第一問 小麦粉で、五百騎の敵騎兵の目をくらませる方法
粉塵爆発という現象があります。小麦粉や石炭は、普通の状態では爆発しませんが、粉末状にして空気と理想的状態で混ぜあわせて点火すると、爆発的に燃焼して大音響を立てます。
実際、日本でも、石炭採掘中の炭鉱やゴム靴工場で、それぞれ石炭の粉やゴムの粉に引火して粉塵爆発事故が起き、死傷者を出す惨事が起きた事があります。
この小説の中で、主人公は、まず納屋の中に小麦粉をまいて充満させ、ついで外から火種を投げ込んで、粉塵爆発を起こしました。まだ火薬も発明されていない当時、「爆発」という未知の現象に人も馬も驚いて、宿場は恐慌状態になりました。その一瞬の隙をついて、主人公たちは、まんまと宿場を逃げ出します。
ちなみに主人公がこの手段で成功したのは、実は、漢土で秘密裏に特殊工作用の訓練を受けていたからでした。「忍術」の源流のようなものです。小麦粉と空気の調合比などは微妙なので、素人には難しい技術です。
言うまでもないことですが、ご自分で粉塵爆発の実験をするのは、おやめになった方が賢明です。
詳しくは、本書39ページをご参照ください。
11月28日、香川県詫間町の建材製造工場で、木材の粉塵による粉塵爆発事故が起き、3000平方メートルが全焼、2人が死亡、2人が重体、9人が重軽傷を負うという痛ましい事件が起こりました。慎んでご冥福をお祈り致します。11月29日追記 |
いわゆるアジサイ(紫陽花)は、ガクアジサイを母種として日本で作られた品種で、古く奈良時代から鑑賞用に栽培されていました。そして日本から、ヨーロッパなどの外国に伝わった植物です。
サクラ(桜)も、日本を含む北半球にもともと広く分布していました。
正解はモモ(桃)です。モモの原産地は、中国の黄河上流の高原地帯とされています。それが、人間の手で東西に広まったと考えられています。
西の地中海世界には、シルクロードを通って、紀元前1世紀ころ伝えられました。東の日本にモモが伝来した時期は不明ですが、九州では、縄文時代の遺跡からモモの種が出土しているので、モモ自体が持ち込まれたのは意外に古いようです。ただし、外来の植物ゆえ、日本の風土に根付くのは難しく、モモが日本に定着したのは弥生時代以降、という説もあります。
ちなみに「モモ」は、古代日本語において、「腿」(肉がたわわな部分)、「百」(数量がたわわ)、などの「もも」と同じく、本来は「たわわに実る植物」の意の一般的名称だったと推定されます。
余談ながら、現在のように甘く大きなモモの実が食べられるようになったのは、明治以降「水蜜桃」など外国から新品種が輸入され、栽培されるようになってからです。江戸時代までのモモは、実を食べるよりも、もっぱら花を愛でるために栽培される鑑賞用植物でした。
小説の中では、モモは、いわゆる「渡来人」たちの運命と情念を象徴する植物として、中盤と結末部に登場します。
詳しくは、本書260ページと394ページをご参照ください。
方法はいろいろと考えられますが、小説の中の登場人物たちがとったのは、以下のような二段構えの作戦でした。
まず姫の部屋に縄を持ち込む方法。月の無い闇夜が来るまで待ち、背格好の似た女性を侍女に変装させ、表玄関から堂々と中に進入させます。縄は、目立たぬよう何回かに分けて運びこめば簡単ですが、それだと露見する危険度も増します。
この小説では、侍女役の女性が裸体の上に縄を巻きつけて服を着て、それで余るぶんは「祈祷用の幣(ぬさ)」だとごまかして荷袋に入れ、一度で運び込みました。
次に安全に飛び降りる方法。縄を姫の足に巻きつけたうえで、そのまま姫に飛んでもらえば簡単ですが、やはり事前に訓練なり練習なりをする必要があるでしょう。そこで、姫は入れ替わりに侍女に変装して、表玄関から安全に逃げます。入れ替わった侍女役の女性は、気の毒な役回りですが、縄を足に巻きつけて飛び降りて逃げます。
問題は縄です。現代のバンジージャンプでは丈夫なゴム製の綱を使いますが、当時、ゴムはありません。登場人物たちは、縄のあちこちを「S」字形にたわめて髪の毛で縛る、という仕掛けを作りました。飛び降りるとき、この仕掛けの髪の毛が次々とプツプツ切れ、落下のショックを吸収するわけです。
