京劇「覇王別姫」 を楽しむための講座
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[垓下歌(悲歌)]と[楚歌] [史記] [虞美人草] [千金記] [関連する京劇のことわざ]
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京劇「覇王別姫」 関連事項年表
 説明は[京劇アルバムの頁] |
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古代中国の「楚漢戦争」(前206～前202) 「西楚覇王」項羽 vs 漢の劉邦 西楚(彭城=現・徐州市を中心とする地域) ＜ 三楚(西楚、東楚、南楚) 漢(南鄭=現・陝西省漢中市を中心とする漢中盆地 前210 秦の始皇帝、死去。 各地で反乱。項羽も挙兵。 前207 劉邦軍、咸陽を占領。 前206 「鴻門の会」。 項羽、咸陽を焼き払う。 彭城を都とし｢西楚覇王」と名乗る。 各地で反乱。楚漢戦争勃発。 前202 項羽軍、垓下(現・安徽省蚌埠市)で包囲される。 項羽、烏江で死亡。 劉邦、皇帝となる(漢の高祖)。 |
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関連する故事成語京劇「覇王別姫」の前後の中国史の大きな流れ
| 春秋戦国時代 | 諸侯や貴族たちの戦い |
| 秦の始皇帝 | 圧政による短命な帝国 |
| 秦末の群雄割拠 | 「庶民」も天下取りに参戦した最初 |
| 楚漢戦争 | 項羽と劉邦の戦い |
| 漢王朝(前漢)の成立 | 20世紀まで続く「中華帝国」の完成 |
京劇「覇王別姫」の主な登場人物について| 楚の項羽 | 漢の劉邦 | |
|---|---|---|
| 生没年 | 前232-前202 | 前256?(前247?)-前195 |
| 家柄 | 楚の武将 | 沛県の農民 |
| 言葉※ | 彼可取而代也 | 嗟乎、大丈夫当如此也 |
| 王位 | 西楚の覇王 | 漢王→漢の高祖 |
| 人柄 | 武勇、直情径行 | 太っ腹、親分肌 |
| 項羽 | こうう | |
| 虞姫 | ぐき | 「虞美人」とも。項羽の愛妾(あいしょう)。 |
| 虞子期 | ぐしき | 虞姫の弟。 |
| 項伯 | こうはく | 項羽のおじ。 |
| 鍾離昧 | しょうりまい | 武将。姓は「鍾離」。名前を「眛」(まい)、あるいは「眜(ばつ)」「昩(ばつ)」とする史料もある。「日」と「目」、「未」と「末」の形が似ているための誤写らしい。 |
| 周蘭 | しゅうらん | 武将 |
| 烏騅 | うすい | 項羽の愛馬。「烏」はカラスのように黒っぽい色の意。「騅」は葦毛(あしげ)馬の意。京劇では馬の着ぐるみは使わず、鳴き声はチャルメラで、馬の色は乗馬者が手にもつ鞭の色で表現する。 |
| 馬童 | ばどう | 職名。日本語では「馬丁」(ばてい) |
| 歩兵 | ほへい | 馬に乗る武将につきしたがう歩兵たち。 |
| 宮女 女兵 | きゅうじょ じょへい | 虞姫につかえる女性たち。 |
| 夜警 | やけい | 夜の陣地を見回る警備兵たち。 |
| 劉邦 | りゅうほう | |
| 韓信 | かんしん | 知将。劉邦軍の司令官。「韓信の股くぐり」「国士無双」「背水の陣」「多々益々弁ず」の故事成語でも有名。 |
