1-3 研究コミュニティ

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 本項では,超心理学の研究コミュニティ(学会,論文誌,研究拠点)について概説する。日本の状況についても触れる。

<1> 超心理学協会

 超心理学の研究コミュニティの中心は,ラインらによって1957年に設立された超心理学協会(PA)であろう。会員数は約300名で,研究実績がないと会員にはなれない。毎年夏に,1週間ほどの年次大会が開かれ50件程度の研究発表がなされる(通常会員以外の参加・発表も歓迎される)。この年次大会の講演予稿集が,最先端の超心理学の動向を示すと言えよう。年次大会は,2001年はニューヨークで,2002年はパリで開催された。協会の会長は大会の実行委員長にあたり,毎年変わる。2003年の会長は超心理学財団のナンシー・ジングローン氏で,カナダのバンクーバーで開催された。開催地は北米と欧州で交互であったが,(とくに若手の)研究者の多い欧州での開催を増やすという案が出ているそうである。2004年はオーストリアのウィーンで開催される。

PAのホームページ:http://www.parapsych.org/

 PAの会員は超心理学者であるとみて間違いがないだろうが,「超心理学者は皆,PSI現象などあたりまえと思っているか」というと,そうでもない。アリソンの1973年の調査によると,14%の会員はPSIの存在には十分な証拠がないと回答している。驚くべきことには,超心理学の研究コミュニティに,研究に対する批判者が加わっているのである。代表的な批判者の例として,2名の研究者をあげよう。
 リチャード・ワイズマン氏は,後述のエジンバラ大学ケストラー講座の出身で,現在ハートフォードシア大学にいる。彼は奇術師であり,奇術師の観点から実験の不備を指摘したり,イカサマ能力者に騙されないための手引書を執筆している(1-5)。また,他の研究者とは異なる視点でメタ分析を行ない,「有意でない」分析結果を導いている。最近では,超心理学者のシュリッツと共著論文を発表し,話題を呼んでいる。そこでは,まったく同じ手順の実験を,シュリッツとワイズマンとでそれぞれ独立に実施し,前者は有意な結果を後者は有意でない結果を得て,実験者効果の観点(4-9)から貴重な知見をもたらしている。
 スーザン・ブラックモア氏は,記憶とPSIの関係の研究で博士号を取得し,長年,さまざまな超心理学の実験的研究に携わってきた。しかし,安定して有意な結果が得られないことから,超心理学の方法論に懐疑的になる。現在では「意識の研究」(8-4)の意義は認めるものの,その核心は現在の超心理学では捉えられないとして,超心理学実験の不備を指摘する精力的な批判者となっている。他の超心理学者の見解によれば,彼女は実験の雰囲気づくりが不得手なのだという。物理学の分野では,実験が不得手な研究者(例えばパウリ(5-8)がそうであったと言われる)は理論の分野にまわるというが,超心理学の分野では,「批判」の分野にまわるのであろうか。

<2> 研究論文誌

 超心理学および関連分野の代表的専門論文誌(英文)には,現在(2003年1月時点)のところ,次の8誌が挙げられる。
 JP(超心理学誌):デューク大学において,1937年にマクドゥーガルとラインによって発行が開始された。現在までに約1000件の論文が掲載されており,超心理学の中核的な研究発表の場となっている。現在はRRCが発行母体となり,編集長はジョン・パーマー氏。

JPの表紙
(写真:JPの表紙,2002年からデザインが一新した)

 JSPR(心霊研究協会誌):心霊研究協会によって1884年から発行され,現在までに約2000件の記事と論文が掲載されている。ほかに「予稿集」と呼ばれる姉妹資料も発刊されており,それを含めると8誌中の最大の文献量を誇る(ただし,古いものが大半を占めている)。

心霊研究協会のホームページ:http://www.spr.ac.uk/

 JASPR(米国心霊研究協会誌):米国心霊研究協会によって1907年から発行され,現在までに約4000件の記事と論文が掲載されている。心霊研究の発表の場として発足したが,1970年代以降は,超心理学の研究発表がそのほとんどを占めている。なお長年編集長を務めてきたリア・ホワイト氏の退職に伴い,2000年以降の発刊が一時休止されている。

米国心霊研究協会のホームページ:http://www.aspr.com/

 IJP(国際超心理学誌):霊能力者の故アイリーン・ギャレットがニューヨークに設立した超心理学財団で発行されている。1959年から1967年まで発行された後,休刊になっていたが,2000年から再刊されている。再刊誌は,日本語を含めた6か国語の要約が載っている。2000年の第2号には,小久保・笠原の共著による,日本における超心理研究の総説が掲載されている。

超心理学財団のホームページ:http://www.parapsychology.org/

 EJP(欧州超心理学誌):オランダのユトレヒト大学が中心になって1975年に発行が開始され,現在までに約250件の論文が掲載されている。現在はスウェーデンで編集の仕事がなされている。

EJPのホームページ:http://www.psy.gu.se/ejp.htm

 JSE(科学探究誌):科学探究学会が母体になって1987年から発行され,現在までに約400件の論文が掲載されている。広く超常現象に関する科学的究明の論文が掲載されるが,物理理論の論文が目立つ。日本からは神奈川大学の桜井教授(物理学)が編集委員に入っている。

科学探究学会のホームページ:http://www.scientificexploration.org/

 SE(サトル・エネルギー):サトル・エネルギー学会が母体になって1990年から発行され,現在までに約150件の論文が掲載されている。メンタル・ヒーリングや気などに関する科学的究明の論文が多く掲載される(2-4)。事務局はコロラド州。

