刊行物

明治大学現代中国研究所所長 鈴木賢は、2023年3月20日、その著『台湾同性婚法の誕生——アジアLGBTQ+ 燈台への歴程』(日本評論社、2022年)で、斯界のもっとも権威ある第35回《尾中郁夫・家族法学術賞》を受賞しました。同賞は家族法の研究に優れた業績をあげ、また啓蒙的な役割を果たした研究者、教育者、実務家を顕彰して授与されるものです。

台湾同性婚法の誕生──アジアLGBTQ+燈台への歴程

第35回「尾中郁夫・家族法学術賞」受賞(リンク)
第1回「日本台湾学会学術賞」受賞(リンク)
第29回連合駿台会学術賞(社会科学部門)受賞
2023 Asia Book Awards(the category of general books with a large number of readers by sharply capturing the changes in modern society)受賞(リンク) 受賞理由および受賞の言葉(リンク)
鈴木 賢 著 日本評論社
A5判・並製 368頁 ISBN: 978-4-535-52633-4 C3032
刊行日: 2022年3月31日 定価:本体3,700円+税

■■■2022年3月31日 誠品生活日本橋でのライブトーク■■■
杉山文野さんとの対談のオンデマンド配信。
影像で本書のキモが分かります。
https://www.youtube.com/watch?v=Sq3F0poOcUs

■■■ライブ配信 台湾国際放送RTI「馬場克樹のとっても台湾」■■■
「LGBTQ先進国台湾の現状と課題」
日 時:2022年12月28日(水)17時〜17時半(台湾時間)
ゲスト:鈴木賢(明治大学教授、北海道大学名誉教授)
https://www.youtube.com/@RTI_jp6168

内容

 台湾で同性婚を認める法律が成立するまでのLGBT運動、政治過程、法の内容を分析し、法施行後の台湾社会の変化と課題を考察する。
 台湾はいかにして儒教的家父長制を克服し、婚姻平等を実現させたのか台湾人の三大発明「同志」「性別」「婚姻平権」とは?苦悩に満ちた闘いの道程、法施行後の台湾社会に何が起きているのか台湾の経験が日本の社会、司法、そして政治に示唆するものとは?同性婚の次に浮上する諸課題(子育て、老い、性別の多元化など)。

目次

はじめに
第1章 「同志」の誕生と台湾社会
第2章 「同志」運動の生起
第3章 制度化される「同志」
第4章 同性婚から「婚姻平権」へ
第5章 自治体パートナーシップ制度という「破口」
第6章 婚姻平等をめぐる民意
第7章 蔡英文政権誕生と民法改正案
第8章 大法官解釈までの道
第9章 大法官七四八号解釈の論理
第10章 国民投票による決戦
第11章 特別立方による制度化へ
第12章 同性婚法の内容と残された課題
第13章 ポスト同性婚と台湾社会のゆくえ
おわりに
付録

編者略歴

鈴木賢(すずき・けん)
1960年北海道生まれ。北海道大学大学院法学研究科博士課程修了。北海道大学博士(法学)。北海道大学法学部助手、助教授、教授を経て、明治大学法学部教授、明治大学現代中国研究所長、北海道大学名誉教授、「自治体にパートナーシップ制度を求める会」世話人、北海道LGBTネットワーク顧問。中国法、台湾法を専攻。2022年4月より台湾大学法律学院客員教授。

森元拓氏による書評

情熱と冷静の間
鈴木賢著『台湾同性婚法の誕生』(日本評論社、2022 年)

森元 拓(東北公益文科大学教授)

 ようやく鈴木賢著『台湾同性婚法の誕生』(日本評論社、2022 年)を読み終えた。
 「ようやく」というのは、本書の情報量の多さに圧倒されたのと、本書のリアリティの深さに圧倒されたからである。情報量の多さは、著者が、法学者として、綿密かつ冷静に「道程」を追った証左である。リアリティの深さは、著者自らが日本の LGBT を活動に携わるとともに、台湾の同志運動にも深く関与してきた経験ゆえである。その結果、文章に迫力がある。正直に告白すると、本書を読んで、何度か涙した。当事者の「想い」が行間を通じて胸にこみ上げてくるのである。この観点からすると、本書は、間違いなく極めて良質なドキュメンタリーである。一流の法学者が、一つの事象を綿密に追跡するとこれだけのものになる、というお手本のようなものだ。
 本書は、これだけでも十二分に読む価値がある。

