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「第7回 高さ反転立体」への補足

補足1.「飛び乗る鶏」のトリック

 講義の最後に出した問題は、「12角柱を横向きに立てた立体は鏡の中ではそのまま映っているのに、鶏が雌鶏から雄鶏に種類が変わり、場所も変っているのはなぜでしょうか」というものでした。その答は次の通りです。
 12角柱を横向きに立てた姿を水平面へ投影して高さ反転立体を作っています。だから鏡の中では高さが反転しているのですが、この立体は上下対称なので、反転していることが分かりません。 一番下にいた鶏が鏡の中で一番上へ移っているのは、高さ反転性の結果です。雌鶏が雄鶏に入れ替わるのは、雌鶏の裏側に雄鶏が描いてあるからです。
 【補足】12角柱は上下対称なので鏡の中にそのまま映ると書きましたが、実は”そのまま”ではありません。なぜなら、12角柱の上半分は外側が見えているのに、下半分は内側が見えており、鏡の中では外側と内側が入れ替わるからです。外側と内側が入れ替わるところでは、立体の一部が他の部分を隠すという関係が生じているので、鏡に映すと矛盾が生じます。この矛盾をわかり難くするために、隠された線も描いてあります。立体が半透明の材質でできているという印象を与えられるだろうと思ってそうしたのですが、立体の左右の端は細く見えるために、そもそもこの矛盾は目立ちませんでした。

補足2.「飛び乗る鶏」を自分でも作ってみたい方へ

 「飛び乗る鶏」に使った正12角柱の絵を ここに置きました。プリントして切り取ったものを鏡の前に置けば、この錯視を確認できます。鶏の代わりに、身の回りの好きなものを置いても錯視を楽しむことができます。

補足3.「高さ反転立体」の参考文献

K. Sugihara: Height reversal generated by rotation around a vertical axis. Journal of Mathematical Psychology, vol. 68-69 (2015), pp. 7-12.
 この参考文献は、「第3回 逆を向く階段」で掲げたものと同じです。どちらも、水平面への斜投影図が持つ高さ反転性を利用しており、原理は同じです。今回の「高さ反転立体」が一般論で、「逆を向く階段」はその特別な例でした。

補足4.「高さ反転立体」の講義に用いた絵の例

高さ反転立体を作るためには、立体を水平面へ斜めに投影しなければなりませんから、普通の垂直投影図とは異なります。この投影法は、投影面を投影方向に垂直ではなくて斜めに置くため、斜投影と呼ばれています。左は、講義で使った図の例です。正面から見ても素直な絵には見えません。この図を水平面において、垂直な軸のまわりに反時計回りに30度回転してから、45度の角度で見下ろすと正常に見えてきます。