研究内容
有機EL素子の界面物性
有機ELディスプレイがスマートフォンや大型テレビに採用され、「有機EL」という単語が一般的になってきました。有機ELディスプレイを構成する画素の一つ一つ、すなわち有機EL素子は、有機半導体の薄膜で作られる発光ダイオードです。有機EL素子は、通常、複数の有機半導体膜や電極膜の積層構造から成り、素子内に存在する異種材料界面は、多くの場合、機能発現の場となります。そのため、界面における電荷注入・蓄積機構を正確に理解し、制御することが、有機EL素子の特性向上において重要となります。我々は、永久双極子モーメントを持つ多くの極性分子が、その蒸着膜において自発的に配向分極し、素子内の異種材料界面に一定量の分極電荷を誘起すること、その「界面電荷」が素子の電荷注入、蓄積特性を支配することを見いだしました。しかしながら、配向分極の形成機構やその制御法は未だ不明であり、これらを明らかにすることは、高効率、高性能化に向けた有機薄膜素子の界面構造や材料設計において、新たな指針を提供することにつながると考えられます。有機蒸着膜における自発的配向分極は、まだ積極的にデバイス応用されていない特性です。これらを積極的に活用することで、これまでにない高機能素子や新規素子の実現につながる可能性があると考え、配向分極と素子特性との関連を研究しています。
- Journal of Applied Physics 111, 114508 (2012).
- Japanese Journal of Applied Physics 58(SF), SF0801 (2019). Review
- Synthetic Metals 288, 117101 (2022). Invited review
- Advanced Optical Materials, 2201278 (2022). Open Access!
- The Journal of Physical Chemistry C, 126, pp. 18520-18527 (2022).
電気化学発光セルの動作機構解析
電気化学発光セル(LEC)は、溶液プロセスで作製可能な単層素子で、電極の仕事関数や膜厚によらず低電圧で明るく光ります。LECが持つ作製プロセス上の優位性を活かし、これまで、柔軟性基板や伸縮性基板上だけでなく、フォークのように複雑な形状を持つ金属表面や、紙のような凹凸の激しい表面等にも素子作製が可能であることが報告されてきました。一方、有機EL素子と比較して低い発光効率、遅い応答速度、早い劣化など、その特性にはまだまだ改善の余地があります。LECの活性層は発光生ポリマーと電解質の混合膜からなり、そのユニークな機能性は電極から注入した電荷と活性層中の可動イオンとの相互作用(電気化学ドーピング)に由来します。しかしながら、LECの動作特性は、刻々と変化する電気化学ドーピングの状態に依存するため非常に複雑で、定常状態を前提とした従来の素子特性評価手法では、LECの動作機構解析は困難です。我々は、LECの動作機構解析に適した新たな特性評価法として、変位電流と発光強度の同時測定法(extended DCM)を提案しました。この手法では、LECの電気化学ドーピングの状態と、電気・光学特性との相関、それらの過渡特性を包括的に議論することができます。現在、LECの特性改善に向け、本手法を応用した動作機構解析を行っています。

- Advanced Optical Materials 6(20), 1800318 (2018).
- ACS Applied Electronic Materials 3(5), pp.2355-2361 (2021).
新規分子スケールデバイスの提案
分子はその構造を原子レベルで正確に制御された究極のナノ材料です。分子の特性を単一レベルで活用する「分子エレクトロニクス」は、提案から40年近く経つにも関わらず、未だ実用的なデバイスを実現することができていません。その原因の一つは、分子接合の制御性にあると考えられます。そこで我々は、分子接合を必要とせず、かつ有機分子の機能性を単一レベルで活用する次世代素子を提案しています。これまで、分子をフローティングゲートとした単電子素子を提案し、孤立分子の帯電に起因する光スイッチング効果を実証しました。我々が提案した分子フローティングゲート単電子素子(MFG-SET)では、分子と電極との接続を必ずしも必要としません。素子構造が簡略化され、作製および素子特性の再現性が大きく向上することも期待されます。現在は同様のコンセプトから新規単一分子発光素子の実現に向けた研究を行っています。
- Applied Physics Letters 101, 023103 (2012).
- Scientific Reports 7, 1589 (2017).
- Journal of Applied Physics 132, 174303 (2022).
- Nano Letters 23, 7493 (2023).