 ただ、面白さはもちろんそれだけではない。一流の法学者が描くドキュメンタリーだけあって、法学的にも面白い論点が提示されている。

(1)権利のための闘争
 第一は、本書が描く物語は、「権利のための闘争」のお手本であり、イェーリングの『権利のための闘争』の実践例でもある。著者自身が「婚姻平等の実現という成果は、血みどろの闘争の末に勝ち取られたものであり、天からのお恵みでも、天から降ってきた偶然でもない」(323 頁以下)と述べるように、台湾で同性婚法を実現することができたのは、何人もの想像を絶する犠牲と多くの人の多大なる労苦の結果である。 そして、この結果を得るために、台湾の同志たちは、(日本の人々はすぐ犠牲者を忘れるが)犠牲者決して忘れることなく、その犠牲を乗り越えていく逞しさをもっていた。本書は、このことを詳細に記録する。
 権利というのは、六法や判例集の紙上に定着しているインクではない。本書を読むと、権利が痛みを伴う、血が通うものだということを痛感できるだろう。この意味で、法学部の学生には是非とも読んでほしいと思った。
 俯瞰した見方をすれば、社会運動には相応の運動量や労苦や犠牲がつきものであることをも思い知らされる。この意味で、社会運動に「きれいごと」だけでは済まされない。「日本では社会運動・市民活動が盛り上がらない」とお嘆きの貴兄に、是非、権利のための闘争の「実践の書」として本書を捧げたい。

(2)司法と民主主義
 第二は、公法学的及び司法政策の観点からも、本書は面白い論点を提示している。焦点は立憲主義における司法の役割と民主主義である。詳言することはできないが、本件では大法官会議(憲法裁判所)は、自覚的に「基本的人権の砦」と自らの役割を規定して、世論に抗して(大法官会議が同性婚の法定化を命令した時点で、同性婚に消極的な意見の方が多数であった)、マイノリティの人権の守護者となった。本書を読みすすめていくと、司法の役割、司法消極/積極主義の問題、あるいは民主主義的正当性と現代立憲主義の意義について考えさせられることになる。
 個人的なことを述べれば、民主主義社会においては、司法消極主義にも一定の意義があるものと考えていたが、本書を読んで考えを変えた。(ポピュリズムへ容易に転化しうる)現代的な民主主義社会においてこそ、裁判所は、立憲主義の守護者として(すなわち「少数者の権利」の保護者として)を強く自覚し、その役割を果たしていかなければならないと考えるようになった。司法消極主義では駄目なのである。(卑見を述べれば、司法消極主義が許されるのは、古代ギリシャ的民主主義か、近代初期の貴族的共和主義においてのみであろう)。
 本書では、同性婚の可否について、司法が「良心」を示すことにより、結果的に同性婚は法定化された。法定後は、世論も同性婚を容認する方向へと変化し、性的少数者に対してより寛容な社会へと変化していった。ここに現代社会における裁判所の役割を見出すべきである。(少数者の人権の話ではないが、フランスの裁判所が世論に抗して死刑廃止を主導し、やがて世論もそれを支持していった事例を想起した)。
 何れにしても、本書は、現代市民社会における司法の役割、という法制度の根幹にかかわる問題について、一石を投じている。

(3)その他
 その他にも、様々な面白い論点がある。読者の問題関心に応じて、必ず考えさせられること、感じることがあるはずである。例えば、(2)とも関連するが、台湾社会の同性婚に対する世論の変化についても、実証的データをもとに論究されており、世論と政治、と言った論点からも興味深い材料を提供している。また、 随所で著者が述べているが、台湾社会の成熟度も興味深い。台湾は、日本なんかよりよほど成熟した市民社会になっているようである。これは、日本に住み、市民社会の成熟を願っている者としては看過できない。 その他にも、少数者に対するアジア的「不可視モデル」と欧州的「抑圧モデル」という対比や、同志運動を牽 引していたのが終始女性であったという点など、興味を引く点に枚挙に暇がない。

