明治大学知的財産法政策研究所

Intellectual Property Law and Policy Institute (IPLPI) at Meiji University

コンテンツの創作・流通・利用主体の利害と著作権法の役割

科学研究費補助金(基盤研究A)平成23~27年度

研究代表者:中山信弘

概要



【コンテンツの創作・流通・利用主体の利害と著作権法の役割】

著作物を中心としたコンテンツの創作・流通・利用に関する現代の環境は、著作権法がこれまで前提としてきた状況から大きく変化しつつある。本研究は、コンテンツの創作・流通・利用に関わる各主体のもつ多様な利害に着目し、現代的な環境下において、各主体の利益の実現や調整に際して果たすべき著作権法の役割を明確にすることを目的とする。具体的には、フィールドとプレイヤーに関して特に重要な環境変化を生じている問題状況として(1)①電子出版、②大学と研究者、③図書館、④同人活動、⑤流通のツールというサブテーマを設定し、これらの創作・流通・利用主体の実態を実証的に分析し、(2)著作権法の視点(A 職務著作、B 著作者人格権、C 権利制限規定、D 法的スキーム)から検討することで、実証的研究に基づいた著作権法の立法論・解釈論を提示することを目的とする。


目的


従来、コンテンツの創作と流通は出版社、音楽出版社・レコード製作会社、映画会社等が中心的な役割を果たしており、かつての著作権法は業法としての性格が強かった。しかし、近年の情報通信技術の発達と社会環境の変化は著作物の創作と利用を巡るフィールドとプレイヤーに大きな変化をもたらした。現在、コンテンツの創作・流通・利用には様々な主体が関与しているが、各主体における活動の目的は多様なものに変化している。
各主体をその活動するフィールドを基礎に分類すると、コンテンツの創作者、著作権法上の利用行為(複製、公衆送信、頒布等)を行う中間流通業者(出版社、書店、動画投稿サイト等)、最終的に有形・無形の形式で再製されたコンテンツを消費する利用者(エンドユーザー)の三者に大別される。ただし、コンテンツ分野では二次創作やブログによる情報発信等を行う生産消費者(prosumer)が登場したことにより、各主体相互の境界があいまいになりつつある部分もある。

● コンテンツの創作者:現代のコンテンツの創作者には、職業的作家、趣味人、その中間としての同人活動、研究者、企業の下で働く労働者等の様々な者がいる。これら創作主体の創作の動機は多様であり、金銭的利益を望む者もいれば、名声の獲得の方を重視する者、名声すら必要とせず自己の作品・思想の普及を望む者、専ら自己の作品が利用・改変されないことを望む者もいる。また期待する金銭的利益の多寡も創作主体により区々であるし、莫大な利益を求めない場合、創作環境を与える企業や大学等、労働賃金を提供する組織との社会的関係の方を重視する。

● コンテンツの中間流通業者等:複製・放送などを行うメディアや中間流通業者は、金銭的利益を求める場合が多い。ただし、その利益の回収方法は多様であり、コンテンツの流通によって短期的な回収を図る場合もあれば、創作者を育成しつつ長期的な利益の回収を図ることもある。一定のコンテンツを無償で提供することで、更なる市場の開拓を意図する場合もある。他方で、単純に金銭的利益のみならず、社会的評価や一定の類型の作品や特定の信念・思想の伝播それ自体を意図する中間流通業者も少なくない。視点を広げれば、図書館や美術館、教材等の利用主体である大学、コミックマーケット等もメディアとして一定の機能を果たしている。

● コンテンツの利用者:デジタル化・ネットワーク化により、コンテンツに対するエンドユーザーの利害は複雑なものとなった。ひたすらにコンテンツを無償で利用しようとする者もいれば、あえて対価の支払いに創作者との紐帯を見出す者もいる。また、二次創作を含む著作物の創作やファイル交換等を行う流通の過程でエンドユーザーは大きな影響を有するようになった。
著作権法は、著作物の創作・流通主体への権利付与(著作権や著作隣接権等)を通じてそれらの者の利益の実現手段を提供しつつ、権利の制限等により著作物の利用主体等との利害調整を図ることで、法の目的たる文化の発展を追求してきた。しかし、近年のフィールドとプレイヤーの変化により、著作権法は各主体の多種多様な利益状況に十分に対応したものではなくなっている。
そこで本研究は、創作・流通・利用に関わる各主体が何を求めどのように活動しているのか、その実態を計量経済学の手法を中心とした実証研究により把握し、その利益の実現・利害の調整において著作権法が果たすべき役割を具体的な立法論・解釈論と共に示すことを目的とする。



メンバー


研究代表者:
 中山信弘 明治大学研究・知財戦略機構特任教授 東京大学名誉教授

研究分担者:
 蘆立順美 東北大学大学院法学研究科准教授
 今村哲也 明治大学情報コミュニケーション学部准教授
 大野幸夫 明治大学法学部教授
 金子敏哉 明治大学法学部准教授
 潮海久雄 筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授
 白田秀彰 法政大学社会学部准教授
 田中辰雄 慶應義塾大学経済学部准教授
 藤本由香里 明治大学国際日本学部教授
 前田健  神戸大学大学院法学研究科准教授
 横山久芳 学習院大学法学部教授

連携研究者:
 上野達弘 早稲田大学法学部教授
 小島立  九州大学大学院法学研究院准教授
 島並良  神戸大学大学院法学研究科教授
 寺本振透 九州大学大学院法学研究院教授

研究協力者:
 安藤和宏 株式会社セプティマ・レイ代表取締役 早稲田大学客員上級研究員
 桶田大介 弁護士
 野口祐子 弁護士 国立情報学研究所客員准教授
 福井健策 弁護士 日本大学藝術学部客員教授
 三村量一 弁護士

研究成果


シンポジウムの議事録、本研究会での議論に関連する提言等については、Archiveページに掲載しています。

アンケートについて


本プロジェクトの一環として、慶應義塾大学の田中辰雄准教授を中心として、著作権に関する意識調査を目的とするアンケートを実施いたしました。ご協力を頂いた方には心より御礼申し上げます。
調査結果については、当初、2012年中の本ホームページでの公表を予定していましたが、追加調査のデータと合わせて公表に向けて準備中です。