック,水筒などから,スペースシャトルや人工衛星の外壁まで活用されています。
熱の三つの伝わり方(伝導・対流・ふく射)それぞれへの,熱を伝わりにくくする対策を見ていきましょう。
物体内を伝わる熱伝導を抑制するには,熱伝導率の小さい物質を利用します。
最も広く活用されている断熱素材は,第2回の図からもわかるように,空気です。
建物の断熱材として用いられる発泡フォームやグラスウール,もっと身近なものとしてはダウンジャケットなども,
空気を流動しないよう狭い空間に閉じ込めることで,熱伝導を抑制しています。
第5回の演習で計算し確認したように,二重窓(二枚のガラス板の間に空気層をはさむ)も,断熱技術の一つです。
さらなる断熱性能を求める場合は,空気よりもさらに熱伝導率の小さいフロン(今は代替フロン)ガスを封入したり,
いっそ物質をなくしてしまう真空断熱(vacuum insulation 例:魔法瓶)も利用されています。
対流熱伝達を防ぐには,前項でも説明したように,流体が流動しないよう狭い空間で仕切ります。 仕切りに用いられる素材としては,繊維(例:ふとん)や発泡体(例:発泡フォーム)などが広く用いられています。
ふく射による伝熱を防ぐには,第10回の電磁波の性質を思い出すと,
入射してくる電磁波を吸収せず反射もしくは透過すれば良いことがわかります。
キルヒホッフの法則から,反射率が大きい=放射率が小さい ということなので,放射率の一覧からアルミの利用が考えられます。
人工衛星の写真を見ると,表面に金色のフィルム状のものが張られていますが,そのほとんどは,耐熱性の高い黄色のポリイミド樹脂に,
アルミニウムを蒸着させたもので,宇宙空間での伝熱形態であるふく射を防ぐことを目的に使われています。
これまで伝熱工学で出てきた断熱には,二つの意味があります。
熱の移動をできるだけ防ぎ,保温・保冷する断熱(thermal insulation)と,
熱移動のない断熱変化(adiabatic process),
ともに日本語では断熱を用いますが,熱流束で考えると,
できるだけゼロに近づける技術と,ゼロの状態 という違いがあります。
2024.07.20 更新