 最後に、本書の一貫しているスタイルに言及して稿を閉じたい。
 著者自身が性的少数者の運動に関与してきただっけあって、その視線と筆致は、強い熱量を帯びている。 時に読者は、この熱にあてられるかもしれない。しかし、それでも、学者的「冷静さ」を忘れずに堅持しているのは、流石としかいいようがない。(たとえば、著者は、同性婚反対派に対しても、政治的成熟度という点では、賛成派と同様に評価している)。このような学者的「冷静さ」が、情熱と冷静のバランスを絶妙に保ち、本書を更に意義深いものにしていることは、間違いのないことであろう。
 最後に、蛇足を一つ。本書の「おわりに」は極めて自己分析的で、読者にとって極めて有益である。この手の単著の「おわりに」が、殆どの読者にとってはどうでもよい「内輪受け」的な謝辞に満たされているのと好対照となっている。自分も、単著を書くことがあれば、こういう「おわりに」を書きたいものだと思った。

後藤純一氏による書評

台湾での同性婚実現への道のりを詳細に総覧し、日本でも必ず実現できるはずと確信させてくれる唯一無二の名著『台湾同性婚法の誕生: アジアLGBTQ+燈台への歴程』

後藤純一

台湾同性婚法のオーソリティである鈴木賢さんが、ついに、台湾での同性婚実現への道のりを詳細に総覧した著書を発表しました。隣の台湾でできたのだから日本でできないはずがないと確信させてくれるような、今後への道しるべともなるような、本当に意義深い、感動的でもある一冊です。

 台湾では2019年5月に同性婚法が施行され、アジアで初めて「結婚の平等」が実現しました(同性婚非承認国の人とは国際結婚できないなど、まだ課題はありますが)。しかし、台湾で一体どのようにして同性婚が実現したのかということを歴史的、社会的、法学的な観点からきちんと総覧したものは日本語の文献としては存在せず(g-lad xxでも台湾関連のニュース記事を逐一お伝えしたりはしてきたものの、断片的な情報に過ぎませんでした)、この本が本邦初となります。80年代に祁家威さんが同性婚を求めて活動を始めた頃に遡って現在に至るまでの台湾の同志の活動の歴史を概観し、台湾でどうやって同性婚が実現したのかということを史実として検証しつつ、法学的、社会学的な解説も交え、身近で日本とそんなに変わらない台湾でも同性婚が実現したのだから日本でもできないはずがないとLGBTQコミュニティを勇気付けるとともに、世間の方たち(特に「伝統的な家族観が崩壊する」とか「家族制度の根幹にかかわる」と言う人たち)の思い込みを解きほぐすような本であるとともに、専門家をもうならせ、一般の方にもわかりやすく読んでいただける、そして(私もそうですが)当事者を感動させもするという、離れ業のようなことをやってのけているスゴい本です。副題に「アジアLGBTQ+燈台」とあるように、台湾が成し遂げたことは私たち日本(や近隣のアジアの国々)の当事者にとっての希望の灯火であり、この本のなかに、今後私たちが何をしていったらいいかということへのヒントがたくさん書かれていると思いました。

 著者の鈴木賢さんは、北大教授時代、札幌でHSA(ホッカイドウセクシュアルマイノリティ協会)札幌ミーティングという団体を立ち上げ、1996年からの札幌でのパレード開催の立ち上げにも携わり、札幌のコミュニティの精神的支柱となった人で、2000年ごろにはレインボーマーチ札幌のアフターパーティでパートナーの方と結婚式も挙げています(私もその場にいました)。明治大の教授となってからは、「自治体にパートナーシップ制度を求める会」の世話人として、また、2016年の札幌での政令指定都市として初の「パートナーシップ宣誓制度」実現の立役者として活躍したほか、台湾の同性婚についてのオーソリティとして各所で発言してきました。そして今回、満を持して、台湾で同性婚が実現するまでの道のりを総覧した書き下ろしの著書を上梓しました。

