4-4 発達との相関研究

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 本項では,被験者の心身面での発達と,PSIの発揮との関連性を検討する。

<1> 発達段階とPSI研究

 発達心理学者のピアジェは,思考の発達に4段階があるとした。それぞれの段階に対応するPSIの研究には次のものがある。
 感覚運動段階(出生から2歳ころ):母子関係が重要な時期であり,PSI実験は難しく,数が少ない。1952年にフィスクは,14か月の幼児に有意な透視能力を見出した。1985年にビールマンは,笑顔を表示するコンピュータシステムで10か月の幼児を対象に実験を行なった。
 前操作段階(2歳から6歳ころ):環境世界に働きかける時期で,好奇心が高く,興奮しやすい。また,言語を急速に身につける時期であるが,言語の使用はまだ限定されており,思考は想像的かつ直観的である。1977年にドラッカーらは,M&Mチョコレート(写真)を使って4歳から7歳の子供を対象にESP実験を行なった。1965年にクリップナーは,動物などの絵柄カードを用いた実験を行なった。
 具体的操作段階(6歳から12歳):具体的で合理的な思考をし始める時期であり,事物のカテゴリーの認識がなされる。問題に対して解決の計画を立てることもあるが,とにかく取組んでみるという実践的アプローチをとる。1985年にカンタマーニらは,漫画が描かれたカードを使い褒美にステッカーを与える実験を,5歳から10歳の子供に対して行なった。1981年にウィンケルマンは,色つきキャンデーを使用したPSI実験を,8歳から14歳に対して行なった。1960年にアンダーソンは,ミサイルの発射をたとえ話にしたPSI実験を,8歳から12歳に対して行なった。
 形式的操作段階(青年から成人まで):抽象的思考が可能となり,状況を精査したり,可能性を推測したりできる。この時期になると,手の込んだPSI実験が可能となる。


(写真:M&Mチョコレートの色を当てよう)

<2> 年齢との相関

 偶発的PSI事例(7-1)の報告には,子供がPSI現象を体験する事例がよく報告される。また,そうした子供は年齢が上がるにつれて能力を失うとも言われている。しかし今のところ,年齢とPSI実験スコアとの顕著な相関は得られてない。その大きな理由は,実験設定が難しくあまり実験が行なわれてないからである。ほとんど唯一の実験は1976年のアーネスト・スピネリによるものである。彼は,多くの年齢層の被験者を集め,テレパシー実験を行なったところ,年齢に対する相関は得られなかったものの,3歳から8歳の子供のスコアが有意に高かったと報告している。だが,これについては,バーガーによって統計的な問題が指摘されている(JSPR, 1989)。
 年齢との相関を見る実験の難点は,上に述べたように,多様な発達段階に渡る人々を被験者にしなければならないので,同様な条件の実験を一様に行なえないことである。同一の被験者群を長期間に渡って追跡実験することも考えられるが,仮に年齢が上昇するにつれて成績の低下傾向が見られても,それは実験にうんざりしたためなどの他の要因によるのかもしれない。

<3> 理由の模索

 子供のPSIスコアが高いとしたら,それは何故だろうか。ひとつは,成長するにつれて支配的になる論理的・分析的思考が,PSIの発揮を抑制するのではないかと推測される。エーレンバルトは,テレパシーとは胎児の頃の通信手段であり,言語の発達とともに抑制されると考えた。スピネリは,子供に論理的な謎解き課題を行なわせると,直後のPSIスコアが低下したと報告した。学習遅滞児のPSIスコアが高い(4-7)のも同じ理由で説明できるだろうか。もしそうであるならば,論理的・分析的思考をあまり重んじない文化社会では,PSIが発揮されやすいのだろうか(6-1)。
 他の可能性も考えられる。子供は一般に,信じやすい「ヒツジ」であるし,大人よりも自発的でかつ想像的,また陽気でもある。さらに,人間は普通,成長するに従って内向性が高まる。態度(4-1)や性格(4-2),意識状態(4-3)との相関でも説明がつきそうだ。

<4> 子供の実験

 子供を被験者にする実験は,特別なノウハウが必要である。まず子供の認知レベルに合わせて,明瞭で分かりやすい実験内容をデザインすべきである。ターゲットにお菓子やおもちゃなど,子供が親しみをもてる物を使用するのもよい。子供は飽きやすいので,実験は遊びのように面白く,そして短時間で終わるように設定する。子供はまた,まわりの雰囲気に敏感であるので,実験室の装飾などを工夫する必要があるし,とくに実験者は誠実で協力的な態度で接する必要がある(4-9)。知らない人よりも,普段の担任の先生や母親がテレパシーの送り手になったほうが,PSIスコアが良いという報告もなされている。
 実験に際しては,保護者の同意が不可欠である(1-8)。実験回数に足りないからと,気乗りのしない子供に実験を続けさせるのは,たとえ親の同意があっても不適当な行為である。またそれでは良い結果も得られないだろう。さらに,子供はいたずら好きでもあるので,トリックの防止対策も怠ってはならない。子供であるからと油断してはいけない。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるサリー・アン・ドラッカー氏の講演をもとにしている。また,まえがきに掲げたアイゼンクらの「文献1」で話題を補っている。


超心理学講座のトップへ戻る] [用語解説を見る] [次に読み進む