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ーあらたなる うたごゑを

丙寅楽府稿自序 へいいんがふこう じじょ

書き下し  平仄配列図  简体中文

  夫日本人學華文者、朱泙漫之屠龍01、公輸盤之爲鵲也02。不資經世、無志濟民。勤以三餘03、止於獨笑04。或矜『傳』癖05、或甘『紅』迷。凡古必眞、凡清皆好06。無裁詩賦、只累論文。「三豕渡河」、妄稱一聖07;「曰若稽古」、枉費萬言08。廷獻賞揚、竟成終古09;炳麟嘲笑、彌刺今朝10。看我同門、亦如此耳。
  徹、生値昇平、齢垂廿四11。池塘寸艸12、未報春暉13;階下碧梧、漸憂秋韻。學雖未博、書足記名14;言雖不文15、詩足陳志16。其所長者、通觀雅俗、跋渉古今。吟先哲之精華、游文章之林府17。其所短者、性傾矯激、習攻異端18。愛笛子於崑腔、弄胡琴於京劇19。心揮板眼、擬叩角於嶩山20;意發宮商、比吹簫於呉市21。其所患者、常求切磋、難得他山22。雖兼鼫鼠五能23、固異伶夔一足24。單絲不線、孤掌難鳴也。
  於是、聊編習作、將示高朋。非耀我誇、欲諍「女畫」25。名云:丙寅楽府稿。猶恐拗折中國人嗓子而已26。
  我平生、有五車之腹稿、無一語之入玄27。主新聲、副清曲。裁以明光錦、作以負版褰28。此則非謝太傅之砕金29、似鍾司徒之撰論30;應遥投於戸外、豈擲與於諸賓。然効工僑之埋琴31、駢文作序;鑑楚賈之飾[木賣]32、自註爲箋。嗚呼 ! 廖化先鋒耶 ?33 史・曾嚆矢耶 ?34 金聲微作、玉振未期矣 !35

選自「丙寅集」稿



[自注]

01…『荘子』列御寇:朱泙漫學屠龍。三年技成、而無所用其巧。
02…『墨子』魯問:墨子謂魯班曰「子之爲鵲也、不若翟之爲轄」
03…董遇曰:「當以三餘」
04…『蜀志』譙周傳:「誦讀典籍、欣然獨笑、以忘寢食」
05…杜預自云:有『傳』癖。
06…梁啓超評恵棟學風云:凡古必真、凡漢皆好。
07…『孔子家語』:子夏曰「三豕渡河」。時人以爲聖。
08…『漢書』注:桓譚『新論』云:「曰若稽古」三萬言。
09…譚獻曾賞揚日本人頼山陽文章、以爲在王世貞之上。見『復堂日記』光緒八年条。
10…章炳麟批評日本「漢学」。見『太炎文録』。
11…足歳也。
12…朱熹詩:「未覺池塘春草夢、階前梧葉已秋聲」
13…孟東野詩:「難將寸草心、報得三春暉」
14…『史記』:「書足以記姓名而已」
15…『左傳』襄二十五:仲尼曰:言之無文、行而不遠。
16…『左傳』襄二十七:詩以言志。
17…『文賦』。
18…『論語』。
19…東京有票房。吾出入良久、相得。
20…齊桓公夜出近舎。寧戚牧、疾撃牛角而歌。乃迎之爲相。
21…伍子胥至呉、吹簫於市、以歌冤恨。呉王乃用之。
22…『詩經』。
23…蔡邕『勸學篇』:「鼫鼠五能、不成一技」
24…『韓非子』:尭曰「夔一而足矣」 又『呂覧』。
25…『論語』:「今女畫」
26…擬湯顕祖語。
27…『世説』文學:恵子其書五車、無一語入玄。
28…『世説』文學。
29…謝安。『世説』文學。
30…鍾會。
31…工之僑。
32…『韓非子』外儲説左上。
33…『三國志』。
34…『荘子』在宥。
35…『孟子』万章下:「集大成也者、金聲而玉振之也」

