明治大学経緯学堂主旨漢文 (1904)

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明治大学経緯学堂主旨漢文 (1904)

最初の公開2014-4-9 最新の更新2014-6-17
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　　　　　備考　経緯学堂は、明治大学が主に清国人留学生のために開いた分校。
　　　　　　　　明治三十七年九月から四十三年三月まで存続。
　　　　　　　　以下の漢文は吉田義静(東京外語)らが起草したもの。

経緯学堂主旨且以清韓二国諸生有志法学来遊於我明治大学者日見其衆誠恐有愕青年於是特定章程有鑑於両国之国体風俗故取捨折中参諸一致以教育之然余等用意之微誠恐普通学未精諸生有隔靴掻癢之患耳仲尼曰絵事後素虢射曰皮之不存毛将安伝古人教人先施其素已二千余年矣近者我国学士深念夫極東之経綸特欲養成同文国之諸生以振興其国運方不負我国善隣之誼抑可使二国臣民咸知報国之本也於是為諸生謀特設一学校以為普通教学之所名之曰経緯学堂夫経緯云者非取諸詩書之古義微意自有存焉蓋余等所欲養成諸生者在乎各有東人之学問兼通西人之新識以応接宇内之事物而超邁乎西人之上以成卓々不羣之君子也本学設教之旨以東亜先聖之教為経正徳之本取法於此以欧美百科之学為緯利用厚生亦由於此然不明経緯之辨保無醸成禍端其流害伊于胡底請籍我国昔日之事以代前箸当明治龍興之始　天子下勅使採泰西之長以補我国之短於是朝廷聘用外人以充顧問特派諸生遊学外洋苟足以補我之略者無不専意採取越三年新定学制自小学以至大学一一取法於美国於是欧美百般技芸無不駸々乎闌入而朝野人士衒於新奇或以為東亜無長進蔑視我邦固有之国体与先聖之貽訓以知泰西事故為文明以守道義忠厚為迂腐滔々擾々捨旧従新天下之輿論如原田莓々之歌殆莫知所適従矣識者窃以為学制中経緯不明之所致也於是　天子再発詔勅以示教育之大旨曰朕惟我皇祖皇宗肇国宏遠樹徳深厚我臣民克忠克孝億兆一心世済厥美此我国体之精華而教育之淵源亦実存于此爾臣民孝于父母友于兄弟夫婦相和朋友相信恭倹持己博愛及衆修学習業以啓発智能成就徳器進而広公益開世務常重国憲遵国法一旦有緩急義勇奉公以扶翼天壌無窮之皇運如是不独為朕忠良之臣民又足以顕彰爾祖先之遺風斯道実我皇祖皇宗之遺訓而子孫臣民之所倶遵守通之古今而不謬施之中外而不悖朕与爾臣民庶幾倶拳々服膺咸一其徳自是国人皆悟内外国体之異与夫教育之旨由是敦厚之風漸復忠愛之情再生矣而無複敢唱異議以揺蕩世道人心者幸無及於乱倘不明学制中之経緯以慎其始誤用自由権利等書以教之必至乱其国体壊其人心殆有不可収拾之患如今之創異説者豈非殷鑒乎此皆不明経緯誤用敗壊之書以設教之故也凡外物之侵入也必有所紛擾上古仏法流入之時亦然況今日之世乎若徒舎旧図新以為治平之具不但無益於国実為兆乱之器豈可不懼哉余等才雖駑鈍教養子弟已二十余年矣聊有所経歴初則以欧美事物不択薫蕕一意模倣以造我国風俗継則以欧美学術為経以我国旧制為緯以織成半西半東之錦至成法発明之後得所遵循精誠式之乃有今日之隆盛愈以知宜以東亜先聖之遺訓為造土保国之大本也盖渉世久而閲歴宏更事多而識力熟余等久遊欧州研究法学帰国之後即以斯学教養子弟窃謂於講学之道三折肱矣至於普通学則非余等所敢専如倫理科則聘宿儒以充之其他各科均選通達之士以授教夫以先聖之教為金鼓旗幟以振興同文国之耳目則善鄰之基礎其鞏固自如盤石矣設有欲拓其疆者自必群出於同文以外之境吾知其有断然者此即余等立意之苦心也已　　　『明治学報』第七十六号　明治三十七年九月八日