| 陳平 | ちんぺい | 巧みでずるい作戦を考える策士。 |
| 李左車 | りさしゃ | もと趙国の武将で韓信の部下。「敗軍の将は兵を語らず」(敗軍之将、不可以言勇)の名言で有名。 |
| 呂馬童 | りょばどう | 項羽の幼ななじみ。今は劉邦の部将(馬丁ではない) |
| 閔子期 | びんしき | 劉邦の武将。漁夫に変装して項羽を待ち受ける。 |
| 馬童 | ばどう | 職名。日本語では「馬丁」(ばてい) |
| 歩兵 | ほへい | 馬に乗る武将につきしたがう歩兵たち。 |
京劇「覇王別姫」の舞台を楽しむうえで最低限知っておきたい演技の約束ごと
本作で描かれる項羽の敗因(劉邦の勝因)京劇「覇王別姫」の項羽の「垓下歌」(がいかのうた。「悲歌」)
| 力抜山兮気蓋世 | li ba shan xi qi gai shi | りー ばー シゃん しー ちー がい シー |
| 時不利兮騅不逝 | shi bu li xi zhui bu shi | シー ぶー りー しー ぢゅい ぶー シー |
| 騅不逝兮可奈何 | zhui bu shi xi ko nai ho | ぢゅい ぶー シー しー こ ない ほー |
| 虞兮虞兮奈若何 | yu xi yu xu nai ruo ho | ゆぃ しー ゆぃ しー ない る゛(濁音)お ほー |
| 力山を抜き気世を蓋う | ちから やまをぬき キ よをおおう |
| 時利あらずして騅逝かず | とき リあらずして スイ ゆかず |
| 騅の逝かざる奈何すべき | スイのゆかざる いかんとすべき |
| 虞や虞や若を奈何せん | グや グや なんじを いかんせん |
 説明は[京劇アルバムの頁] |
| 力 リー li ソー |
抜 バー ba ラー |
山 シャン shan ソー |
兮 シー xi ファー |
気 チ(ヒ)ー qi ドー |
蓋 ガイ gai レファ |
世 しー shi ドー |
休符 |
| 時 しー shi ファー |
不 ブー bu レファ |
利 リー li レー |
兮 シー xi ドー |
休符 | 騅 ぢゅい zhui ラー |
不 ブー bu ソファ |
逝 しー shi ラー | 休符 |
| 騅 ぢゅい zhui ラー |
不 ブー bu ラー |
逝 しー shi ソファ |
兮 シー xi ラー |
伸ばす | 可 コ ko ドー |
奈 ナイ nai レファ |
何 ホー ho ドー |
伸ばす |
| だんだんゆっくり | ||||||
| 虞 ユィー yu ファー |
兮 シー xi レファ |
虞 ユィー yu レー |
兮 シー xi ドー |
奈 ナイ nai レー |
若 る゛ぉー ruo レファ |
何 ホー ho ドー |
京劇『覇王別姫』より 虞美人が歌う「楚歌」
| 漢兵已略地 | han bing yi lyuo di | はん びん いー りゅお でぃー |
| 四面楚歌声 | si mian cu ge sheng | すー みぇん つー がー シぇん |
| 君王意気尽 | jun wang yi qi zin | じゅん わん いー ちー ずぃーん |
| 賎妾何聊生 | zien cie ho liao sheng | ずぃえん つぃえ ほー りゃお シぇーん |