しかし、理屈ではともかく、実際にそううまく事が運ぶでしょうか。
小説の中でも、登場人物たちの作戦が順調なのは途中までです。侍女と入れ替わって変装した姫君の正体がばれるという誤算、姫と入れ替わってあとに残った女性が余りの高さに足がすくんで飛べなくなるというアクシデントが続出し、手に汗にぎる展開になってしまいます。
詳しくは、本書139ページ以下をご参照ください。
いろいろな方法が考えられますが、主人公がとったのは、以下の方法です。
まず、なるべく深く海中に潜り、敵を海底に誘い込みます。
次に、一瞬、敵の前から姿を消します。海底の岩影にかくれるのも一法ですが、適切な岩があるかどうか不確実ですし、また敵の方が泳ぎのスピードが早いので、岩影に隠れるのは得策ではありません。
この小説の中で、主人公は「イカ」「タコ」と同じ方法を使って、姿をくらましました。
海賊は、必死になって主人公を探します。海賊の背を、誰かがたたきました。あわてて振り返った海賊は、なぜか海中という場も忘れて爆笑し、結果として溺れてしまいました。そのあと主人公が助けてくれたので、一命は取り止めましたが。
さて、死闘の最中に凶悪な海賊を爆笑させてしまうとは、主人公は、一体どんなものを海賊に見せたのでしょうか。
それは、主人公の面子と気持ちを考えると、作者としてもお明かしするに忍びません。
詳しくは、本書214ページの前後をご参照ください。
正解は洞窟の中です。
「君が代」に「きみがよは、ちよにやちよに、さざれいしの、いわおとなりて、こけのむすまで」と歌われている「サザレ石」ですが、小石が数百年、数千年の年月をかけて成長し、苔蒸す大岩にまで育つ、などとは、いかにも神話的な話です。
でも、自然界には実際にそんな石が存在します。鍾乳洞(しょうにゅうどう)の中の岩つららの下にときどき出来る鍾乳石がそうです。ちなみに洞窟の中は湿度が高く、苔もよく生えます。
「君が代」の「さざれいし」が鍾乳石を指すかどうかは別にして、成長する小石は、たしかに存在するのです。
詳しくは本書351ページをご参照ください。
少し簡単すぎたようですが、正解は笑いです。
実際、「笑い」は、心理学的にみても、ストレスや恐怖に対する特効薬です。
例えば、ナチス・ドイツの強制収容所のユダヤ人たちは、仲間どうしジョークを作りあい、一日一回は笑うことで、最後の瞬間まで精神の均衡を保とうとしました(ヴィクトル=E=フランクル「夜と霧」)。
また「笑い」は、一定の条件下では、猛獣に対してすら有効な武器となります。アメリカの西部開拓期の英雄ダニエル=ブーンは、巨大なハイイログマに出くわしたとき、クマを笑い倒して難をのがれた、と伝えられています。動物行動学の専門家によれば、この方法は科学的に見ても合理的だそうです。ちなみに「クマに会ったとき、死んだふりをすれば助かる」というのは、非科学的な迷信です(玉手英夫「クマに会ったらどうするか」岩波新書、153頁)。
日本神話でも、「天の岩戸」から太陽の女神を復活させたのは、神々の「笑い」の力でした。
中国人が3世紀の日本を記録した「魏志倭人伝」にも、倭人は葬式のとき「喪主は声をあげて泣くが、その他の人々は歌い、踊り、酒を飲んで騒ぐ」と特筆されています。
アメリカ南部の黒人も、「ジャズ葬」といって、仲間が死ぬとジャズを吹きかなで、陽気に騒ぎました。悲しみを笑いに昇華させ、この世で苦労続きのままいった仲間の魂を慰めたのです。
われわれの先祖が、ユダヤ人や南部黒人に負けず劣らず、「笑い」の威力と技術を熟知していた人々だったことは、間違いないようです。
本作品でも、「笑い」は倭人の究極の武器として、何度も登場します。
もし小説「倭の風」のテーマを一言で表現するなら、実は一言すら必要ではありません。無言のまままこの手の形を作って示すだけで、十分です。
本文中、この手の形は、冒頭(10頁)、中盤(175頁)、後半(285頁)、結末(394頁)の四回出てきます。だから、この手の形の意味をここで明かしてしまうと、結末がつまらなくなってしまいます。
「解答篇」としては反則ですが、この解答だけは本書をお読みください。
作者敬白
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