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ーうづもれし あつき たましいに

本郷賦後序 ほんごうふ こうじょ

書き下し  平仄配列図  简体中文
  昔青蓮居士、空寄高吟於謝尚01;延陵季子、悵留寶剣于徐君02。今亦有加藤、私作一章文賦;以貽宅見03、深傷寂寞卅年。而求同學之加批、忝老師之題讃。讃曰;04
奇情壮采  亦文亦騒  萬斛泉源05 汨汨滔滔
切磋琢磨  瑜存瑕消  百尺竿頭  歩歩争高
  嗚呼 ! 本郷學府06、文運久衰;駒場蓬寮、狷狂何絶 ?此時耳:曩令宅見、挑彼不毛07;今使加藤、享斯過奬 ! 文才或伯仲、志意固不偕。
  若徴今日、此賦聊足稱豪耶 ? 然僕讀宅見遺稿:驚創業之精神、感憑河之進取。而羨先師於啓發、慙前輩於憤悱08。一想其心、反觀此賦、應言未入崑山片玉、徒瞻桂林一枝者而已 !09

選自「乙丑集」稿

[自注]

01…李白詩:「余亦能高詠、斯人不可聞」
02…季札懸剣。
03…宅見晴海(1932-1955)東京大學先輩。
04…此題辞是王水照老師所寄。
05…蘇軾文:「吾文如萬斛泉源、不擇地而出」
06…東京大學、一二年級學於駒場、三年級以上學於本郷。
07…宅見遺稿集、名曰『不毛なものに挑みて』
08…憑河、啓發、憤悱]、『論語』述而。
09…『晋書』郤[言先]傳。

[訓読]「本郷賦」後序

[www化に際し(よみがな)のみ現代仮名遣いにしました。]
 昔、青蓮居士(せいれんこじ)、空(むな)しく高吟(こうぎん)を謝尚(しゃしょう)に寄せ、延陵 季子、悵(かな)しびて寶剣(ほうけん)を徐君(じょくん)に留(とど)む。今 亦(ま)た加藤 有り て、私(ひそ)かに一章の文賦を作り、以(もっ)て宅見(たくみ)に貽(おく)り、深く寂寞(せきば く)たる卅年(さんじゅうねん)を傷(いた)む。而(しか)して同學の批を加へんことを求め、老師 の題讃(だいさん)を忝(かたじけ)なうす。讃に曰く、

   奇情壮采 亦た文あり亦た騒あり
   萬斛(ばんこく)泉源 汨汨(こつこつ)たり滔滔(とうとう)たり
   切磋(せっさ)し琢磨(たくま)すれば 瑜(ゆ) 存し 瑕(か) 消ゆ
   百尺(ひゃくせき)の竿頭(かんとう) 歩歩 高きを争ふ

 嗚呼(ああ)。本郷(ほんごう)の學府、文運 久しく衰へぬ。駒場(こまば)の蓬寮(ほうりょう)、狷狂(けんきょう) 何ぞ絶ゆる。此(こ)れ時のみ。曩(さき)に宅見をして彼(か)の不毛に挑(いど)ましめ、今 加藤をして斯(こ)の過奬(かしょう)を享(う)けしむとは。文才 或(あるい)は伯仲(はくちゅう)するも、志意 固(もと)より偕(かな)はず。
 若(も)し今日に徴(ちょう)すれば、此の賦も聊(いささ)か豪(ごう)と稱(しょう)するに足(た)らんか。
 然(しか)れども僕 宅見の遺稿を讀(よ)み、創業の精神に驚き、憑河(ひょうか)の進取に感ず。而(しか)して先師を啓發(けいはつ)に羨(うらや)み、前輩(ぜんぱい)を憤悱](ふんひ)に慙(は)づ。一(ひと)たび其の心を想ひ、反(かえ)りて此の賦を觀(み)れば、應(まさ)に未(いま)だ崑山(こんざん)の片玉(へんぎょく)にも入らず、徒(いたず)らに桂林(けいりん)の一枝を瞻(あお)ぐ者と言ふべきのみ。

「本郷賦」後序(ほんごうふこうじょ)
四六駢文(しろくべんぶん) 平仄(ひょうそく)配列図

○は平字 ●は仄字
△は仄字であるべきところなのに平字である箇所 ▲は平字であるべきなのに仄字である箇所
+は平仄いずれも可の箇所

+○+●、+●+○+●●青蓮居士、空寄高吟於謝尚;  *青蓮居士は李白のこと。
+△+▲、+○+●+○○延陵季子、悵留宝剣于徐君。  *延陵季子は季札のこと。
+●+○、+●+○+●亦有加藤、私作一章文賦;
+○+●、+○+●+○以貽宅見、深傷寂寞卅年。
+○●++○求同學之加批、
+●○++●忝老師之題讃。  *この讃は王水照教授が書いてくださったもの。
++讃曰;
+・・・奇情壮采  亦文亦騒  萬斛泉源 汨汨滔滔
+・・・切磋琢磨  瑜存瑕消  百尺竿頭 歩歩争高
++嗚呼 !
+○+●、+●+○本郷學府、文運久衰;  *本郷、駒場は地名。
+△+○、+○+●駒場蓬寮、狷狂何絶 ?
+++此時耳:
+○+●、+●+○曩令宅見、挑彼不毛;
+●+○、+○+●今使加藤、享斯過奬 !
+○++●文才或伯仲、
+●++○志意固不偕。
+・・・若徴今日、此賦聊足稱豪耶 ?
+・・・然僕讀宅見遺稿:
○●●+○○驚創業之精神、
●○○+●●感憑河之進取。
●+○++●羨先師於啓発、
○+●++●慙前輩於憤[心非]  *[心非]は「りっしんべん+非」という漢字。音「ヒ」
+●+○一想其心、
+○+●反観此賦、
++応言
+●+○+●未入崑山片玉、
+○+△+○+++徒瞻桂林一枝者而已

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