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東アジア芸術論A オンライン授業 第5回
2020/06/05金曜 加藤徹担当

最新の更新2020-6-5  最初の公開 2020-6-5


参考 YouTubeビデオ

時間芸術 Time Arts / Temporal Art
時間芸術とは、時間の推移のうえに表現し、また、時間の推移のなかで享受する芸術のこと。音楽・文学など。「空間芸術」「総合芸術」などと並ぶ概念。
参考 CDの時間はなぜ約74分になったのか?
 CD初期の最大収録時間は74分42秒だった。その理由はクラシック音楽である。
 CDを開発した当時のソニーの副社長で声楽家出身の大賀典雄氏は「オペラ一幕分、あるいはベートーヴェンの第九が収まる収録時間」を主張したからである。

 空間芸術(モノの芸術)は空間のなかで表現され、享受される。例えばモナリザの絵を見るのに30秒かけてもよいし、2時間かけてじっくり眺めてもよい。またモナリザの絵を、絵の中心部から見始めるか、右下から左上へと見るか、全体像をパッと見るか、鑑賞の動線も鑑賞者の自由である。そしてモナリザの絵、という作品は、モノとして空間のなかに残り続ける。

 時間芸術(コトの芸術)は時間のなかで表現され、享受される。例えば「ベートーペンの第九」という音楽を鑑賞しようと思ったら、演奏の最初から最後まで時間をかけて、演奏の順番どおりに鑑賞しなければならない。CDなら、一時停止や早送り、巻き戻しも可能だが、CDの録音はあくまで音楽作品の記録にすぎず、音楽作品そのものではない。楽譜もまた記録であり、作品そのものではない。音楽作品そのもの、例えばカラヤンの指揮による第九の演奏は、演奏時間のあいだだけ「この世」に存在し、演奏の渉猟とともに消える。 録音や録画はあまくでも作品の記録にすぎない。モナリザの絵を写真に撮影しても、その写真は記録にすぎないのと同様である。

   

刹那生滅(せつなしょうめつ)

「刹那」KSHANA/SETSUNA は、仏教哲学における時間の最小単位(の比喩的表現)。現代科学の「プランク時間」planck timeの概念に相当する。

 「刹那生滅」の世界観を土台とした文芸作品は多い。
 中国の文人・蘇東坡(そとうば Sū Dōngpō 1037年−1101年)が長編の韻文作品「赤壁の賦」(せきへきのふ)は、日本でも「漢文」の授業の教材などで有名。
 宮沢賢治(みやざわ・けんじ 1896年−1933年)の詩集『春と修羅』(はるとしゅら)の序文も、「刹那生滅」の世界観をふまえる。
 SFでもよく取り上げられる。

米国のテレビドラマ「新トワイライト・ゾーン」シーズン1 The Twilight Zone 1986 第15-3話 原題:A Matter of Minutes (邦題 時のすきま) 放送日:1986/1/24
https://youtu.be/e9XFRfeGBVI

スティーブン・キング(Stephen Edwin King)原作の、1995年のSFテレビドラマ『ランゴリアーズ』(The Langoliers)
予告編 https://youtu.be/asQrdOA0joA

参考 [物と事と時間 文学で楽しむ東洋哲学]

 仏教の刹那滅・刹那生の考えかた。拙著『漢文力』参照。

 宮沢賢治の詩集『春と修羅』(はるとしゅら)の序文
 仏教の「刹那生滅(せつなしょうめつ)」=「刹那滅・刹那生」の宇宙観に基づく詩集。宮沢は、浄土真宗や『法華経』の影響を強く受けた。
 参考 [青空文庫・宮沢賢治『春と修羅』]


わたくしといふ現象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといつしよに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です
(ひかりはたもち その電燈は失はれ)

これらは二十二箇月の
過去とかんずる方角から
紙と鉱質インクをつらね
(すべてわたくしと明滅し
 みんなが同時に感ずるもの)
ここまでたもちつゞけられた
かげとひかりのひとくさりづつ
そのとほりの心象スケツチです

これらについて人や銀河や修羅や海胆は
宇宙塵をたべ または空気や塩水を呼吸しながら
それぞれ新鮮な本体論もかんがへませうが
それらも畢竟こゝろのひとつの風物です
たゞたしかに記録されたこれらのけしきは
記録されたそのとほりのこのけしきで
それが虚無ならば虚無自身がこのとほりで
ある程度まではみんなに共通いたします
(すべてがわたくしの中のみんなであるやうに
 みんなのおのおののなかのすべてですから)
【以下、省略】


ピンクスの酒 Binks no Sake

詳しくは {
play プレイ} > [演劇と科学・ビンクスの酒]



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