3-3 リモートビューイング実験

明治大学情報コミュニケーション学部教授
メタ超心理学研究室 石川 幹人

 リモートビューイング(遠隔視)実験は,送り手が訪れた遠くの場所や,そこでの送り手の経験についてESPで感知するという実験設定であり,事件の捜査を行なう超能力者のESP発揮(1-1)を管理実験に仕立てた方法と言える。また幽体離脱の考え方(7-2)に合致するところもあり,被験者にとって取り組みやすい設定であるとも言える。しかし後には,コンピュータの画面を透視するという,より管理された方法に変わって行った。
 当初のリモートビューイング実験の詳細については,次の文献によって日本語で読める。

 ターグ&パソフ著『マインドリーチ』猪股修二訳(集英社)

<1> 実験を実施した研究者たち

 リモートビューイング実験を開始したのは,カリフォルニア州にあるスタンフォード研究所(SRI)の物理学者ラッセル・ターグとハロルド・パソフであった。彼らは,1970年代初頭に,有名な能力者インゴ・スワンらを被験者に透視実験を行ない,成功を収めていた。地図上の座標を示すだけで被験者は,その地点の風景や地下にある施設まで描写したという。彼らはまた,ユリ・ゲラーを被験者にした透視実験も行なっており(懐疑論者のランディらはトリックがあったと主張するのだが),その顕著な結果は『ネイチャー』に掲載された。この論文の邦訳が,笠原編『霊魂離脱の科学』(叢文社)に所収されている。こうした実績をもとに,また有能な被験者であったパット・プライスの助言を受けて,リモートビューイング実験の骨格ができあがった。
 SRIでのリモートビューイング実験は,主にCIAの研究費を得て,1973年から1989年まで続いた。1986年からは,ターグとパソフに代わり(ターグはロッキード研究所へ,パソフはオースティンにある先端研究所へ移動した),プロジェクトメンバーとして10年ほど働いていた物理学者エドウィン・メイが代表研究者となった。また,1980年代には,プリンストン大学のPEARプロジェクトでもリモートビューイング実験が行なわれた。SRIのプロジェクトは1989年以降,SAIC(科学応用国際会社)に移り,引き続きメイのもとで,改訂されたリモートビューイング実験が行なわれた。
 CIAや陸軍などの米国政府の研究支援は「スターゲート」という名称で,24年間続き,1995年に最終評価報告書が出された。それによると,一連の実験では統計的に有意な結果を示しているものの,諜報活動に有効なデータは得られなかった,と見なされた。
 同年メイはSAICを辞職し,評価報告の内幕を暴露する記事を書いた。メイによると,CIAは,デヴィッド・ゴスリンを代表者とする組織に,4か月で結果を出すように評価報告を依頼したのである。そのゴスリンは,1987年のNRC報告書(1-4)をまとめる責任者でもあったのだ。おのずとスターゲートの前の肯定的な報告書は参照されず,極度に否定的な論調のNRC報告書が参照された。そのうえ,24年分の報告であるのに,過去にプロジェクトに加わった研究者へのインタビューもなく,限定的な実験データから短絡的に結論を導いているという。さらに,統計学者の立場から評価に参加していたジェシカ・アッツに,(欠陥の多い)NRC報告書には言及しないよう要請していたという。メイは,CIAの結論は評価を依頼する前から決まっていたのだ,と断言している。
 現在メイは,基盤研究実験所(LFR)にて超心理実験を続けている。

<2> 実験の方法

 典型的なリモートビューイング実験は,次の通り。
 SRIリモートビューイング実験:実験を実施する施設から車で30分程度の地点を,あらかじめ100か所ほどピックアップしておき,その地点へ至る地図を作成する。それらを,おのおの封筒に入れて番号を振り,実験者の部屋に保管しておく。被験者対応の実験者は,紙とペンと録音機を持って,被験者とともに別室に入る。実験者の部屋では,送り手対応の実験者が無作為の乱数でもってターゲット地点の封筒を決め(ここでは第三者が立会う),送り手とともに紙とペンと録音機を持って,地図が指定する地点へ車で向かう。打ち合わせた時間になったならば,送り手は自分の体験をテープに録音したり,その地点の風景を紙に描いたりする。同時刻に被験者は,心に浮かぶ事柄をテープに録音したり,紙に絵で描いたりする。被験者対応の実験者は,被験者の報告が進むようにいろいろと問いかける。打ち合わせた時間が経過したならば実験を終了し,双方の紙と録音テープは実験者たちの管理下におかれる。この手順を10回(10日間)程度繰返し,得られた送り手側のデータと被験者側のデータは,それぞれ対応関係がわからないように無作為の記号が付され,複数の部外判定者に送付される。判定者は,被験者側のデータのひとつひとつについて,それぞれ送り手側のどのデータに近いか,送り手側のデータに近い順に順位をつける(判定者が実際にその地点に行ってみることもあった)。その結果は統計的に分析される(2-8)。通常,ミッシングの分析(4-1)は行なわない。

判定作業
(実験結果の判定作業の風景,RRC提供)