| 漢兵已に地を略し | カンペイすでにチをリャクし |
| 四方 楚歌の声 | シホウ ソカのこえ |
| 大王の意気尽く | ダイオウのイキ つく |
| 賎妾何ぞ生を聊んぜん | センショウ なんぞセイをやすんぜん |
| 字割り | 一二三四五六七、 | 一二三四五六七。 |
| 「楚歌」１ | 堂上撇得双親在、 | 朝朝暮暮盼児回。 |
| 「楚歌」２ | 沙場壮士軽生死、 | 十年征戦為了誰。 |
『史記』の原漢文| 司馬遷『史記』項羽本紀より | |
|---|---|
| 【原漢文】項王軍壁垓下。兵少食尽。漢軍及諸侯兵囲之数重。夜聞漢軍四面皆楚歌、項王乃大驚曰「漢皆已得楚乎？ 是何楚人之多也！」。項王則夜起、飲帳中。有美人名虞、 常幸従。駿馬名騅、常騎之。於是、項王乃悲歌慨、自為詩曰「力抜山兮気蓋世、時不利兮騅不逝。騅不逝兮可奈何、虞兮虞兮奈若何？」。歌数闋、美人和之。 項王泣数行下、左右皆泣、莫能仰視。於是項王乃上馬騎、麾下壮士騎従者八百余人、直夜潰囲南出、馳走。平明、漢軍乃覚之、令騎将潅嬰以五千騎追之。 |
【書き下し文】 項王の軍、垓下に壁す。兵少なく食尽く。漢軍及び諸侯の兵、之を囲むこと数重なり。(コウオウのグン、ガイカにヘキす。ヘイスクなくショクツく。カングンオヨびショコウのヘイ、コレをカコむことスウチョウなり。) 夜、漢軍の四面に皆楚歌するを聞き、項王乃ち大いに驚きて曰く「漢、皆已に楚を得たるか。是れ何ぞ楚人の多きや」と。(ヨル、カングンのシメンにミナソカするをキき、コウオウスナワちオオいにオドロきてイワく「カン、ミナスデにソをエたるか。コれナンぞソヒトのオオきや」と。) 項王、則ち夜起ちて帳中に飲す。美人有り、名は虞、常に幸せられて従ふ。駿馬あり、名は騅、常に之に騎す。(コウオウ、スナワちヨルタちてチョウチュウにインす。ビジンアり、ナはグ、ツネにコウせられてシタガう。シュンメアり、ナはスイ、ツネにコレにキす。) 是に於て、項王乃ち悲歌慷慨し、自ら詩を為りて曰く、(ココにオイて、コウオウスナワちヒカコウガイし、ミズカらシをツクりてイワく、) 「力、山を抜き、気、世を蓋ふ。時、利あらずして騅逝かず。騅の逝かざる、奈何とすべき。虞や虞や若を奈何せん」と。(チカラ、ヤマをヌき、キ、ヨをオオう。トキ、リあらずしてスイユかず。スイのユかざる、イカンとすべき。グやグや、ナンジをイカンせん」と。) 歌ふこと数闋。美人、之に和す。項王、泣数行下る。左右皆泣き、能く仰ぎ視るもの莫し。(ウタうことスウケツ、ビジンコレにワす。コウオウ、ナンダスウギョウクダる。サユウミナナき、ヨくアオぎミるものナし。) 是に於て項王乃ち上馬して騎す。麾下の壮士、騎従する者八百余人。直ちに夜、囲みを潰して南に出でて馳走す。平明、漢軍乃ち之を覚り、騎将灌嬰をして五千騎を以て之を追はしむ。 (ココにオイてコウオウ、スナワちジョウバしてキす。キカのソウシ、キジュウするモノハッピャクヨニン。タダちにヨル、カコみをカイしてミナミにイでてチソウす。ヘイメイ、カングンスナワちコレをサトり、キショウカンエイをしてゴセンキをモッてコレをオわしむ。) |
「虞美人草」の伝説
 [草花写真館]＞[ヒナゲシ] |
「千金記」の原文|
