2-4 生体効果の実験

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 PSIが生体に及ぼす効果は,PKともテレパシーとも考えられるので,本項で独立して論じることとする。

<1> ヒーリングとDMILS

 生体に働くPSIは,メンタル・ヒーリング(精神治療)の解明を最終目標に置いて研究されていると言うことができる。メンタル・ヒーリングとは,簡単に言えば「PSIによって病気を治す」ことであり,それが霊魂の働きとして説明される場合には,とくに「心霊治療(サイキック・ヒーリング)」とも呼ばれる。古来の祈祷師や治療師(ヒーラー)が民間信仰の形で,現在まで引き継がれており,ヒーラーを自称する者が今でも多く存在する。
 生体に働くPSIの厳密な研究は,離れたところに置いた動植物や人間に対して,ヒーラーなどの被験者がPSIを発揮する形で行なわれ,とくにDMILS(Distant Mental Influence on Living Systems)と呼ばれる。DMILSの働き方には,いくつかの可能性が考えられる。生体を構成する物質に,治癒が促進するようにPKをかけたとも解釈されるし,生物の心にテレパシーのように働きかけて,その生物の自然治癒力を増進したとも解釈される。

<2> 生体構成物質を対象とした実験

 生体を構成する物質を単独でPSIの対象とすると,PKとしてのDMILSを研究できる。生体構成物質としては,水の性質,溶液の結晶化,酵素の活性度,体外での赤血球の維持時間やガン細胞の分裂時間などが用いられ,PKの対象とされた。バーナード・グラッドは,有名なヒーラーが手かざしした水を植物に与えたところ,実験群のほうに大きな生長が見られた(手かざししてない水を対照群に用いた)。ダグラス・ディーンらは,手かざし水の物理化学特性を調べた。その結果,赤外吸収スペクトルと表面張力に差異が見られ,手かざし水では,水分子間の水素結合の割合が減っているのではないか,と推測した。

<3> 動植物を対象とした実験

 動植物を対象とした実験は数多い。PSIによって,その生長や活動度,傷などからの回復度合いの変化を見るのである。微小生物としては,藻の増殖,べん毛虫やうじ虫の活動,小魚群の泳ぐ方向などが対象となった。ネズミを使うと,実際に腫瘍や病気からの回復を実験的に行なうことができる。アニタ・ワトキンスは,麻酔を施して眠っているネズミに早く目覚めるよう,一般人の被験者に念じさせたところ,実験群は対照群よりも平均87%の短い時間で目覚めた,と報告している。

<4> 人間を対象とした実験

 人間を対象にする実験はデザインが難しい。実験に参加することによる期待や偽薬効果で,PSIとは無関係に生理学的な変化や治癒が起きるからである。厳密な実験を行なう典型的な方法は,遠隔地(別の部屋など)に対象となる人間をおき,ヒーラーの役割をする被験者に時刻を決めて能力を発揮してもらう方法である。ウィリアム・ブロードらは,対象の人間の電気的皮膚活性度(EDA)を測定しながら,被験者には遠隔地から,対象者の気持ちを「落ち着かせる」,「動揺させる」,「何もしない」の3条件でPSIを発揮させた。その結果,「落ち着かせた」ときはEDAが大きくなり,「動揺させた」ときにはEDAが小さくなる傾向が,顕著に得られた。対象者に気持ちを聞くよりも生理学的指標(2-5)を見るほうが,PSIが検出されやすいという。ただし,PSIが見られても,ヒーラー側のPSIでなく,対象者側のPSIなのかもしれない。
 しかし,ヒーラーによっては遠隔地からの作用に困難を訴えることも多い。対面による施術で効果のほどを測定したいところだが,その対照群を作るのは非常に難しい。ヒーラーにPSIを発揮する場合としない場合で,同じ演技をしてもらえばいいのだが,PSIを発揮しない演技は対象者にバレてしまうだろう。そんな中で,ダニエル・ワースは巧妙な実験手順を開発した。複数の実験対象者の腕に医師が傷をつけ,ヒーラーによる施術で回復の早さを測るのであるが,実験対象者にヒーラーの動作が見えないように,壁から手だけを出すのである。その際に実験対象者は,「腕から出るエネルギー放射を測るため」と(ウソの)教示をされて,壁の穴に手を入れるのである。この実験でワースは,実験群に対照群よりも早い傷の回復を見出した。

<5> 直観診断

 メンタル・ヒーリングが可能であるならば,治療の前段階として何らかの診断がなされているとも考えられる。その診断部分だけを取り出した実験も可能である。何の手がかりも無く,ただ直観的に患者の病気を当てる直観診断である。病院に入院または通院する患者に協力してもらうことで,比較的簡単に実験対象者を集めることができる。問題なのは直観診断をする被験者が,どのように対象の患者を特定するかである。もちろん直接会ってしまったら,病名を当てる通常の手がかりが豊富に与えられてしまう。患者の写真もかなりの手がかりになってしまうだろう。年齢や性別も問題が残る。そこで,同じ年齢・性別で別の病気の患者をグループにし,各患者の名前と住所を被験者に与えて病名を当てる方法が取られている。ときには,(若干問題もあるが)患者の髪の毛などが与えられる。その場合,一種のサイコメトリーのような実験となる。
 被験者は,対象患者の病気について,思いつく限りの報告をする。それはテープに録音され,数人分まとまったら,該当患者の実際のカルテと一緒に,医師の外部判定者に送られる。その際には,報告がどの患者のものであるか判定者には分からないようにしておく。判定者は,報告内容とカルテとを比べて,どの報告がどのカルテと近いか順位をつける。この辺の手順はリモート・ビューイング(3-3)と同様である。

<6> 補足事項

 この分野の研究は,論文誌サトル・エネルギー(SE)に重点的に掲載されている(1-3)。また,この分野は,中国や日本で行なわれている「気功」の研究と深い関連性がある。「外気功師」はいわばヒーラーだからである。日本の研究は,国際生命情報科学会(ISLIS)の論文誌を見るとよい(1-3)。
 なお,この分野の研究は,とくに倫理的問題(1-8)を起こしやすいので,慎重に取組むべきである。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるダグ・リチャーズ氏とラリー・バーク氏の講演をもとにしている。リチャーズ氏は,バージニアビーチにあるエドガー・ケーシー(ケーシーは「眠れる預言者」と呼ばれ4万件もの自動書記を残した)財団の研究者であり,ヒーリングの研究をしている。バーク氏はデューク大学医学部放射線科の教授であり,直観診断の研究をしている。
 ケーシー財団のホームページ:http://www.are-cayce.com/


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