[訓読]「丙寅楽府稿」自序

[www化に際し(よみがな)のみ現代仮名遣いにしました。]
 夫(そ)れ日本人の華文を學ぶ者は、朱泙漫(しゅへいまん)の屠龍(とりゅう)、公輸盤の鵲(かささぎ)を爲(つく)るなり。經世に資せず、濟民(さいみん)に志す無し。勤(つと)むるに三餘(さんよ)を以(もっ)てし、止(とど)まるに獨笑(どくしょう)に於(おい)てす。或(あるい)は傳癖(でんぺき)を矜(ほこ)り、或は紅迷に甘んず。凡(およ)そ古なれば必ず眞(しん)、凡そ清(しん)なれば皆好し。詩賦を裁(た)つ無く、只だ論文を累(かさ)ぬ。「三豕(さんし)渡河」、妄(みだ)りに一聖と稱し、「曰若稽古(えつじゃくけいこ)」、枉(むな)しく萬言(まんげん)を費(ついや)す。廷獻(ていけん)の賞揚、竟(つい)に終古と成り、炳麟(へいりん)の嘲笑、彌(いよ)いよ今朝(こんちょう)を刺す。我が同門を看(み)るに、亦(ま)た此(かく)の如(ごと)きのみ。
 徹、生(せい)は昇平に値(あ)ひ、齢(よわい)は廿四(にじゅうし)に垂(なんなん)とす。池塘(ちとう)の寸艸(すんそう)、未(いま)だ春暉(しゅんき)に報いず、階下の碧梧(へきご)、漸(ようや)く秋韻を憂ふ。學 未だ博(ひろ)からずと雖(いえど)も、書は名を記するに足り、言 文ならずと雖も、詩は志を陳(の)ぶるに足る。其の長ずる所の者は、雅俗を通觀し、古今を跋渉(ばっしょう)す、先哲の精華を吟じ、文章の林府に游ぶ。其の短とする所の者は、性 矯激(きょうげき)に傾き、習ひ異端を攻む、笛子(てきし)を崑腔(こんこう)に愛し、胡琴(こきん)を京劇に弄す、心 板眼に揮(ふる)ひ、嶩山(のうざん)に角を叩(たた)くに擬し、意 宮商に發し、呉市(ごし)に簫(しょう)を吹くに比す。其の患(うれ)ふる所の者は、常に切磋(せっさ)を求むれども、他山を得難し、鼫鼠(せきそ)の五能を兼ぬと雖も、固(もと)より伶夔(れいき)の一足と異なり、單絲線ならず、孤掌(こしょう)鳴らし難きなり。
 是に於て、聊(いささ)か習作を編み、將(まさ)に高朋(こうほう)に示さんとす。我が誇を耀(かがや)かすに非ず、「女(なんじ)畫(かぎ)れ」るを諍(ただ)さんと欲(ほっ)するなり。名づけて『丙寅楽府稿』(へいいんがふこう)と云(い)ふ。猶(な)ほ恐るらくは中國人の嗓子(そうし)を拗折せんのみ。
 我れ平生、五車の腹稿有るも、一語の玄(げん)に入る無し。新聲(しんせい)を主とし、清曲を副とす。裁つに明光の錦を以てするも、作るに負版の褰(けん)を以てす。此れ則(すなわ)ち、謝太傅(しゃたいふ)の砕金(さいきん)に非(あら)ず、鍾司徒(しょうしと)の撰論に似たり、應(まさ)に戸外より遥投(ようとう)すべし、豈(あ)に諸賓(しょひん)に擲與(てきよ)せんや。然(しか)れども、工僑(こうきょう)の埋琴(まいきん)に効(なら)ひ、駢文(べんぶん)もて序を作り、楚賈(そこ)の[木賣](とく)を飾りしに鑑(かんが)み、自ら註して箋(せん)と爲す。嗚呼(ああ)、廖化(りょうか)の先鋒(せんぽう)か、史・曾(しそう)の嚆矢(こうし)か。金聲微(かす)かに作(おこ)るも、玉振(ぎょくしん)未だ期あらざるなり。

「丙寅楽府稿序」(へいいんがふこうじょ)
四六駢文(しろくべんぶん) 平仄(ひょうそく)配列図

○は平字 ●は仄字
△は仄字であるべきところなのに平字である箇所 ▲は平字であるべきなのに仄字である箇所
+は平仄いずれも可の箇所

一部の文字を合成文字で示してあります。
 例:[山奇]=崎
夫日本人学華文者、
朱泙漫之屠龍、
公輸盤之為鵲也。
++●++○
++○++●+
不資経世、
無志済民。
+○+●
+●+○
勤以三余、
止於独笑。
+●+○
+○+●
或矜『伝』癖、
或甘『紅』迷。
+○+●
+●+○
凡古必真、
凡清皆好。
+●+○
+○+●
無裁詩賦、
只累論文。
+○+●
+●+○
「三豕渡河」、妄称一聖、
「曰若稽古」、枉費萬言。
+●+○、+○+●
+▲+●、+●+○
廷献賞揚、竟成終古、
炳麟嘲笑、弥刺今朝。
+●+○、+○+●
+○+●、+●+○
看我同門、
亦如此耳。
+●+○、
+○+●
徹、
生値昇平、
齢垂廿四。
+●+○
+○+●
池塘寸艸、未報春暉、
階下碧梧、漸憂秋韻。
+○+●、+●+○
+●+○、+○+●
学雖未博、書足記名、
言雖不文、詩足陳志。
+○+●、+●+○
+△+○、+●+●
其所長者、
通観雅俗、
跋渉古今。
+○+●
+●+○
吟先哲之精華、
游文章之林府。
++●++○
++○++●
其所短者、
性傾矯激、
習攻異端。
+○+●
+○+○
愛笛子於崑腔、
弄胡琴於京劇。
++●++○
++○++●
心揮板眼、擬叩角於[山農]山、
意発宮商、比吹簫於呉市。
+○+●、+●●++○
+●+○、+○○++●
其所患者、
常求切磋、
難得他山。
+○+●
+●+○
雖兼[鼠石]鼠五能、
固異伶夔一足。
+○+●+○
+●+○+●
単絲不線、
孤掌難鳴也。
+○+●
+●+○+
於是、
聊編習作、
将示高朋。
+○+●
+●+○
非耀我誇、
欲諍女画。
+●+○
+▲+●
名云:丙寅楽府稿。
猶恐拗折中国人[口桑]子而已。
我平生、
有五車之腹稿、
無一語之入玄。
++○++●
++●++○
主新声、
副清曲。
++○
++●
裁以明光錦、
作以負版褰。
○+++●
●+++○
此則
非謝太傅之砕金
似鍾司徒之撰論、
○++●++○
●++○++●
応遥投於戸外、
豈擲与於諸賓。
++○++●
++●++○
効工僑之埋琴、駢文作序、
鑑楚賈之飾[木賣]、自註為箋。
++△++○、+○+●
++▲++●、+●+○
嗚呼 !
廖化先鋒耶 ?
史曾嚆矢耶 ?
+●+○+
+○+●+
金声微作、
玉振未期矣 !
+○+●
+●+○+

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