【句読　メモ　まだ工事中】経緯学堂主旨
　且以清韓二国諸生、有志法学、来遊於我明治大学者、日見其衆、誠恐有愕青年。
　於是、特定章程、有鑑於両国之国体風俗、故取捨折中、参諸一致、以教育之。
　然、余等用意之微、誠恐普通学未精、諸生有隔靴掻癢之患耳。
　仲尼曰「絵事後素」。虢射曰「皮之不存、毛将安伝」。古人教人、先施其素、已二千余年矣。
　近者、我国学士、深念夫極東之経綸、特欲養成同文国之諸生、以振興其国運、方不負我国善隣之誼、抑可使二国臣民咸知報国之本也。
　於是、為諸生謀特設一学校、以為普通教学之所、名之曰「経緯学堂」。
　夫経緯云者、非取諸詩書之古義、微意自有存焉。蓋、余等所欲養成諸生者、在乎各有東人之学問兼通西人之新識、以応接宇内之事物、而超邁乎西人之上、以成卓々不羣之君子也。本学設教之旨、以東亜先聖之教為経、正徳之本取法於此。以欧美百科之学為緯、利用厚生、亦由於此。然、不明経緯之辨、保無醸成禍端、其流害伊于胡底。
　請籍我国昔日之事、以代前箸。当明治龍興之始、天子下勅、使採泰西之長、以補我国之短。於是、朝廷聘用外人以充顧問、特派諸生遊学外洋。苟足以補我之略者、無不専意採取。越三年、新定学制、自小学以至大学、一一取法於美国。於是、欧美百般技芸、無不駸々乎闌入。而朝野人士、衒於新奇、或以為東亜無長進、蔑視我邦固有之国体与先聖之貽訓。以知泰西事故為文明、以守道義忠厚為迂腐。滔々擾々、捨旧従新。天下之輿論、如原田莓々之歌、殆莫知所適従矣。識者窃以為学制中経緯不明之所致也。
　於是、天子再発詔勅、以示教育之大旨。曰
「朕惟、我皇祖皇宗、肇国宏遠、樹徳深厚。我臣民、克忠克孝、億兆一心、世済厥美、此我国体之精華、而教育之淵源亦実存于此。爾臣民、孝于父母、友于兄弟、夫婦相和、朋友相信、恭倹持己、博愛及衆、修学習業、以啓発智能、成就徳器、進而広公益、開世務、常重国憲、遵国法、一旦有緩急、義勇奉公、以扶翼天壌無窮之皇運。如是、不独為朕忠良之臣民、又足以顕彰爾祖先之遺風。斯道、実我皇祖皇宗之遺訓、而子孫臣民之所倶遵守。通之古今而不謬、施之中外而不悖。朕、与爾臣民庶幾倶拳々服膺咸一其徳」
　自是、国人皆悟内外国体之異与夫教育之旨。由是、敦厚之風漸復、忠愛之情再生矣。而無複敢唱異議、以揺蕩世道人心者。幸無及於乱。
　倘不明学制中之経緯以慎其始、誤用自由権利等書以教之、必至乱其国体、壊其人心、殆有不可収拾之患。如今之創異説者、豈非殷鑑乎此、皆不明経緯、誤用敗壊之書、以設教之故也。凡外物之侵入也、必有所紛擾。上古仏法流入之時亦然。況今日之世乎。若徒舎旧図新、以為治平之具、不但無益於国、実為兆乱之器、豈可不懼哉。
　余等才雖駑鈍、教養子弟、已二十余年矣。聊有所経歴。初則以欧美事物、不択薫蕕、一意模倣、以造我国風俗。継則以欧美学術為経、以我国旧制為緯、以織成半西半東之錦。至成法発明之後、得所遵循、精誠式之、乃有今日之隆盛、愈以知宜以東亜先聖之遺訓為造土保国之大本也。盖渉世久而閲歴宏、更事多而識力熟。余等久遊欧州、研究法学、帰国之後、即以斯学教養子弟、窃謂於講学之道三折肱矣。至於普通学、則非余等所敢専。如倫理科則聘宿儒以充之、其他各科、均選通達之士、以授教。
　夫以先聖之教為金鼓旗幟、以振興同文国之耳目、則善鄰之基礎、其鞏固自如盤石矣。設有欲拓其疆者、自必群出於同文以外之境、吾知其有断然者。此即余等立意之苦心也已。
『明治学報』第七十六号　明治三十七年九月八日

