6-3 現象学的方法

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 現象学的方法とは,先入観を排して内観に現われる現象を直接調べて考察することであり,もともと哲学の方法論としてフッサールが確立したものである。彼は哲学的本質に到達するために,外界の実在性について判断を停止(エポケー)し,後に残る純粋な意識(内観現象)を記述考察した。
 超心理学では,PSIを発揮する人物について現象学的分析を行ない,PSIの特性との関連,PSIに関する心理-社会的な問題を考察できる。

<1> 被験者の内観分析

 PSIの発揮と被験者の内観は,どのような関連性があるのだろうか。すでに態度(4-1)や意識状態(4-3)とPSIのスコアとの相関については,前に触れた。これらは多数の被験者から統計学的に見つけられたものである。一般的被験者についてそれ以上個々に内観の分析をしても,PSIとの関連性は薄く,生産的な研究にならないだろう。
 それに対して特異能力者(6-5)の内観分析は,大きな意義が認められる。特異能力者の伝記や体験報告から何らかの傾向を把握するのが,ひとつの方法である。「積極的に待つ」感覚とか,「世界と一体となる」感覚などは,PSIの発揮につながると,しばしば報告される。しかし,有能な臨床家によって直接面談して行なわれた分析があれば,より信頼性が高いと言えよう(6-2)。以下では,臨床家による2つの現象学的研究を紹介し,その方法論の理解の助けとしたい。

<2> 特異能力者の世界観

 臨床家のジム・カーペンターは,男性特異能力者,女性特異能力者,ポルターガイストを起こす少女,そして分裂症の青年について,それぞれ物理世界認識,他者認識,自己認識を比較分析した。ポルターガイスト少女は,ある種の典型的な特異能力者とされる(7-4)が,分裂症青年は特異能力者ではない。
 男性特異能力者:物理世界は自己とダイナミックに接続しており,寛大で扱いやすく,広く拡大している。時間は急にすばやく経過する。そこでの出来事は不思議さに満ちている。他者は目の利いた賞賛者であり,影響力を持ち,本来は友好的である。自己の経験は,驚異的にかつ神秘的に展開する審美の源である。一方,身体的自己はひどく厄介な存在である。
 女性特異能力者:物理世界は,美と官能と不思議さの源であり,時間は迅速に経過する。世界は友好的であり,創発性と芸術性を持っている。他者には,理解のある人と理解のない人がいる。理解のある人は,まさに神秘と美とを創造する共演者であるが,理解のない人は限界を設定しがちで,少しいらいらさせられる。自己は,美と不思議を生む源であり,慎重に解き明かされる秘密である。その解明は必要だとしても難しい。
 ポルターガイスト少女:物理世界は,予想がつかず危険で,刺激的である。時間は気まぐれで,速く経過したり止まったりする。世界は混沌としており,怪しく脅威的である。他者は総じて力を持っており,奪い取っていく存在である。利用できることもあるが,もともと危険な,脅威である。自己は脆弱で,危険にさらされており,混迷状態にあって,満たされることがない。また,主体性や権限の感覚は希薄で,自己は力によって虐げられている。
 分裂症青年:物理世界は不毛で活気がなく,不吉で怪しく,制御できない存在である。他者は口先だけで近寄り難いが,力を持って要求したり脅してきたりする。自己は欺瞞に満ちた卑劣な存在であり,危険で弱々しく,いくつにも分離している。
 以上を比較してみると,前者2例と後者2例とが対照的関係にあることがすぐに分かる。前者2例はともに,世界と他者と自己を肯定的に,そして調和的関係に捉えており,特異能力が心理的安定に寄与しているのではないか,と思わせるほどである。後者2例では逆に,世界は不安定であり,他者は脅威的に,自己は虚ろに捉えられている。ポルターガイスト少女は,特異能力者であったとしても,その能力を持て余しており,超心理学の被験者を務めるには危険が伴うのでないか,と思われる。現象学的分析によって特異能力者を判別するのには,まだ課題が多いが,超心理学の被験者に向く能力者を選別する目的には,すぐに使えそうだ。

<3> PK発揮の現象学

 臨床家のパメラ・ヒースは,PKを発揮すると定評があり,ある程度実験的にもPK現象が確認されている8人の被験者を面談し,PK発揮の際の内観を分析した。その結果,まだ暫定的な結論としながらも,次の5つの側面を指摘している(1999,PA)。
 自他の区別に関する側面:8人全員が変性意識状態に入ると報告し,うち6人は,変性意識状態が深いとPKの効果が大きいと思っている。またその際には,全員がターゲットとつながったという感覚を持ち,自己や自我の観念が希薄になっており,知性の働きが停止しているとしている。この側面への言及が少なかった2人の能力者は,意図的に制御したPKが発揮が少ないことから,この側面はPK発揮に最も重要と見られる。
 エネルギーに関する側面:8人全員がPK発揮に伴って感情の高まりや喜びや楽しさを報告している。うち6人は,エネルギーの高みに昇る(開放される)と感じている。また6人は,エネルギーの流れや動きを感じ,うち5人は,それを意図的に制御していると言う。薄らいだ身体感覚の中にありながら,身体に多様なエネルギー感覚を訴える者が多くを占めている。2人は,観察者の敵意がPKを妨げるとも報告している。
 注意や集中に関する側面:7人が明示的な意図を,5人が暗黙的な意図を,2人が集団としての意図を報告している。それらは必ずしも意識的な意図ではない。また7人が,過度な努力をしないことが,そしてターゲットから注意をそらすことが重要としている。3人は,注意をそらした後にPKが起きた体験があると報告している(遅延効果)。
 性格や態度に関する側面:8人全員がPK経験を受け入れる姿勢を示している(これはPKを発揮する要因ではなくPKを経験してきたことによる結果かもしれない)。6人が,PK体験により,世界観や自己像に衝撃を受けたと訴えている。実験研究の知見(4-1)とは異なり,信念や自信はPK発揮に影響しないようだ。6人は信じていないのにPKを体験したし,自信があってもPK発揮につながらないこともあると言う。動機に言及した者も2人にとどまった。また,PSIには目的指向性(5-3)があると言われるが,目的に言及した者も1人にとどまった。
 PKとESPとの関連性の側面:7人が,何が起きるかや,何をすべきかに関して,すでに「知っている」という感覚や,直観を報告している。これは,PKにESPが伴っていることを示しているようである。また4人は,実際にESP現象をも体験している。ミクロPKとマクロPKが異なって感じられる者は,1人にとどまった。
 ヒースの研究は,PKの誘導的状態を形成する知見として興味深い。ただ,能力者たちが共通の情報源から情報を得て,一様に迷信を抱いている可能性が否定できない。PKを発揮したくとも発揮できない人の内観分析とも比較する必要がありそうだ(6-6)。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるカーペンター氏とモリス氏の講演がもとになっている。


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