研究内容

研究テーマ

 本研究室では、主にコンピュータを利用して、DNAの核酸配列や蛋白質のアミ ノ酸配列を解析して研究を進めています。主な研究テーマは以下の通りです。

T.転写制御調節
遺伝子は常に転写され発現されているわけではなく、必要に応じてmRNAに転写され、そのmRNAが翻訳され蛋白質として発現する。このような遺伝子の転写を制御すると思われる領域の核酸配列を解析することにより、転写制御に 不可欠な領域を探りだす。

U.分子進化
現在の生物は多種多様な蛋白質から構成されているが、地球上に誕生して間 もないころの生物は限られた数の蛋白質しか構成要素として持たなかった。その後、進化する過程 において蛋白質の種類や数を増やし、現在のようになったと考えられている。新しい蛋白質 を利用するためには、新しい遺伝子を獲得する必要がある。このためには核酸が ランダムに繋がって新たな遺伝子となるか、既存の遺伝子が重複したあと点変異や挿入、削除(欠失)等が起こり別の遺伝子に生まれ変わったということが考え られる。後者の場合にはそこにコードされている蛋白質のアミノ酸配列間に何 らかの類似性が観測される。そこでこのアミノ酸配列の類似性を元にさまざま な蛋白質がいかに進化してきたかを探る。

V.主成分分析法を用いた蛋白質の構造解析
現在主流となっているFASTA、BLASTといったアミノ酸残基の配列による蛋白質の相同性を求めるプログラムでは検出できない蛋白質間の相同性となる要因を研究している。現在、アミノ酸残基1つにつき4つのファクターを設定し(疎水性、pk値、重量、極性)これを数値化、主成分分析を経てグラフ化、このグラフをダイナミックプログラミングによるアライメントからSCORE(値)としての相同性を求める手法を使用している。

用語集

DNAの核酸配列

  遺伝子という概念的なものが、物質として解明されたとき、その化学的な特徴からDNA (デオキシリボ核酸)と名付けられた。DNA はさらに細かく4つの物質、A(アデニン)、T(チミン)、C(シトシン)、G(グアニン)に分けられる。このうちAとT 、GとCは相補的にくっつき、全体として二重らせん構造を作る。この構造のおかげでDNAは遺伝子の本体になれたのである。基本的に、DNAはランダムに並べる(配列)が、3つ1組で(トリプレット:三つ組み暗号)1つのアミノ酸を指定する暗号文のようになっている。

遺伝子

 親から子へその特徴を伝えるものの概念として提案され、メンデルのエンドウマメの実験で存在が確認された。実際には、DNAがその構造的な特徴で親から子へ情報を伝える遺伝と言うの役割を担っている。

転写

 DNAに蓄えられている蛋白質の設計図を蛋白質制作所(リボゾーム)に運ぶために、その設計図をコピーし、それを送るまでの過程。

mRNA

  DNAにある蛋白質の情報をリボゾームに伝える伝令君。RNA はほかにも運搬RNA (tRNA)や、リボゾームRNA(rRNA)と呼ばれるものがある。それらと区別するために、頭にメッセンジャーを意味する"m"をつけている。

翻訳

 DNAからきたmRNAを元に、アミノ酸をペプチド結合によりつなぎ合わせ蛋白質を作る過程。リボゾームと呼ばれる細胞小器官上で行われる。

蛋白質として発現

 1つの遺伝子が1つの蛋白質の情報を持っていると言うことで、1遺伝子1酵素説という考え方が提案された。遺伝子が必ず酵素の情報を持っているとは限らないので、現在は1遺伝子1蛋白質と解釈されている。遺伝子に蓄えられている情報は、蛋白質に翻訳されることで初めて内容を現わすことができる。これを発現という。

転写を制御すると思われる領域

 よく知られている例として大腸菌の例がある。普段ブドウ糖を栄養素として大腸菌は生活している。これを普段は栄養素として使えないガラクトース(乳糖)しか含まない培地で育てると、乳糖を栄養素として生活し始める。これは、遺伝子上にあるオペロンと言うシステムが遺伝子を制御している。このシステムの存在するDNA 分子上の位置(or区域)。また、オペロンとは逆に発現を抑制するリプレッサーと呼ばれるシステムもあり、これらのバランスによって生物は必要なときに必要なタンパクを無駄なく得られるようコントロールしている。

分子進化

 もとあった生物種から新たな生物種が生まれる大進化ではなく、遺伝子上で起きたランダムな塩基配列の変化が偶然的にその生物の個体に固定することで起こる進化。分子レベルでの進化は外の環境とは関係なく遺伝子上での挿入、欠失、置換その他の突然変異によって起こり、大進化とは独立して進行する。分子レベルでの進化は木村氏の提唱する「中立進化説」で説明され、「ダーウィンの進化論」とは「獲得形質の遺伝」という点で大きく異なる。ダーウィンの考え方では形質を獲得するために生物が意志を持って機能を伸ばし、その結果得られた形質は遺伝し、より優位な形質を獲得できた物以外は自然淘汰されるとしているが、中立進化説では進化の方向には意志が無く、遺伝子の変異により偶然獲得できた形質が自然淘汰の淘汰圧に勝てる物ならば生き残ることができ、淘汰圧の変化により結果として進化が起こると考える。中立進化とは頻繁に起こる遺伝子レベルでの変異が環境に対し有利でも不利でもない中立な物が生き残るという概念から名付けられている。

点変異

  遺伝子(DNA配列)は絶対的に固定されたものではなく、たまに変化を生じる。これを変異という。点突然変異とは、DNA配列のなかの1塩基対に変異が起こった場合を指す。DNAは3つの塩基対で1つのアミノ酸を指定するため、1ヵ所に変化が起こると、違うアミノ酸を指定する場合があり、できた蛋白質の性質をかえてしまうことがある。主にDNAの化学的な特性によるものや、親から娘へ複製する際のミス、化学的な傷害などによって引き起こされる。

挿入、削除(欠失)

遺伝子(DNA配列)が挿入されたり、欠けたりすること。点変異と異なるのはDNA塩基対がある程度まとまった数(領域)で変化する点。