ぼくの子育て歳時記(3)さようなら、やまびこ保育園

   西川伸一  * 投書で闘う人々の会『語るシス』第9号(1999年4月)掲載

 前号の終わりに書いたように、4月から近所に新設された認可保育園への入園が認められた。3月28日にそれまでお世話になった無認可保育園で、お別れ会を兼ねた卒園式があった。やまびこ保育園という。

 卒園児は3名。それに対して、うちの娘のように転園する子どもは十数名にのぼった。27名いた園児は新年度から半減。「やまびこは静かですよ」と、転園せずに残った園児のお母さんから聞かされた。なんだか主義に反したことをしたようでつらかった。認可園が増えれば、それを補完する無認可園が圧迫されるという切ない現実。

 とりわけ乳児の場合、認可園の定員が少ないため、年度はじめに入るだけでも大変な競争率となる。ましてや年度途中では不可能に近い。

 育児休業は出産後1年までとれる。そこで、職場復帰と同時に認可園に預けることをねらって、3月、4月に計画出産する女性もいる。あるいは、生後1年に満たなくても、認可園に入れるのなら新年度にあわせてに預けようとする母親も多いときく。

 それゆえ、働くママにとって、年度途中からでも預かってくれる無認可園は「最後の頼みの綱」なのだ。やまびこは昨年度13名でスタートしているから、年度末にはその倍になった勘定になる。しかし、保母さんたちがせっかく愛情こめて育てても、新年度にはごっそりいなくなってしまう。卒園式で、転園する園児たちに「バイバイ」といわれ、泣いてしまった保母さん、、、。

 手元に「ぶんしゅうやまびこ98」がある。園児の写真や絵、親たちの子育て余話とともに、保母さん7名の文章も載せられている。それを読むと、彼女たちの育児にかける情熱がひしひしと伝わってくる。

 「最初引っこみ思案だった子が、自分を出せるようになり、そのいきいきした姿を見るのは本当うれしい時です」「何よりも嬉しく思う時は、キラキラおひさまのような明るい笑顔をして遊んでいる子どもたちの姿を見ている時です。子どもたちにエネルギーをもらって生活しているといった感じです」

 このやまびこ保育園。財政的に苦しいのはいうまでもない。園児の月謝57000円だけではたかがしれている。バザー、廃品回収、物品販売などでしのぐ。市からの補助金は園児全員分は受けられない。市の基準だとこの施設では園児8名が適正規模で、補助金は8名分しか出せないのだそうだ。

 無認可園の必要性を認めながら、保育行政はそれを無視して進められている。三多摩トップの財政力をもつ府中市にしてこのざま。ハコモノばっかりつくってるからだ!!

 もちろんしわよせは、保母さんの待遇となってあらわれる。「ぶんしゅう」に寄せられた園長先生のことば「保育料も安くしたいし、保母さんの生活も保障したいし・・運営のきびしさに悩む毎日」。卒園式では、卒園児の父母の代表があいさつの中で「安い給料ですみません」と述べた。

 横浜市のある無認可園では経験10年のベテラン保母さんでも、月給は手取り13万円でしかないという。はたして、やまびこの保母さんたちはどのくらいもらっているのだろうか。いずれにせよ、やりがいが彼女たちをがんばり続けさせているにちがいない。

 職員と父母との話し合いでは、抜本的な解決策として、認可園になる案も出されている。しかしこれは容易なことではない。市から市有地の貸与、社会福祉法人化の認可、国・都・市からの補助金や財団からの借入金の調達。

 それだけではとても足りないので、自己資金が必要になる。市内の別の無認可園が認可園化を目指しているが、それに必要な自己資金はなんと5000万円。

 さて、選挙の春。子育てのおかげで、候補者の公約を吟味する身近な目安をひとつ得た気がする。とはいえ、帰国してまだ3か月足らず。選挙権がないのがくやしい。


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