『小説 封神演義』嘉藤徹(かとう・とおる)作 2000年7月刊 PHP文庫書き下ろし |
[ここまでのあらすじ] いまから三千年あまり前の中国。殷(いん)の人々は、目に見えぬ神霊(しんれい)を祭るため人間を殺して捧(ささ)げる、という迷信に苦しんでいた。
殷の辺境にある村に生まれた少年・ナタは、人々を苦しめる邪悪な神霊と戦う力を身につけるため、ふたりの兄と武者修行の旅に出るのだが---
やがて、遠くから、夜明けを告げる長鳴(ながな)き鳥(どり)の声が聞こえてきた。 藁帽子の男は言った。 「朝か。お別れだ。もう行かなくちゃいけない」 「行くって、どこに」 男は、星空の「積屍気」(せきしき)(西洋でいう蟹座)の方角を指さした。 「嘘(うそ)をついて悪かったね。おじさんは、この京観の一番底に埋められたんだ。殷の軍隊が攻めてきたとき、みんなの先頭に立って戦い、まっさきに討ち死にしたからね。上に積まれた連中からさきに、順番に昇天していった。一年かかった。最後のひとりが、おじさんさ」 「・・・・・・」 「できれば、生きてるときに、坊やと会いたかった。でも、会えてよかった」 |
東の地平線が茜色(あかねいろ)に染まった。男の姿は、しだいに透明になっていった。 「幽霊なんて、いないのさ。この世にいては、いけないのさ」 男の声は、黎明(れいめい)の光のなかに溶けて消えた。 キンタとモクタが目をさまし、廃屋のなかから出てきた。見れば、ナタが土の山のてっぺんに坐っている。キンタは不思議に思い、 「おーい、ナタ。そんなとこで何をしてる。早くおりてこいよ。まだ旅は長いぞ」 ナタは目の涙を手でぬぐうと、元気よく、土の山を駆け下りた。
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『小説 封神演義』の[あらすじ]を読む [水歌(みなうた)ななこさんによるすばらしいナタのCGイラスト集(水歌さんのHP)] |