【虞美人】〔占上〕一身曾沐君恩寵。暖帳親承奉。香雲如鬢擁。暁粧尤倦。佩環声細。絳裙風動。 玉容未必傾人国。椒房寵愛君恩極。海棠睡起春正嬌。莫把金珠汚顔色。金珠雖艶美未匀。如何顔色従来嗔。但愁春去顔色改。不得君恩常顧身。 妾乃西楚覇王之妃。連日我君王看他眉頭不展。未審何如。待他出来。問取端的。〔浄扮覇王上〕 【前腔】 蓋世英雄。始信短如春夢。 力抜山兮気蓋世。時不利兮騅不逝。騅不逝兮怎奈何。虞兮虞兮奈若何。〔占〕大王為何発此言語。〔浄〕你尚未暁得。自家興兵五載。 身経七十余戦。未嘗有敗。今日天欲亡我。豈不可嘆。〔占〕原来這等。如何是好。〔浄〕 【泣顔回】 覇業已成灰。論英雄蓋世無敵。時遭折挫。 到今枉自遅疑。思之就裏。夫人。誰知有今日。嘆当初早不用鴻門計。把孤身冒鏑当鋒。時不利豈知今日。 【青天歌】 〔生衆〕金鼓要分明。 金鼓要分明。人望旌旗。馬聴鑼声。把都毎。把都毎。勢擺箇合羅陣。 【前腔】〔生〕一鼓便興師。一鼓便興師。二鼓往前征。鼓擂三通。 砲発連声。把都毎。把都毎。勢擺箇黄竜陣。 【前腔】頭戴茜紅纓。頭戴茜紅纓。挽上長弓。箭射流星。把都毎。把都毎。 勢擺箇分沖陣。 〔占〕大王。這是什幺響。〔浄〕這是楚歌之声響。〔占〕怎幺四囲都是。〔浄〕你不暁得。風色一正。 却四面周囲都是響的。 【前腔】〔生衆〕前隊両辺分。前隊両辺分。中隊盤桓。后隊絶奔。 把都毎。把都毎。勢擺箇長蛇陣。 〔生衆下浄〕夫人。不好了。不好了。 外面歌声尽是漢家之兵。今已得楚矣。 【泣顔回】 腰間仗剣吐虹霓。空自有抜山之力。罷罷。隻是 我該如此了。夫人。過江東来時節。四十五万人馬。如今隻剰得這些了。天亡吾楚。看看食尽兵疲。聞歌四起。 漢軍囲沖散了三千隊。夫人呵。〔合〕我和伊。難忍分離。禁不住両行情涙。 【前腔】〔占〕嫁鶏怎不逐鶏飛。 教妾身如何存済。心灰腸断。雲山翠圧愁眉。喧天鼓鼙。漢軍囲四下裏重重至。〔合前末上報介〕 【賺】垓下重囲。 帳裏将軍知也未。〔浄〕你為何的。〔末〕看四下裏騰騰横殺気。〔浄〕英雄志。当初指望造鴻基。如今一旦成虚費。 〔浄〕美人。我死也罷。隻是舎不得你。你到那裏去。〔貼〕告大王知道。忠臣不事二君。烈女不更二夫。大王倘有不幸。 奴家豈肯存着異心。〔浄〕罷罷。你去好生伏事漢王罷。我与你別了。再不得相会了。〔貼〕大王。你不須疑。 賜与我三尺青鋒先刎死。〔浄〕虞美人。果是這般貞烈呵。我就把青鋒付与伊。〔占〕大王。和你分別去。 除非夢裏重相会。放心前去。〔占自刎介〕粉憔玉砕。 【撲灯蛾】〔浄〕可怜一婦人。可怜一婦人。激烈男児志。甘自把身躯須臾喪吾竜泉也。 魂飛魄散。好教我一身無計。到如今怎生区処。隻恐漢兵又来至。 【前腔】〔末〕大王休遅滞。頃刻漢兵至。及早須宜回避也。〔浄〕将伊首級。 且将来馬上懸之。願生死同帰一処。管教伊名登青史。留取箇好名児。 尾声 仰天大哭長吁気。回望山河黒霧迷。不料虞姫先刎死。 百戦徒労覇業空。 万千辛苦不成功。 従来多少興亡事。生死如同一夢中。 参考サイト 書海文学網 六十種曲千金記 第三十七出別姫 (中国語) http://wenxue.shuhai.com/read/15803/844773.html 中国京劇戯考「覇王別姫」(中国語) http://wenku.baidu.com/view/3529c6533c1ec5da50e2702c.html |
関連する京劇のことわざ
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