「はじめに」で、2019年5月24日、アジアで初めて同性婚がスタートした日、戸政事務所に初めて同性カップルが婚姻届を出す世紀の瞬間や、台北市役所近くの野外広場で開催された同性新婚カップル祝賀セレモニー、そしてパレードが開催されてきた総統府前広場での盛大な合同披露宴「同婚宴」の様子が生き生きと綴られていて、私は数ページもめくらないうちに涙していました…。(『The Freedom to Marry』や『アゲンスト8』を観たときも同種の感動でした。それが、遠い欧米の国ではなく、具体的に友人・知人の顔も思い浮かぶような台湾で実現して、彼らの喜びや熱狂がありありと想像され、思わず涙してしまったのです)

 このような晴れやかな「婚姻平権」の実現に至るまでに、台湾社会や「同志」コミュニティはどのような道のりを経てきたのか、ということを、80年代の祁家威さんの孤軍奮闘から始まり、実に詳細に史実として綴り、総覧しています。2019年の同性婚法施行以降も残されていた課題(日本をはじめ同性婚非承認国の人と結婚できないということなど)や、今後の見通しについても語られています。(個人的には「同志」という言葉についての章が、とても興味深かったです。日本のLGBTQはまだ「同志」のような、日本語でLGBTQとかクィアの意味を言い表す肯定的な総称を獲得していませんが、そういう言葉があったらどんなにいいだろう…と感じました)

 何度も台湾に行ったことがある・通っているという方も少なくないと思いますが、台湾はとても日本に近い国であり、他のアジア諸国と比べても台湾のLGBTQムーブメントについての情報はかなり詳しく伝えられてきたと思っていたのですが、この本を読んで、全然そうではなかった、氷山の一角に過ぎなかったということをまざまざと思い知らされました。
 私はてっきり、日本のほうがパレードも早かったし、台湾は2000年代に急速に運動が盛り上がり、日本を「追い越した」のだとばかり思っていたのですが、決してそんなことはありませんでした…。90年代からかなり活発な同志運動が展開されていたし、同性婚を求める運動どころか、パートナーシップ登録制度(同性パートナーシップ証明制度)すらも台湾のほうが先だったということ。また、日本ではお目にかかったことがないようなTVCMなどを通じての激しい反対キャンペーンがあって、国民の大多数が反対派に回ってしまい、本当に苦しい闘いだったということ。次々に思い込みが覆され、知らなかった事柄に驚かされました。
 そうして、長い長い、熱い(厚い)運動の末に、ついにアジア初の快挙を成し遂げたという「本当にあった」物語は、きっと、読む人の胸を熱くさせるでしょうし、日本と比べてなんて台湾は進んでるんだろう、うらやましい、私たちはもっと台湾に学ばなければいけないなと感じさせることと思います。

 言うまでもなく、この本が書かれたのは、日本も早く「婚姻の平等」を認める社会になってほしいという願いからです。その気持ちの熱さが底にあるからこそ、淡々とした記述にも涙させられるのだろうな、と思いました。「選択的夫婦別姓すら実現できてないんだから、日本では到底無理」などとあきらめてしまっている方もいらっしゃるかもしれませんが、この本を読めば、隣の台湾でも実現したのだから日本でできないはずがないと思えますし、アンチ派の言い分に理がないという確信を持てますし、きっと希望を持ち続けることができます。台湾での成功は、私たちの燈台です。

 複雑な台湾法の話なども出てきますが、あまり難しい言葉遣いにならないようにと、できるだけ平易な文体で書かれていて、誰でも読めるような配慮がなされています。それでいて台湾のLGBTQ史に関する第一級の資料となるような、学術的な裏付けに基づいた、理路整然と書かれた本だと思います。こうした「離れ業」的な本は、世の中にそう多くはないと思います。
 鈴木賢さんは中国法、台湾法の専門家で(昨年の台湾同志遊行のオンラインイベントなどにも出演していたように)台湾語ペラペラで、台湾語の文献を日本語訳できる貴重なスキルを持った方であり、かつ、同性愛者として現地の婚姻平権運動の様子を見守り(伴走し、と言ってもいいのかもしれません)、かつ、日本のような同性婚非承認国の人との同性婚ができない根拠となっている法律などの複雑な法学の話などもきちんと伝えることができる方です。それらを全て兼ね備えているのは、1億2000万人の中で鈴木賢さんただ一人だと思います。賢さんがいてくれて本当によかった…と、感謝の気持ちが込み上げました。

