7-4 ポルターガイスト

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 以下では,ポルターガイストとホーンティングの相違,各々の研究動向,そして,それらを説明するサバイバル仮説とスーパーPSI仮説について解説する。

<1> ポルターガイストとホーンティング

 ポルターガイストとは,ある特定の人物の周りで生じる特異現象であり,通常,短い時間の間に顕著な現象が起きる。例えば,物品が宙を舞ったり,激しい物音がしたり,電灯の点滅や電話の着信などの機械的・電気的変化が起きたりする。ときには幽霊が目撃されたり,寒気が感じられたりもする。ポルターガイストが幻覚や詐欺ではない場合は,ウィリアム・ロルによって,特定の人物がPSIの源となった「反復性偶発的PK(RSPK)」と解釈されている。
 一方ホーンティングとは,ある特定の場所において生じる特異現象であり,「幽霊が憑依した家」などという形で現われ,散発的に長い時間に渡って現象が起きる。例えば,幽霊の姿や火の玉が見えたり,何者かの存在感があったり,ノック音や足音が聞こえたり,ドアや窓が開閉したり,温度の急激な変化があったりする。
 ゴールドは,16世紀から現代まで,328の特異現象事例を調査し,それらの報告内容の特徴をクラスター分析した。その結果,ポルターガイストとホーンティングは,(両方の特徴を備える場合やどちらとも言えない場合も若干あるものの)それぞれ明確に分離できることが分かった。どうも両者は別々の原因で生じる現象らしい。

<2> ポルターガイストの原因究明

 ポルターガイストの周辺には普通,鍵となる人物が見られる。その人物が外出していたり,眠っていたりすると現象が起きないことから,容易に特定できる。そして,現象を発生させていると疑われる人物は,典型的な特徴を持っている。(すべてではないが)ほとんどが未成年であり,6,7割が女子であり,大部分は家庭環境に問題を抱えている(両親の離婚,再婚,養子にされるなど)。そして多くは,親から精神的に疎外されていて,親への敵意を持っている。
 その人物にとってポルターガイストは,注目を引く手段であり,怒りと敵意の現われであるようだ。だから,発揮したあとは,一時的にしろ気分がよくなるらしい。現象の発揮は,多くの場合無意識のうちに行われるが,それが起きることに罪の意識もあり,起きたことの責任を回避しようとする傾向が見られる。また3割ほどの例では,てんかんの傾向も見られており,発作の一環としてポルターガイストが発揮されると見ることもできる。
 そうした人物が簡単なトリック(関節を鳴らすとか,他人の視線を避けて皿を投げるなど)を使って,ポルターガイストを演出していることが判明した例も多数ある。しかし,その証拠をもとに追及しても,人格が分裂傾向にあり,自ら演出したことでさえ,全く記憶していないこともある。
 ポルターガイストの事例は,それが本当のPSI現象であったとしても,研究を続ける上での人道的問題が大きい。ポルターガイスト発生の背後には,中心人物の精神面での重大問題が潜んでいる可能性が高いからである(6-3)。PSI研究者がトリックを見破った場合も,安易に本人に指摘したり,家族に話したり,ましてやメディアに公表したりしてはならない。研究者は家族関係のダイナミックスに注目し,慎重な対処をする必要がある。可能ならばメディアは遠ざけたほうが賢明である。
 ポルターガイスト事例の原因究明は,実質的に心理セラピーとなってしまう。そのため,超心理学の知識を持った臨床家が関わることが望ましい(6-2)。ポルターガイストは,中心人物の精神的問題が解決される(親元に帰るなど)と,突然収束することがほとんどである。

