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ブレヒト作「イエスマン ノーマン」 イバゲキ2012用メモ  岩淵達治訳・加藤徹作曲
最初の公開2012-8-19 最新の更新2012-8-23
[イエスマン前半] [イエスマン後半] [ノーマン前半] [ノーマン後半]

DER JASAGER(イエスマン) 前半
【コーラス】【♪midi】何よりも大事なのは 了解を、合意をコンセンサスを学ぶことだ  ハイハイハイと答える人はたくさんいる ところが実は了解なんかしていない 合意を求められない人もたくさんいる  だからこそ、だからこそ 何よりも大事なのは 了解のしかたを、合意の与えかたを コンセンサスを学ぶことだ 【師】私は師範で、この町に塾を開いています。生徒のうちに早く父を亡くし、女手一つで育てられた子供がいる。 これから出かけて、別れを告げてこようと思います。私は間もなく、救援隊を作って、山越えの度に出発する。この町に恐ろしい伝染病が発生したからだ。峰の向こうの町に行き着けば偉い医者たちがいる。(扉を叩く)入ってもよろしいかな。 【少年】どなたです? ああ、先生ですか。先生がたずねていらしたよ。【師】なぜこんなに長く塾へ来なかったのかね?【少年】いけなかったのです、母が病気で。【師】それは知らなかった。君のお母さんも病魔に犯されたとは。私が来たとすぐお伝えなさい。【少年】お母さん、先生がお見えです。【母】どうぞお入り下さい。【少年】先生どうぞ。 【師】ごぶさたしました。お子さんにうかがったところ、あなたも伝染病にとりつかれたそうで、お加減はいかがですか?【母】どうも思わしくございません。この病気にはどんな薬もきかないそうで。【師】そんなことはない。お別れにうかがったのは実はそのためです。薬を受け取り、看病のしかたを教えてもらうために、明日、峰越えに出発します。山の向こうには偉い医者たちが住んでおりますので。【母】救援隊の峰越えでございますね。わたくしも伺っております。峰の向こうに偉い先生がたがおいでのことは。でも、峰越えは、たいへん危険な旅とも伺っております。では、この子もお連れになるのでしょうか。【師】とてもお子さんを連れていけるような旅ではないのです。【母】さようでございますか。ではご無事でお帰りを祈っております。【師】では失礼いたします。 (師、家の外に出る。少年が声をかける)【少年】先生、お話しがあります。【師】なんだね、一体?【少年】ぼくも峰越えの救援隊に加わりたいのです。 【師】母上も言われたように これはとてもつらい 危険な旅だ。君は一緒には こられません。 それにどうして 病気の母上を残していけるんです。 ここに残りたまえ。 ほんとに君には無理なのだ。 【少年】(お)母さんが病気だから それで私は行きたいんです。 峯の向こうの町へ行き、偉いお医者様たちから (お)母さんにあげるお薬をもらったり 看病の仕方を習いたいのです。 【師】では、もう一度お母さんと話してみよう。 (師、家の中に戻る)【師】また戻って参りました。お子さんが一緒にいきたいと言われます。私は、病気の母上を残しては行かれまい、と申しました。それに、つらい危険な旅だから、参加は無理だとも言いました。でもお子さんは、あなたのご病気の薬をもらったり、看病のしかたを教えてもらうために、どうしても峰の向こうの町に行きたいと申されます。 【母】私も聞いておりました。子供の申すことに間違いはございません。──この危険な旅をすすんでしたいと申しているのですね。 お入り。【♪midi】父上が亡くなられた その日から 私のそばには お前のほかは 誰もいなかった。  食事の仕度をしたり、お前の着物を仕立てたり、 お金をかせいだりする時のほかは お前はいっときだって 私のそばから 私の胸から 離れたことはなかった。 【少年】お母さんの言うとおりです。でもぼく(わたし)の決心は固いんです。 【少年(師・母)】【♪midi】【♪mp3】ぼくは(この子は)救援隊の峰越えに加わる。峰の向こうの町で、お母さん(母親の・わたしの)薬をもらったり、看病のしかたを教わるために。 【コーラス】どんなにさとしても、こどもの決意は固かった。 そこで母と先生は 声をそろえて云った。【師、母】まちがったことに合意してしまうものが沢山いるが この子は 病気に合意したのではなく 病気をなおすことに合意したのだ(したのです)。 【コーラス】そこで母は言った。【母】私にはもう止められない。 どうしても行くと言うのなら 先生と一緒にいらっしゃい でも早く帰ってきておくれ。

