6-2 臨床心理上の研究

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 以下では,心理臨床の場面とPSIとの関わり,超心理学研究への臨床家の貢献という観点を論じる。

<1> 主観的超常体験

 精神疾患の診断マニュアル(DSM)を見ると,(幽霊などの)幻覚を見ることなど,PSI現象の体験報告と似通った記述が,分裂症,パラノイア,側頭葉てんかん,解離性障害などの症状項目に見つけられる。そうした主観的超常体験(SPE)を語る人がいたならば,精神疾患の徴候であると疑われるので,専門家の判断を仰ぐべきである。SPEを命名したヴァノン・ネッペのホームページも参照されたい。http://www.pni.org/
 臨床心理学者,心理療法家(セラピスト)や精神科医などの臨床家は,精神的問題の究明のためにSPEに注目する必要がある。ウルマンによれば,患者が感情的な孤立から繋がりを求めているときにSPEが現われるという。SPEが始まったことの「意味の解読」が,心理療法(セラピー)に不可欠な事項らしい。そこに精神的問題の解決の糸口があるのだろう。
 けれども超心理学の知見を勘案すると,SPEの報告者にはPSI能力者が含まれている可能性がある。それでもPSIの特性研究の成果(4-2)からは,例えば分裂病の患者がPSI能力者であるというような,際立った関連性は見られていない。だから,精神疾患とPSIとは恐らく互いに独立した関係と考えられる(両者を混同してはならない)。すなわち,精神疾患や精神的問題によってSPEを報告する多くの患者がいる一方で,PSIによってSPEを報告する(時には精神的問題を抱えた)能力者がいると想定するのが,とりあえずは生産的な仮説と言えよう。こうして,超心理学の立場からすれば,SPEの分析を通してPSIの究明がなされる可能性が指摘できるのである。

<2> 臨床家の役割

 超心理学研究において,臨床家が果たす役割は大きい。上に述べたように,SPEの分析から能力者を判別することが期待される。また,PSIの知見と臨床の知見を合わせて,被験者がどんな心理状態のときにPSIが誘導されやすくなるかの分析(4-3),被験者を取巻く状況(人間関係や感情的要素など)によって,どのようにPSIの現われ方が変化するかの分析を行なうことも期待される。
 超心理学においては,被験者のSPEを奨励することが研究の推進につながると考えられがちだが,心理療法のプロセスとしては,逆にSPEを収束方向へ誘導するべき局面(いわばエクソシストの役割をする)が多い。SPEを報告し,ボランティアとして協力を申し出てくる人々の背景に,諸々の精神的問題が隠れていることがある。超心理学の研究者は,被験者のSPEを安易に増長させてはならない。SPEを報告する被験者についての研究は,臨床家の協力のもとで行なう措置が必要である。
 このように,被験者の心理的な面でのケアや,被験者を続けることに問題が無いかどうかの判断において,とくに臨床家の活躍が期待される。

<3> 心理療法に現われるPSI現象

 精神科医で超心理学者のアイゼンバッドによれば,心理療法のプロセスの中で,PSIを誘導する心理的状況が作られやすいという。そうしたPSI現象の報告が,フロイトやユング(5-8)を始めとして,エーレンヴァルトやウルマン(3-1),シュヴァルツらによってなされている。
 カーペンターは「同時多発テロ」を予言したような,次の事例を報告している。それは中年の女性で心理状態が不安定でセラピーにかかっていた。かねてより,自分はカサンドラという能力者で,人々の将来が予言できると主張していた。当の事件の8日前の9月3日,セラピーに訪れた彼女は,いきり立っていた。すると突然立ち上がって,アメリカの傲慢さと安全神話に対するスピーチを始めたのだ。カーペンターが記録した彼女の言葉は次のようであった。「多くの人々が私たちを憎んでいる。想像以上に強くだ。私たちの独善的な地位はまもなく砕け散るだろう。大洋でさえも守りにならない。1993年の世界貿易センターの爆破事件を思い出せ。あれは最初の一撃に過ぎない。いいか,最初の一撃だ。全貌は燃え上がった廃墟としてもたらされるのだ。」 もちろん,この女性に政治組織や国際テログループなどとの結びつきはなく,差し迫った攻撃を知っていた訳ではない。また,特別な予言をしたという意識もなく,ただ心に現われたことを語ったに過ぎないと言う。
 この事例は,単なる偶然の一致なのか,それともPSIによる予言なのか,これだけでは何とも言えない。PSIとおぼしき事例を蓄積し,それらに臨床心理上の分析を加えて初めて,PSIの一般的特性が判明し,その社会的応用(1-1)がなされるのだろう。研究方法論の確立を目指した,臨床家のPSI情報交換ネットワークが今,望まれている。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるジム・カーペンター氏の講演がもとになっている。彼は臨床心理学者で,RRCのあるダーラムの隣町チャペルヒルでクリニックを開業している。RRCのスタッフと超心理学の共同研究を長らく続けている。臨床家は皆,もっと超心理学について知っておくべきだと,熱く語る。
カーペンタージム・カーペンター氏


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