【書き下し文　メモ　まだ工事中】経緯学堂主旨
【一、基礎教育の重要性】
　且つ、清韓二国諸生の法学に志す有りて我が明治大学に来遊する者、日〻に其の衆きを見るを以て、誠に青年を愕せんこと有らんことを恐る。
　是に於て、特に章程を定む。両国の国体風俗に鑑みる有りて、故に取捨して折中し、諸を一致に参し、以て之を教育せんとす。
　然るに、余等の用意の微なる、誠に、普通学の未だ精ならずして諸生に隔靴掻癢の患有らんことを恐るるのみ。
　仲尼の曰く「絵事は素を後にす」と。虢射の曰く「皮の存せずんば、毛は将に安くにか伝へん」と。古人の人を教ふるに、先づ其の素を施すこと、已に二千余年なり。
【二、東洋の道徳と西洋の知識を兼備する世界一流の人材を】
　近者、我国の学士、深く夫の極東の経綸を念ず。特に、同文国の諸生を養成して、以て其の国運を振興し、方に我が国の善隣の誼に負かざらんと欲す。抑〻二国の臣民をして咸、報国の本を知らしむべきなり。
　是に於て、諸生の為に謀りて特に一学校を設け、以て普通教学の所と為さんとす。之を名づけて「経緯学堂」と曰ふ。
　夫れ経緯と云ふ者は、諸を詩書の古義に取るに非ず。微意自ら焉に存する有り。蓋し、余等の養成せんと欲する所の諸生なる者は、各〻東人の学問と西人の新識を兼通する有りて、以て宇内の事物に応接し、而も西人の上に超邁し、以て卓々たる不羣の君子と成るに在るなり。本学の設教の旨は、東亜先聖の教を以て経と為し、正徳の本は法を此に取る。欧美百科の学を以て緯と為し、利用と厚生と、亦た此に由る。然れども、経緯の辨を明らかにせずんば、保無醸成禍端、其流害伊于胡底。(？)
【三、西洋かぶれの横行】
　請ふ、我が国の昔日の事を籍りて、以て前箸に代へん。明治龍興の始めに当り、天子勅を下し、泰西の長を採りて、以て我が国の短を補はしめたまふ。是に於て、朝廷は外人を聘用して以て顧問に充て、諸生を特派して外洋に遊学せしむ。苟しくも以て我の略を補ふに足るものあらば、意を専らにして採取せざるは無し。三年を越し、新たに学制を定め、小学より以て大学に至るまで、一一法を美国に取る。是に於て、欧美の百般の技芸、駸々乎として闌入せざるは無し。而して朝野の人士は新奇に衒ひ、或は以て東亜に長進無しと為し、我が邦固有の国体と先聖の貽訓とを蔑視す。泰西の事故を知るを以て文明と為し、道義忠厚を守るを以て迂腐と為す。滔々擾々として、旧を捨て新に従ふ。天下の輿論は原田莓々の歌の如く(？）、殆んど適従する所を知る莫きなり。識者窃かに以て学制中の経緯の不明の致す所なりと為す。
【四、教育勅語】
　是に於て、天子再び詔勅を発し、以て教育の大旨を示したまふ。曰く
「朕惟フニ我カ皇祖皇宗国ヲ肇ムルコト宏遠ニ徳ヲ樹ツルコト深厚ナリ我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ億兆心ヲ一ニシテ世〻厥ノ美ヲ済セルハ此レ我カ国体ノ精華ニシテ教育ノ淵源亦実ニ此ニ存ス爾臣民父母ニ孝ニ兄弟ニ友ニ夫婦相和シ朋友相信シ恭儉己レヲ持シ博愛衆ニ及ホシ学ヲ修メ業ヲ習ヒ以テ智能ヲ啓発シ徳器ヲ成就シ進テ公益ヲ広メ世務ヲ開キ常ニ国憲ヲ重シ国法ニ遵ヒ一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壤無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ是ノ如キハ独リ朕カ忠良ノ臣民タルノミナラス又以テ爾祖先ノ遺風ヲ顕彰スルニ足ラン