DER JASAGER(イエスマン) 後半
【コーラス】【♪
midi】救援隊は、険しい山路に さしかかった。 先生と こどもの姿も見える こどもには、 この峯越えは無理だった。 帰りを急いではやる思いが 心に重い負担をかけた。  【♪midi】夜の白むころ 峯の手前で こどもはもはや 疲れた足を 動かすこともできなくなった。 【師】休まず登ってきたな。最初の山小屋だ。あそこで小休止しよう。 【弟子たち】そうしましょう。 【少年】先生、ちょっとお話しが。 【師】なんだね? 【少年】気持ちが悪いんです。【師】お待ち。そんなことは、こういう旅では言ってはいけない。きっと登り坂に慣れていないので疲れたのだろう。ちょっとそこで休んでおいで。【弟子A】あの子は登り坂でもうへばったようだ。 【弟子たち】先生にうかがってみよう。 【コーラス】そうだ、そうしろ!【弟子A】あの子は登り坂で疲れ切ってしまったようですね。【弟子B】どんな具合ですか?【弟子C】だいぶ先生にご心配をおかけしているんじゃありませんか? 【師】なに、少し気持ちが悪いと言っているだけだ。たいしたことはない。登り坂で疲れただけだろう。 【弟子D】では、あの子のことは心配ないとおっしゃるんですね? 【弟子A】おい、聞いたか? 先生は、登り坂で疲れただけだとおっしゃる。【弟子B】だけどあの子の様子は、ただごとじゃない。【弟子C】この山小屋を出るとすぐ狭い尾根にかかる。【弟子D】両手でしっかりつかまっていかなければ、あの尾根は越せない。【弟子C】……伝染病にかかったんじゃないと、いいがなあ。……【弟子A,B】あの子が先へ【弟子A、B、C】進めないとなると【弟子A、B、C、D】あの子をひとりだけ置き去りにしなければ…… 【弟子A、B、C、D】先生にうかがってみよう。【弟子A】さっきあの子に聞いた時には、ただ登り坂で疲れただけだと言っておりましたが、今はちょっと様子が変です。もう立っていられないようです。【師】あの子にもうつってしまったようだな。 あの子をかついで、あの狭い尾根を越せるかどうか試してみよう。 【弟子たち】そうですね、試してみましょう。(あれこれ試すが失敗)【弟子A,B】この子をかついで尾根を渡るのは無理だ。【弟子C,D】しかし、この子をここに置いてゆくわけにもいかない。【弟子A】だが、どんな事態にあっても、われわれは先へ進まなければならない。【弟子B】町全体が、われわれの取りに行く薬の着くのを待ちこがれているんだ。【弟子C】恐ろしくてとても言えないが、もし、あの子をかついで行くのが無理なら、 【弟子たち】山に置きざりにしていくより、しかたないだろう。【師】そうだ。たぶんそうしなければならないだろう。私も君たちには反対できない。【♪midi】しかし、発病したあの子に「お前のために、みんなが引き返すべきかどうか」ときいてみるのが正しいやりかただ。あの子のことは、私にもたいへん気がかりなのだ。彼のところへ行って、いたわりながら、運命に対する心構えを教えておくことにしよう。 【弟子たち】どうかそうしてください。 (師、少年のもとに移動する。弟子たち、遠くから見守る)【四人の弟子、コーラス】あの子にたずねてみよう(コーラス:彼らはこどもに尋ねた)あの子(少年)のために、みんながひき返すことになるほうがいいかどうかしかしたとえあの子が引き返すことを望んだとしても私ら(彼ら)は引き返すわけにはいかない(いかなかった)あの子を置き去りにして進まなければならない(ならなかった) 【師】(少年にむかって) いいか、よく聞きなさい。 君は病気でもう先へ進めないから、私たちは君をここへ残していかなければならない。 しかし、発病した当人に「おまえのためにみんなが引き返すべきかどうか」と、たずねてみるのが正しいやりかたなのだ。今までの習わしでは、その場合、病気の者は「はい、引き返すべきではありません」と答えることになっている。 【少年】わかりました。 【師】君は、君のためにみんなが引き返すことを望むか? 【少年】引き返すべきではありません。 【師】よろしい。君をここに置きざりにすることに合意してくれるね。 【少年】少し考えさせてください。 (考える間) はい、わかりました。 【師】(弟子たちに向かって叫ぶ) あの子はこの非常の場合に必要な答えをしてくれた。【コーラス、弟子たち】(弟子たちに向かって) あの子はイエスと言った。さあ、出発だ。 