研究内容

当研究室では、有機合成化学を駆使して特異な光・電子物性を持つ未知の分子や物質を創り出し、革新的な機能性材料の開発を目的とした先端研究を行っています。加えて、分子が自発的に集まる現象(自己集合)を利用したナノスケールでの表面構造制御や、グラフェンの機能化に関する研究も実施しています。有機化学や物理化学の理解を大事に、新しい発想に基づいて研究を進め、材料科学への貢献を目指します。研究を通じて、分子を設計して合成する有機合成化学の基礎と分子の性質を評価する様々な計測技術を学びます。また、得られた結果の議論や発表を通じて論理的思考力を培うことを目標としています。具体的には以下の三つのテーマに取り組んでいます。

1) 新奇有機半導体(パイ共役分子)の創成

ベンゼン環がお椀状に連なった芳香族分子や、ヘテロ芳香族分子の合成に挑戦します。構造が美しいだけでなく、分子の芳香族性の制御によるエネルギー効率の良い光電子材料や、分子の形を利用した特定の分子を高感度認識する材料への応用が期待できる魅力的な有機分子です。分子は密度汎関数理論計算により構造、安定性および電子状態を予測し、適切な合成計画を立ててから、その合成を開始します。

<最近の論文>

四員環、五員環および六員環を含む直線状多環式π共役化合物の合成、電子的性質および芳香族性に関する研究 RSC Adv. 2023, 13, 4578–4583.

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ジベンゾビスコラヌレンの合成、電子的性質および自己集合に関する研究 Org. Chem. Front. 2022, 9, 2509-2515.

ベンゾシクロブタチオフェンとその拡張類縁体の量子化学計算 J. Org. Chem. 2019, 84, 9850–9858.

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2) 芳香族化合物の自己集合を利用した固体表面におけるナノ構造制御

平面の芳香族化合物は自己集合により固体表面の上で、ナノメートルレベルの周期を持った構造を作ります。分子の構造を巧みに設計すると表面に形成されるナノ構造が劇的に変化します。新分子を設計・合成し、表面に現れる構造を制御する基礎技術の確立を目指します。最近では、数10 nmの周期性をもった階層的な分子集合体の形成や、キラリティーの制御に関する研究を行っています。これら研究は、分子レベルでの高感度センサーや電子回路の開発、生体にみられる様な複雑な集合体形成の理解などに将来つながることが期待されています。なお、表面ナノ構造については研究室に設置されたナノスケールの分解能を持つ走査型トンネル顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)により観察します。

<最近の論文>

分子の立体配座の動的組み合わせによる階層的な二次元自己集合 Chem. Sci. 2020, 84, 9850-9858.

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光学中心の数による超分子多孔性ネットワークのキラリティー反転 Angew. Chem. Int. Ed. 2019, 58, 7733-7738.

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3) グラファイト・グラフェンの化学修飾

グラフェンはsp2炭素がハニカム型に配置したパイ電子に富む、優れた電気的性質を示すシート状の二次元物質です。なお、グラファイトはグラフェンが積層した構造を持ちます。グラフェンやグラファイトを有機合成化学的手法で化学修飾することで、それらの性質を制御して新材料を創出し、電子デバイスや高感度分子センサへの応用を目指します。特に、有機分子が自己集合で形成する単分子膜を鋳型としたグラファイトやグラフェンの周期的な化学修飾に注力した研究を行っています。なお、化学修飾に用いる分子の多くは自身で合成し、化学修飾したグラフェンやグラファイトはSTMやAFM、ラマン顕微鏡で評価します。

<最近の論文>

多孔性の自己集合分子ネットワークを鋳型としたキラリティーと位置を制御した炭素表面の化学修飾 J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 8662-8671.

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アルカンのラメラ型単分子膜を鋳型とした炭素表面の直線化学修飾 ACS Nano 2018, 12, 11520-11528.

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