※2022年3月31日に『台湾同性婚法の誕生』刊行を記念した「鈴木賢×杉山文野ライブトーク」が開催され、YouTubeでアーカイブ配信されています。鈴木賢さん自身がこの本への思いを語り、また、杉山文野さんがトランスジェンダーにとっての同性婚実現の意味について語るなどしています。ぜひご覧ください。

出典:オンラインマガジン・グラァド

毎日新聞の書評

 台湾のデジタル担当相、オードリー・タン(唐鳳)氏は「より多様で、オープンなライフスタイルを求める台湾の姿」を描いたと本書に推薦文を寄せた。だが台湾では家父長制が社会に深く根付き、同性愛は長年にわたり忌避されてきた。
 著者は同性婚をめぐる運動史を丁寧に追い「血みどろの闘争」と書く。反対派は「伝統的な結婚や家庭の形が崩壊する」と激しい運動を展開した。世論調査では近年まで反対が多数で立法府も賛否両論だった。
 司法判断が決定打となり、同性婚を法制化する特別法は2019年5月、成立した。多数派の意見と憲法が保障する少数派の人権が衝突した時、どうすべきか。悩み抜いた司法が根拠の一つとしたのが長年の草の根運動だった。「同性婚を認めない民法規定は、婚姻の自由と平等権を保障した憲法に反する」との司法判断を、著者は「人権擁護の砦(とりで)としての役割」を果たしたと評価する。
 既に7000組以上の同性カップルが誕生したが、それで異性婚の家族が崩壊したとの話は聞かない。世論調査で同性婚への賛成は多数派となった。アジアの先駆者・台湾から日本が学ぶべき点は多い。(静)

出典:毎日新聞(2022年4月30日)今週の本棚

福岡静哉氏による書評

WEB東方
『台湾同性婚法の誕生』2022年6月15日
https://www.toho-shoten.co.jp/web_toho/?p=2720

佐々木宏氏による書評

時事通信 今月の一冊
鈴木賢「台湾同性婚法の誕生──アジアLGBTQ+燈台への歴程(みち)」(日本評論社)2022年6月18日
https://www.jiji.com/jc/v4?id=shohyo0001

ポッドキャスト:東南アジア地域研究研究所 ブックトーク・オン・アジア

No.40 鈴木賢『台湾同性婚法の誕生──アジアLGBTQ+燈台への歴程』(日本評論社、2022年)
SoundCloud:音声ポッドキャスト
YouTube: 静止画+音声録音

村田峻一氏による書評 社会新報2022年6月15日

●「台湾同性婚法の誕生」
結婚の自由をすべての人に保障する国


 2019年5月19日、台湾の立法院で「司法院釈字第七四八号解釈施行法」、いわゆる同性婚法が成立し、同24日に施行された。これにより台湾は、結婚の自由をすべての人に保障する国となった。本書は、台湾婚姻平等化の父と呼ばれる祁家威(キカイ)が同性との婚姻についての公証(届け出の受理)を求めた1986年から、約40年にわたる台湾の歩みを描く。さながら大河ドラマのごとく脳裏に映像が浮かぶのは、運動史と政治史に同等の紙幅を割くことで、婚姻の平等を求める運動が反対派からの攻撃によってよりしなやかになっていく姿、運動が政治を動かす姿、政治に運動があらためて応答する姿がありありと活写されているからだ。充実した描写のあとに、「日本は何を学ぶべきか」と筋立てしてLGBTQ+、裁判官、日本国民全体へのメッセージをそれぞれしたためており、こちらも説得力がある。
 日本でも2021年3月に札幌地裁が婚姻の平等を後押しする判決を出した。今月20日の大阪地裁判決ほか、各地の判決がそれに続くことを願う。

(村田峻一)

立石直子氏による書評

『法の科学』54号(2023年9月)184〜187頁

渡邉泰彦氏による書評

アジア経済64巻1号(2023年)49頁
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ajiakeizai/64/1/64_49/_article/-char/ja/

宮畑加奈子氏による書評

宮畑加奈子「相互承認と法認への道程をたどる──「家族/コミュニティという二重の共同性」に着想を得て」
日本台湾学会報25号(2023年)187〜191頁