【師】出発しよう。立ち止まってはいけない。出発の決心はついたのだから。 【少年】お願いです。どうかここに置きざりにしないで、谷に投げこんでください。ひとりで死ぬのは心細いんです。 【弟子たち】それはできない相談だ。だめだ、とんでもない。 【少年】待ってください。どうかそうしてください。 【師】この子を残して出発する決心はついた。 この子の運命を決めることはやさしい。 だが、それを実行するとなると これはむづかしい。 この子を谷に投げ込む勇気が 君たちにはあるか。 【弟子たち】…はい。 【♪midi】 頭をらくに、僕たちの 腕によせかけるんだ 固くなってはいけない 用心して運ばなければ ならないのだから 【少年】【♪midi】ぼくはこの旅で何だか 生命(いのち)を失いそうな気がしていた お母さんを救おうという一心で 救援隊に参加してしまったのです この壺に薬をみたして 無事に母のところへもっていってください 【コーラス】友たちは壺をうけとり この世の運命(さだめ)ときびしいおきてを なげきつつ 子供を谷に投げ込んだ 彼らは肩をそろえて崖の淵に 隣の者より責任が重くならないように 一列に並び目をつぶって 子供を谷に投げ込んだ そして砂と石を そのあとから投げ込んだ

DER NEINSAGER(ノーマン)前半
【コーラス】【♪
midi】何よりも大事なのは 了解を、合意をコンセンサスを学ぶことだ ハイハイハイと答える人はたくさんいる  ところが実は了解なんかしていない 合意を求められない人もたくさんいる だからこそ、だからこそ 何よりも大事なのは 了解のしかたを、合意の与えかたを  コンセンサスを学ぶことだ 【師】私は教師です。町に塾を開いています。生徒のうちに早く父を亡くし、女手一つで育てられた子供がいます。 これから出かけて別れを告げてこようと思います。私は間もなく山へ研修旅行に出発します。苦難に耐え、心や体を鍛えるためです。 (扉を叩く)入ってもよろしいですか? 【少年】どなたです? ああ、先生ですか。先生が訪ねてくださった。【師】なぜこんなに長く塾へ来なかったのですか? 【少年】いけなかったのです、母が病気で。【師】それは知りませんでした。お母さんが病気だったとは。私が来たとすぐお伝えなさい。【少年】お母さん、先生ですよ。 【母】どうぞお入り下さい。【少年】先生、どうぞ。(師、家の中に入る)【師】ごぶさたしました。お子さんの話では、お加減が悪いということですが? 【母】病気のことならご心配下さいますな。大したこともなさそうです。【師】それは何よりです。実は今日は、お別れに参ったのです。私はまもなく、鍛錬のため、 山へ研修旅行をしなければなりません。峰の向こうにには、立派な学者もおりますし。【母】峰越えの研修旅行に? わたくしも伺っています。 峰の向こうに偉い先生がたがおいでのことは。では、この子もお連れになるのでしょうか?【師】とてもお子さんを連れていけるような研修ではないのです。 【母】さようでございますか。ではご無事でお帰りを祈っております。【師】では失礼いたします。くれぐれもお大事に。 (師、家の外に出る。少年が声をかける) 【少年】先生、お話しがあります。【師】なんですか、一体?【少年】わたしも一緒に峰越えの修行をしたいんです。 【師】【♪midi】母上も言われたように これはとてもつらい 危険な旅だ。君は一緒には こられません。  それにどうして 病気の母上を残していけるんです。 ここに残りたまえ。 ほんとに君には無理なのだ。 【少年】【♪midi】母さんが病気だから それで私は行きたいんです。 峯の向こうの町へ行き、偉いお医者様たちから  (お)母さんにあげるお薬をもらったり 看病の仕方を習いたいのです。【師】では、君は旅の途中でどんな目にあっても、納得できますか。【少年】はい。 【師】では、もう一度お母さんと話してみましょう。 【師】また戻って参りました。お子さんが研修旅行に一緒にいきたいと言われるのです。 私は、病気の母上を残しては行かれまい、と申しました。それに、つらい危険な旅だから、参加は無理だとも申しました。でもお子さんは、あなたのご病気の薬をもらったり、 看病のしかたを教えてもらうために、どうしても峰の向こうの町に行きたいと申されます。 【母】私も聞いておりました。子供の申すことに間違いはございません。 ──この危険な旅をすすんでしたいと申しているのですね。お入り。 【♪midi】父上が亡くなられた その日から 私のそばには  お前のほかは 誰もいなかった。 