斯ノ道ハ実ニ我カ皇祖皇宗ノ遺訓ニシテ子孫臣民ノ倶ニ遵守スヘキ所之ヲ古今ニ通シテ謬ラス之ヲ中外ニ施シテ悖ラス朕爾臣民ト倶ニ拳々服膺シテ咸其徳ヲ一ニセンコトヲ庶幾フ」
　是より、国人皆内外国体の異と夫の教育の旨とを悟る。由り是に、敦厚の風漸く復し、忠愛の情再び生ぜり。而も複た敢て異議を唱へ以て世道の人心を揺蕩する者無し。幸ひにして乱に及ぶ無し。
【五、自由権利の意味を取り違える危険】
　倘し学制中之経緯を明らかにして以て其の始めを慎しまず、自由権利等の書を誤用して以て之を教へば、必ずや其の国体を乱し其の人心を壊るに至り、殆んど、収拾すべからざるの患有らんとす。如今の異説を創る者、豈に此に殷鑑するに非ざらんや。皆経緯を明らかにせず、敗壊の書を誤用して、以て之を設教するの故なり。凡そ外物の侵入するや、必ず紛擾する所有り。上古の仏法流入の時も亦た然り。況んや今日の世をや。若し徒らに旧を舎て新を図るを以て治平の具と為さば、但に国に益無きのみならず、実に兆乱の器と為らん。豈に懼れざるべけんや。
【六、教育経験に対する自負】
　余等、才は駑鈍なりと雖も、子弟を教養すること已に二十余年なり。聊か経歴する所有り。初めは則ち欧美の事物を以て薫蕕を択ばず、一意に模倣して以て我が国の風俗を造る。継ぐに則ち欧美の学術を以て経と為し、我が国の旧制を以て緯と為し、以て半西半東の錦を織り成せり。成法発明の後に至り、遵循する所を得、精誠もて之を式し、乃ち今日の隆盛有り、愈〻以て、宜しく東亜先聖の遺訓を以て造土保国の大本と為すべきを知るなり。盖し、世を渉ること久しければ閲歴も宏く、事を更ること多ければ識力も熟せり。余等、久しく欧州に遊び、法学を研究す。帰国の後、即ち斯学を以て子弟を教養し、窃かに、講学の道、三たび肱を折ると謂へり。普通学に至りては、則ち余等の敢て専らにする所に非ず。倫理科の如きは則ち宿儒を聘して以て之に充て、其の他の各科は均しく通達の士を選び以て授教せしむ。
【七、儒教道徳で善隣友好そして世界へ雄飛】
　夫れ先聖の教を以て金鼓旗幟と為し、以て同文国の耳目を振興せば、則ち善鄰の基礎、其の鞏固なること自ら盤石の如くにならん。設し其の疆を拓かんと欲する者有らば、自ら必ずや同文以外の境に群出せん。吾、其の断然たる者有るを知る。此れ即ち余等の立意の苦心なるのみ。
『明治学報』第七十六号　明治三十七年九月八日

【参考】山泉進「『日華学報』に掲載された師尾源蔵のの明大留学生に関する文章」
　　『明治大学アジア留学生研究Ｉ』(大学史紀要第１８号、明治大学史資料センター、2014 年3月31日) pp182-208

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