5-5 特異的場の理論

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 ここでは,物理的性質を持つ「場」によってPSIが達成されるとする諸理論を概観する。

<1> 電磁波モデル

 ESPは電磁波に乗って情報が伝わるとか,PKは電磁波によって力が伝わるなどという「PSIの電磁波モデル」が,古くから提案されている。ロシアの科学者ワシリエフは1963年,テレパシーは電磁波によって実現されるとした。コーガンは1966年,超長波(低周波)の電磁波がテレパシー情報を伝達するとした。最近ではパーシンジャーが1979年,地磁気の源から発生するそうした電磁波がテレパシーを媒介する,と提唱している。
 PSIの電磁波モデルは,イメージは湧きやすいが,多くの困難を抱える。まず,脳は,遠距離を伝達するほどの電磁波を発生させるパワーに欠けている。仮に電磁波を発生させたとしても,情報はどのように電磁波に込められて(符号化されて)いるのだろうか。情報の受け手はどのように,その情報源を判定(周波数同調)し,その情報を解読しているのだろうか,妥当な説明はつかない。そもそも遠距離に隔離された実験でもPSIが働くこと,予知も見られることなどが,PSIは電磁波ではないことを明示しているように思われる。ただ,カーリス・オシスの1965年の分析では,距離が増大するとESPスコアの低減傾向(およそ5分の2乗の減衰)が見られており,時空間の近接性が物理的(あるいは心理的)に何らかの影響があることは否めない。他方で,地磁気や地方恒星時とPSIとが相関すること(4-5)は,電磁波がPSIと関わりがある可能性を示唆する。

<2> 場の理論

 物理的な電磁波に問題があるならば,電磁波に似た,PSIを媒介する超常的な「場」を想定すれば,一応整合的な理論にはなる。このように,何か特異的な「場」を導入する理論(もどき)は数多い。
 脳波の研究者であるバーガーは,1940年,時空間に制限されないサイキック・エネルギーが,被験者の脳波を共鳴させることでテレパシーが起きると考えた。ヒーリングの説明では,生体エネルギーであるとか,オーラと呼ばれるエネルギー場がしばしば登場する。
 数学者のワッサーマンは1959年,超心理学のみならず,生物学や心理学の現象を説明する,数学的な場の理論を提唱した。彼は1993年には,影の物質がPSIの担い手であると主張した。1965年にはドブズが,PSI媒介粒子を想定し,それをサイトロンと命名した。
 ロルは1966年,「PSI場」を導入した。彼は,予知はPKで実現されるとして,物理的な因果性を保持した。さらに彼は,記憶はPSI場の一部であり,人体を離れて存在・伝達し,それがPSI現象を引き起こすとする,ある種の「汎記憶理論」を提唱した。ホーンティングなどのPSIが起きやすい場(7-4)とか,物品に込められた歴史を知るサイコメトリーなどの現象を説明しようとしたのである。
 場の理論はどれも,その「場」が存在する積極的な証拠を持ち合わせていない。しかし何よりも,それらの理論は漠然としており,奇妙な現象のほとんどを理論を補強することによって「説明」できてしまう。それゆえに,将来の観察結果を予測できない無意味な理論となりがちである(8-2)。同様の批判は多くの,多次元空間理論や共鳴理論,超微細粒子理論にも当てはまる(場の理論は,表現を少し変えることで,容易にそうした別種の理論に変身できる)。
 ただし,ロルの「PSI場」は,長期記憶を介してESPをもたらすという部分では検証可能であり,1970年代に検証実験が試みられ,いくつかの肯定的結果が得られている。しかしそれでも,場の理論の本質部分は検証不能のように思われる。

<3> 形態形成場

 検証可能な特異的場の理論として,ルパート・シェルドレイクが唱えた「形態形成場」が挙げられる(『生命のニューサイエンス』工作舎)。この理論はまた,「形態共鳴」という共鳴理論として解釈されることもある。形態形成場はもともと,獲得形質が遺伝するように見える現象を説明しようとした生物学の理論である(だが,生気論の復活と見なされて抑圧された)が,PSI現象の説明にも適している。

 シェルドレイクのホームページ:http://www.sheldrake.org/

 形態形成場は,広い意味での「形態」を一定のものへと導く,特異的場である。形態とは,生物の体型や細胞組織の形状,タンパク質の折畳みなどから,生物の行動・思考パターンまでをも含む,広い概念である。形態形成場は,「同じものは同じ形態になりやすくなる」原理(形態共鳴)や,「繰返し起きたことは将来も起きやすくなる」原理を実現するものとして,捉えることができる。形態形成場の効果によって,生物の体型や行動は,過去から現在に至るまでの同じ生物が取ってきたものと類似のものとなる。
 この理論は実験的な検証ができる。例えば,難しいパズル課題を作成し,多くの人間が解答を知る前の実験と後の実験では,後の実験の方がパズルの正答率が高まると予想される。この着想は,「隠し絵」から隠されている絵を探す課題で実行に移され,実際に正答率が高まった結果が得られた。この実験はもちろん,後の実験に参加する人は事前に解答を知り得ない,という状態を維持した環境で行なわねばならない。しかし,こうした情報管理は難しく,当然懐疑論者の批判も大きい。
 形態形成場の評価は別にして,ここではPSIの理論と比較してみたい。少し考えれば,形態形成場が適応行動理論(5-3)と良く似ているのが分かる。どのような形態でも取り得る可能性のあるものが,形態形成場によって一定の形態になる点は,適応行動理論において,非決定的な物理系がPSIによって決定づけられるのに類似している。そう考えると,適応行動理論の傾向性は,形態形成場では,過去の形態パターンの蓄積に相当する。形態形成場は,過去のパターンを踏襲するので,新規のパターンが生まれにくい。その点で,むしろPSIが起きないことの良い説明になるかも知れない(5-1)。さらに形態形成場は,上述の汎記憶理論とも似ている。過去の形態パターンの蓄積は,一種の「場としての」記憶として捉えることができ,その「記憶」が,次の同様な現象を繰返すとも解釈できる。
 形態形成場をPSIの理論とするためには,生物個体間の形態共鳴現象だけでなく,出来事間の形態共鳴へと拡張しなければならない。そうすると何が「同じ」出来事であるかという同一性の基準を導入せねばならない。これはまた,大きな議論の対象となる。ユングならば,それを「元型としての意味である」と言うのだろう(5-8)。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるブラウトン氏の講演をもとにしている。


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