4-5 地球物理指標との相関研究

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 ここでは,PSI実験が行なわれた場所や時刻における地球物理学的状況と,PSIの実績との関連性を議論する。

<1> 地磁気

 よく知られてるように,地球自体は北極地域がS極で,南極地域がN極となった磁気双極子となっている。またこの極性は,地質学的な年月の間には反転を繰返していることも,地球物理学上,判明している。地磁気は,おおよそ極地域で強く約6万ナノテスラで,赤道地域で弱く約3万ナノテスラである。さらに,地層の磁気特性に依存して局所的な違いがある。小さな日周変化もある。季節的には,1月・6月が大きく,3月・10月が小さい。地磁気の値は太陽活動の影響も受け,磁気嵐で数百ナノテスラ,太陽風で10〜20ナノテスラの変動が生じる。地球全体の平均地磁気のひとつの指標(Ap)は,地球上の13か所で測定されるデータをもとに算出される(より詳しくは次のページへ)。

京都大学地磁気世界資料解析センターのホームページ:http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/index-j.html

 地球上の生物は地磁気の中で進化してきたのであるから,人間と地磁気との間に関連性があってもおかしくはない。しかし地磁気が,どのような生理学的メカニズムで人間に影響する可能性があるかという,明確な仮説は立っていない。かつてのソ連では,地磁気と健康指標に相関があると報告されたが,アメリカの研究では確認されなかった。しかし,日周リズムやホルモン生成に地磁気が影響するという研究報告が,徐々に積上げられている。

<2> 地磁気とPSI

 1985年,パーシンガーは,顕著な偶発的PSI事例(7-1)が,地球の平均地磁気(Ap)が低い時期(平穏日)に起きていることを報告した。1986年のPA大会では,局所的な地磁気の変動を無視して,地球全体の平均地磁気と比べても意味がないとか,我々の周りには人工的な電磁場がさまざまに形成されているので,地磁気の影響は埋もれるのでないかとかの,多くの批判がなされた。それにもかかわらず,地磁気とPSIについて,その後たくさんの研究が行なわれた。
 驚くべきことにESPについては,パーシンガーを始めとする7つ研究で,地磁気が小さいときにESPスコアが大きいという負の相関が次々と得られた(2つの研究では相関が得られなかった)。PKについては,1974年にすでにロルらが,地磁気が大きいときに反復性偶発的PK(7-4)の頻度が高いと報告していた。それを裏づけるように,2つの研究で,地磁気が大きいときにPKスコアが大きいという正の相関が得られた(1つの研究では相関が得られなかった)。

<3> 月齢とPSI

 満月(月齢で15日目)のときにバンパイアは狼に変身するというが,月齢とPSIとの相関を主張する研究も多い。プハリッチは1965年,満月と新月のときのテレパシー実験のスコアが際立って高いことを報告した。月齢と地磁気変化は相関があり,満月と新月のときの地磁気は比較的小さいので,月齢とPSIの関係を,上述の地磁気とPSIの関係に還元することも不可能ではない。
 しかし,ネバダ大学ラスベガス校(当時)のディーン・ラディンは,カジノの平均支払いを分析し,それが満月時に高い(大当たりが満月に一致しやすい)ことを見出している。このデータは地磁気よりも月齢と強い相関を示している。

<4> 地方恒星時(LST)

 地方恒星時(LST)とは,恒星を基準にした時刻体系であり,天文学や地球物理学など地球規模の議論をするときによく使われる。我々が体感する,朝・昼・晩・夜の1日の感覚とはズレるが,地球の公転によって見かけが移動する太陽を基準にするよりも,宇宙そのものを基準にしたほうが便利なことがある。
 通常の時刻体系の1日は太陽を基準に定められた太陽時である。すなわち時刻基準の経度(日本は東経135度の明石)に太陽が南中するのを正午とし,天空上の太陽の位置に応じて,1周を24時間で割って地方太陽時を設定している。それに対してLSTは,天空にある恒星を基準に1日を設定する。すなわち春分点(春分の日に太陽がある位置の恒星)が南中するのを正午とし,天空上の春分点の位置に応じて,1周を24時間で割って地方時を設定している。太陽の日周回転に対して恒星の日周回転は若干速く,LSTの1日24時間は通常の太陽時にすると23時間56分4秒にあたる。これによって太陽は1年で恒星に対して1周することになる。すなわち恒星時の1年は366日である。

LSTを算出してくれるページ:http://tycho.usno.navy.mil/sidereal.html

<5> LSTとPSI

 スポティスウッドは1996年,自由応答ESPのデータベースにある1500試行以上のデータをあたり,LSTの13時近辺に正答が集中していることを示した。その後彼は,データ数を2879試行に増やし,地磁気との関係を精密に調べた。まずESPスコアと地磁気の負の相関はそれほど大きくなく,p値にして6%であった。ところが,LSTとその負の相関傾向を比較すると,LSTの13時を中心とした2時間分の時間帯のみに,地磁気とESPとの大きい相関(r=-0.33)が現われた。
 LSTの13時に,何か人間に影響を与えることが起きているのだろうか。宇宙のどこかから何かが放射されているのだろうか。スウェーデンの研究では,交通事故の頻度とLSTとの関係,記憶課題の成否とLSTの関係が調べられたが,13時に特徴的な変化が現われるわけではなかった。しかし,スポティスウッドは興味深い研究領域を切り開いたと言えるだろう。

ジェームズ・スポティスウッドのホームページ:http://www.jsasoc.com/

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるリチャード・ブラウトン氏の講演をもとにしている。また,まえがきに掲げたラディンの「文献5」で補っている。


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