サトル・エネルギー学会のホームページ:http://www.issseem.org/

 JCS(意識研究誌):アリゾナ大学の意識研究センター(8-4)が母体になって1994年から発行され,現在までに約400件の論文掲載。心理学・生理学・工学などの諸分野から最新の意識に関する論文が掲載されるが,とくに哲学的観点からの論文が目立つ。2003年の6月号ではPSI特集が組まれた。

意識研究センターのホームページ:http://www.consciousness.arizona.edu/

<3> 研究拠点

 超心理学の研究拠点は,研究資金が途絶えたり,有力な研究者が去ったりすると,とたんに閉鎖されることが多いので,高い評価を受けたかつての研究拠点のほとんどは失われてしまっている。以下には,現在(2003年1月時点)活動中の主な研究拠点を示した。
 ライン研究センター(RRC):上に述べたJPの発行元でもある。詳しくは「まえがき」を参照されたい。

RRCのホームページ:http://www.rhine.org/

 エジンバラ大学ケストラー講座:科学ジャーナリストのアーサー・ケストラーの遺産で,1984年に英国エジンバラ大学に設置された超心理学講座。講座担当教授はロバート・モリス教授。現在のところ世界で唯一の超心理学専門の博士課程を有する(ただし,モリス教授は心理学などの周辺領域で博士を取得することを薦めている)。

ケストラー講座のホームページ:http://moebius.psy.ed.ac.uk/

 プリンストン大学工学特異現象研究プログラム(PEAR):乱数発生器の実験を進めたロバート・ジャン学部長が,1979年に設立した研究プログラムで,現在はロジャー・ネルソン教授がリーダーを務める。地球意識プロジェクトの拠点にもなっている(3-7)。

PEARのホームページ:http://www.princeton.edu/~pear/

 ヴァージニア大学医学部人格研究室:イアン・スティーヴンソン教授(7-3)が中心となり,偶発的PSI現象の事例研究を行なってきた。

人格研究室のホームページ:http://www.healthsystem.virginia.edu/internet/personalitystudies/

 ノエティック・サイエンス研究所:月面着陸を果たした宇宙飛行士のエドガー・ミッチェルによって,1971年にカリフォルニア州に設立された。現在,マリリン・シュリッツ氏とディーン・ラディン氏を中心に超心理学研究がなされている(3-4)。

ノエティック・サイエンス研究所のホームページ:http://www.ions.org/

 基盤研究実験所(LFR):CIAの援助で長年ESP研究を行なってきた物理学者,エドウィン・メイが,数人の物理学者とともに超心理学の先端的研究をしている。

LFRのホームページ:http://www.lfr.org/

 ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所心物統合プロジェクト:ジョセフソン素子の発見でノーベル物理学賞を受賞したジョセフソンが,PSIに関する物理的研究を行なっている。

心物統合プロジェクトのホームページ:http://www.tcm.phy.cam.ac.uk/~bdj10/

 IGPP(心理学と精神衛生の境界領域)研究所:脳波研究の先駆者ハンス・ベンダー教授によって1950年にドイツ,フライブルグに設けられた。一時はフライブルグ大学に属していたこともある。ディエテル・ヴァイトル教授以下34名のスタッフを擁する。

IGPPのホームページ:http://www.igpp.de/english/welcome.htm

 アムステルダム大学心理学部特異認知研究室:ディック・ビールマン教授の研究室。現代的な機器を使った実験を精力的に進めている。

特異認知研究室のホームページ:http://www.psy.uva.nl/resedu/pn/res/ANOMALOUSCOGNITION/anomal.shtml

<4> 日本の研究

 日本超心理学会(JSPP):1963年に発足した「超心理学研究会」がもとになり,1968年に設立された。小熊虎之助(前明治大学教授)氏が初代会長,大谷宗司(防衛大学校名誉教授)氏が2代目の会長。会員数は100名程。1996年より『超心理学研究』を発行している。

日本超心理学会のホームページ:http://wwwsoc.nii.ac.jp/jspp2/

 国際生命情報科学会(ISLIS):放射線医学総合研究所の山本生体放射研究室が中心になり,1996年に設立された。気功に関する科学的研究が英文を伴って掲載されており,海外からの評価も高い。

国際生命情報科学会のホームページ:http://wwwsoc.nii.ac.jp/islis/sjis/islis.htm

 心の研究室:本講座の参考文献の著訳者として何度も登場する笠原敏雄氏(心理療法家)の私設研究室。IJPの日本窓口にもなっている。

心の研究室のホームページ:http://www.02.246.ne.jp/~kasahara/

 日本サイ科学会(PSIJ):工学系の研究者が中心となって1976年に設立された。初代会長は関英男(前東京工業大学教授)氏,現会長は佐々木茂美(電気通信大学名誉教授)氏である。サイ実測研究会などで,物理測定による実証的研究が行われている。

日本サイ科学会のホームページ:http://homepage3.nifty.com/PSIJ/

 財団法人日本心霊科学協会(JPSA):1946年創立。スピリチュアリズムの研究を日本的視点から行なっている。理事長は、大谷宗司(防衛大学校名誉教授)氏。霊能者(さにわ)の養成をしているらしい。

日本心霊科学協会のホームページ:http://www.shinrei.or.jp/

 その他に人体科学会,日本超科学会,国際宗教超心理研究所などがあるが,筆者は活動実態を把握していないので,割愛する。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるパーマー氏とモリス氏の講演をもとにしている。日本の事情は独自に加えた。日本の研究機関を新たに2つ付加した(2004年1月)。
 関連活動実績:シンポジウム参加


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