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「第23回 奥行き由来の古典錯視」への補足

補足1.問題の回答

 この図形を見ると、白と黒の正方形が交互に積み重ねられたシーンを思い浮かべます。一番右の正方形が最も視点に近く、左へ行くほど視点から遠いと解釈できます。この解釈に従うと、左ほど小さく見えるはずなので、それを補正した結果、左のほうが正方形が大きい、すなわち図形の幅も大きいと知覚すると考えられます。これが、奥行き知覚に基づいたこの錯視の説明です。
 

補足2.明るさの恒常性

 2種類の濃さの灰色で塗られたチェッカーボードパターンを凹凸のある面に貼り、それを上から照明された環境で観察すると、上を向いた面は明るく、下を向いた面は暗くなります。でも、私たちの脳は、この照明の強さの違いを考慮して目に届く明るさを補正し、同じ灰色は同じものと知覚できます。この機能は、明るさの恒常性と呼ばれています。

 次の左の図形では、中央の上から2番目と上から4番目のマス目の灰色は違う色に見えます。しかし、右の図形に示す通り、この二つのマス目は同じ灰色です。同じ灰色が違った色に見えるこの錯視は、エーデルソンの波型モンドリアン錯視と呼ばれています。この錯視は、明るさの恒常性機能が正常に働いた結果であると解釈できます。

補足3.大きさの恒常性

 同じ大きさの箱を近くと遠くに置いて撮影すると、画像の中では遠近法の性質によって、近くのものが大きく遠くのものが小さく写ります。これを見たとき、画像の中では異なる大きさのものを、3次元世界で同じ大きさであると知覚する脳の機能は大きさの恒常性と呼ばれます。

 一方、画像の中で同じ大きさのものは、近景に置かれているか遠景に置かれているかに従って、脳が大きさを補正するため、同じ大きさと知覚されません。その結果、回廊錯視が生じます。ですから、回廊錯視は、大きさの恒常性が正常に働いた結果であると理解できます。

補足4.形の恒常性

 3次元世界で同じ形の二つの箱を撮影した画像を見ると、私たちは二つの箱が同じ大きさだと知覚できます。でも、その画像に写っている箱の上面の四角形を2次元図形として比較すると、形も大きさも異なります。これは、遠近法の性質によって近くのものは大きく、遠くのものは小さく画像に写るからです。このように、画像の中では形や大きさが違っていても、元の3次元世界で同じものは同じであると解釈できる私たちの知覚能力は、形の恒常性と呼ばれています。

 形の恒常性は、逆に、2次元図形として同じ形のものに厚みをつけて3次元空間に置かれた状況を作ると、元の2次元図形は異なる形として視覚されます。これがシェパード錯視です。ですから、シェパード錯視は、形の恒常性が正常に働いた結果なのです。

 

補足5.古典的錯視に関する参考文献

 古典的な錯視に関する本はたくさんあります。次は、その中のほんの少数の例です。

後藤倬男、田中平八(編):「錯視の科学ハンドブック」、東京大学出版会、東京、2005.
北岡明佳:「錯視入門」、朝倉書店、東京、2010.
杉原厚吉:「新錯視図鑑」、誠文堂新光社、東京、2018.