 リモートビューイング実験では,毎回の実験終了後に被験者をターゲット地点に連れていく。これはフィードバックの効果(気づいた点を次回の実験に生かせるようにすること)を狙っている。実験の骨格はガンツフェッルト(3-2)と似ているが,被験者は変性意識状態に入ることなく,実験者と対話しながら,イメージをどんどん記録していく点が異なっている。またリモートビューイング実験では,「送り手」がいるものの,テレパシーでなく「その場所を透視する」ことに重点が置かれている。さらにリモートビューイング実験では,被験者が自分で結果を判定することもしない。
 SAICリモートビューイング実験:SAICでは,後述のSRIの実験で得られた知見や,批判者から指摘された問題点にもとづいて,改訂を加えたリモートビューイング実験がなされた。ターゲットはもはや場所ではなく,風景写真である。その代わり,ターゲットの特徴は十分に調整されている。ターゲットは,テーマのはっきりした風景写真であり,人やこまごましたものはあまり写ってない。総計で300枚準備し,構成要素の違いに従って5つの異なるカテゴリーに分けておく。これらはコンピュータによって管理されており,指定のタイミングで無作為に1つのカテゴリーから1つのターゲットを選択表示する。SAICの実験では送り手は存在せず,透視(あるいは予知)の構図で被験者は実験を行なう。無人の別室のコンピュータスクリーンに画像が表示される間(予知の場合は表示しない),被験者は心に浮かぶ印象を実験者とともに記録する。所定の時間が来たら記録をとりまとめ,判定に移る。判定時刻になるとコンピュータ画面は自動的に5枚の画像の一覧表示状態になる。これら5枚の画像は(その中にはターゲット1枚が含まれているわけだが),それぞれが5つの異なるカテゴリーから無作為に選ばれているため,相互にかなり違った要素をもつ画像となっている。判定者はそれらの画像を被験者の記録と比較して,似ている順番に1位から5位までの順位をつける。この順位データが統計処理される(2-9)。
 実験終了後,被験者はターゲットを見てフィードバックを受ける。予知の場合は,このとき初めてターゲットが判明する。被験者には,5枚画像の一覧表示は見せてはいけない。なぜなら,それを見せると,それに予知が働いて,どれがターゲットであるか,被験者が混乱する可能性があるからだ。なお,ターゲットは繰返し使用されるので,300分の1の確率で次も同じターゲットになる。さらに被験者の報告を,「山がありますか」「水がありますか」などと選択式に問う,自動化システムも作られている(2-7)。

<3> 実験結果と批判

 当初のSRIリモートビューイング実験は,9人の被験者による51試行の実験で,p値は10の8乗分の1未満で,極めて有意となった。この点も『ネイチャー』に掲載された内容である。
 懐疑論者のマークスとカマンは,判定に問題があると指摘した。判定者にデータが送られるときの順番に何か手がかりがなかったか,録音された会話の中に,実験の順番が推定できる情報(その日は何日であるとか,昨日のターゲットは何であったかなど)や,その日の天候(送り手と被験者の双方が「今日は雨だ」などと口にしていると両者が照合できてしまう)などの何らかの手がかりがあったのではないか,また判定者が超心理学の関係者であると結果が偏ると主張した。超心理学者のタートは,部外者の立場から問題解決に乗り出した。彼は,録音内容のタイプから,マークスらの指摘に合致するような箇所をすべて削除して,データの順番を完全にランダムにしたうえで,第三者の判定者に送って判定を求めた。その結果は,前と同程度に有意であった。マークスらは,削除が不十分であったと反論している(判定者に送る前に彼らが事前チェックするべきであった)。
 懐疑論者のハイマンは,ターゲットが1回使われると再利用されないところに問題があると指摘した。そこに連れて行かれた被験者は,次回以降はそこがターゲットにならないことから,ターゲットになりそうな実験施設付近の地点が減っていって,当てやすくなるという。この点についてターグらは,ターゲット候補は十分多数あり,中には非常に似通ったものもあるので,問題ではないと反論している。
 SAICのリモートビューイング実験は,5人の被験者で200試行を行なったところ,p=0.047であり,わずかに有意であった。

<4> SRIの実験で得られた知見

メイによると,SRIでのリモートビューイング実験から得られた知見は次の通り。
 (1) 自由応答式にしたことで,それ以前の(強制選択式の)ESP実験よりも成果が上がった。
 (2) 6人の有能な被験者が,他の被験者より極めて有意な成果を出している。
 (3) 選抜実験を行なうことにより,およそ1%の確率で有能な被験者が見つかる。
 (4) 有能な被験者を「見つける」ほうが,訓練して育てるより容易である。
 (5) フィードバックは必要かどうか不明であるが,被験者の励ましにはなる模様。
 (6) ターゲットまでの物理的距離を大きくしても,ESPの効果は低下しないようである。
 (7) 被験者を電磁シールド環境に入れても,ESPの妨げにはならないようである。
 (8) 予知の実験(被験者の記録後にターゲットを選定する)でも,同様にESP効果が出る。

<X> 付記

 本項の内容はSSPにおけるリモートビューイング実験体験と,メイ氏,マクモニーグル氏(スターゲートの有能な被験者のひとりで「リモートビューワー001」と呼ばれた),グラフ氏(スターゲートの名付親)の講演をもとにしている。
 関連活動実績:スターゲート計画


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