<3> ホーンティングの原因究明

 シュマイドラーらは,能力者と懐疑論者とにホーンティングが報告されるという家の建築間取図を見せて,どこにどんな現象が起きたかを,場所の選択肢と現象の種類の選択肢について,それぞれ答えさせた。その結果(5つの研究をメタ分析し),現象の種類については有意な差が得られなかったが,場所については,能力者が懐疑論者よりも有意に現象が報告された場所を正しく言い当てた。しかし,これは現象体験者と能力者が共通の迷信(例えば「トイレにはよく幽霊が出る」など)を知っていた可能性が否めない。たとえ,能力者のESPであったとしても,研究者が保管している報告を透視したなど,様々の可能性がある。
 物理的な原因究明は,かなりの成果が上がっている。単純なところでは,小動物や水道管に由来する音や,地殻変動や生物死骸に由来する発光,窓や家具による光の反射,外気の侵入による冷感などである。複雑な原因の1つには定在波がある。低周波空気振動が家の特定の場所に定在波(行き来する波の位相が合致して強め合う状態)を作り,波の節に当たる位置に人が立つと奇妙な音や黒い影が見えるのである。実際に,天井のファンが原因で定在波が出来ていたホーンティング事例が特定されている。
 ロルやパーシンジャーは,ホーティングが報告される場所に,電磁波や地磁気の変化が見られることに注目した(4-5)。そして,ペルティエ効果と呼ばれる地質学上の現象が,ホーンティング現象を体験させている可能性を指摘している。これは,家の下の断層の割れ目に水が溜まっていて,そこに雷などが原因で電気が帯電し,巨大な電池の役割をしている場合に起きる現象である。その巨大電池の上に家が建っていると,電磁気の変化や音の発生,温度の変化が起きる。さらに,個人差はあるが,電気変動によって人間の脳自体が影響を受け,てんかん様の発作が起きたり,幻覚を見るようになったりする。
 ロルらは,物理的原因を究明する一方で,わずかながらPSIで起きているホーンティング事例もあると推測している。ホーンティング事例をPSIとして説明するときの難点は,中心人物がいないので人間の発揮するPSI能力としては解釈できないことである。
 ロルは「PSI場」という形で,PSIが人間の外部に存在すると理論化した(5-5)。その理論によれば,昔そこに住んでいた人のPSIが,あたかも場に「記憶」が残るかのように残留し,将来に渡って(当の住人が死亡した後になっても)PKが発生するとされる。しかし,PSI場の性質や,そこに記憶されるための条件,PKとして発現するための要件などは明示されてはいない。PSI場によってロルは,PSIを物的世界の現象と位置づける道を模索しているようである。だが,PSI場が心的世界の一部であると考えれば,スティーヴンソンの想定(7-3)と似たような主張に見えてくる。

<4> サバイバル仮説とスーパーPSI仮説

 ホーンティングや生まれ変わり,そして精神霊媒やシャーマンが見せる憑依様状態は,一見,人格が身体の死後も存続する(サバイバル)かのようである。しかし,それらが超常的現象であったとしても,サバイバルを持ち出す必要はない。生者のPSIが時空を越えて働くとすれば,あくまでPSIとして説明可能である(スーパーPSI)。
 このサバイバルかスーパーPSIかという点について,超心理学者の間では議論がある。憑依された霊媒や生まれ変わりの子供が,死者が生前振舞った,まさにそのままに行動するとしたならば,スーパーPSIは分が悪くなる。それらを逐一PSIで説明するには極めて複雑なメカニズムを想定せねばならない。死者が生前使用していた異国の言葉を話したり書いたりなどすれば(ゼノグロッシー),なおさらである。サバイバルの方が簡単な仮説であり,節約原理に適うという主張である。
 けれども,現象はそこまで顕著ではない。高度なゼノグロッシーが報告されることも,極めて稀である。一方,PSIには目的指向性があるので,複雑なメカニズムを達成するのも問題ないという議論も成立する。つまり,PSIによって「あたかもサバイバルが存在するかのような現象」が起きている,と考えるのも一理ある。節約原理についても,サバイバルでは説明しにくいPSI現象があるから(サバイバルを認めたとしても)PSIを残しておかねばならず,節約にならないと批判できる。サバイバルかスーパーPSIかは,なかなか決着がつかない議論である。
 最後に,サバイバル仮説を理解するうえでの注意点を述べておく。「死後に人格が存続する」としても,それは素朴な信仰としての「浮遊する不滅の霊魂」を意味しない可能性は高い。日常我々が感じている自己の意識(8-4)に類するものは,物理的世界と社会的関係に大きく依存している。そうしたものが,依存関係から解き放たれて存続したとしても,もはや別ものと言わざるを得ないだろう。死への恐怖から超常現象に興味を持つ者が,サバイバルに慰みを見出した時には,誤理解ではないかと反省してみるのが良い。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるパーマー氏とブラウディ氏の講演,RRCの研究ミーティングにおけるロル氏の講演がもとになっている。ロル氏はポルターガイスト研究の第一人者(西ジョージア大学を最近退官)であり,『ポルターガイスト』(大陸書房,絶版)の著書もある。
ロル氏JSE2002年大会で学会賞受賞講演をするロル氏


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