食事の仕度をしたり、お前の着物を仕立てたり、 お金をかせいだりする時のほかは お前はいっときだって 私のそばから 私の胸から  離れたことはなかった。 【少年】お母さんの言うとおりです。でもぼく(わたし)の決心は固いんです。 【少年(師・母)】【♪midi】わたしは(この子は)研修の峰越えに加わる。峰の向こうの町で、お母さん(母親の・わたしの)薬をもらったり、看病のしかたを教わるために。 【コーラス】どんなにさとしても、こどもの決意は固かった。 そこで母と先生は 声をそろえて云った。【師、母】まちがったことに合意してしまうものが沢山いるが この子は 病気に合意したのではなく 病気をなおすことに合意したのだ(したのです)。【コーラス】そこで母は言った。【母】私にはもう止められない。 どうしても行くと言うのなら 先生と一緒にいらっしゃい でも早く帰ってきておくれ。

DER NEINSAGER(ノーマン)後半
【♪
midi】【♪mp3】(ダンス曲「美女たちの峰越え」) 【コーラス】【♪midi】鍛錬隊は、険しい山路に さしかかった。 先生と こどもの姿も見える こどもには、この峯越えは無理だった。  帰りを急いではやる思いが こどもに重い負担をかけた。 【♪midi】夜の白むころ 峯の手前で こどもはもはや 疲れた足を 動かすこともできなくなった。 【師】強行軍でした。最初の山小屋に着きました。あそこで小休止。 【弟子たち】そうしましょう。 【少年】先生、ちょっとお話しが。 【師】なんですか? 【少年】気分が悪いのです。 【師】お待ちなさい。そんなことは、こういう旅では言ってはいけません。きっと登り坂に慣れていないので、それで疲れが出たのでしょう。 すこしそこで休んでいなさい。 【弟子A】あの子は登り坂でもうへばったようだ。先生にうかがってみよう。 【コーラス】そうだ、そうしろ! 【弟子A】あの子は登り坂で疲れ切ってしまったようですね。【弟子B】どんな具合ですか?【弟子C】だいぶ先生にご心配をおかけしているんじゃありませんか? 【師】なに、少し気持ちが悪いと言っているだけです。たいしたことはありません。登り坂で疲れただけでしょう。【弟子B】では、あの子のことは心配ないとおっしゃるんですね? 【♪midi】 【弟子A】おい、聞いたか? 先生は、登り坂で疲れただけだとおっしゃる。【弟子B】だけどあの子の様子は、ただごとじゃない。 【弟子C】この山小屋を出るとすぐ狭い尾根にかかる。【弟子D】両手でしっかりつかまっていかなければ、あの尾根は越せない。【弟子C】子供をかついでは越せない。 【弟子A】私達は【弟子A,B】昔からの【弟子A、B、C】ならわしに従い【弟子A、B、C、D】あの子を谷に投げ込むべきじゃないか? 【弟子たち】おーい、登り坂がきつくて病気になったのだろう?【少年】いいえ。 ほら 私はしゃんと立っています。 病気だったら立ってなんか いられないはずでしょう? 【弟子A、B、C、D】先生に報告しよう。【弟子A】先生、今あの子にたずねたら、登り坂で疲れただけだと申しました。 【弟子B】しかし、あの様子は変です。すぐに腰をおろしてしまいます。【弟子C】口にするのも恐ろしいことですが、私たちには昔からの習わしがあります。 【弟子D】先に進めなくなったものは、谷に投げ込まれることになっています。 【師】なんですって? 君たちは、この子を谷に投げ込むつもりですか? 【弟子たち】はい、そのつもりです。【師】なるほど、昔からの習わしは確かにそうです。君たちには反対できません。 【♪midi】だが、同時にその習わしによれば、病気になった当人に、自分のために皆が引き返すべきかどうかたずねることになっています。 あの子のことが私にはどうも気になっていました。よろしい。私があの子のところに行って、この習わしについて教えましょう。 【弟子たち】どうかそうしてください。 (師、少年のもとに移動する。弟子たち、遠くから見守る)【四人の弟子、コーラス】あの子にたずねてみよう(コーラス:彼らはこどもに尋ねた)あの子(少年)のために、 みんながひき返すことになるほうがいいかどうかしかしたとえあの子が引き返すことを望んだとしても私ら(彼ら)は引き返すわけにはいかない(いかなかった) あの子を谷に投げ込まねばならない(ならなかった) 【師】(少年にむかって)  いいですか、よく聞きなさい。 昔から、研修旅行で病気に犯された者は、 谷に投げ込まれるという掟があります。それで即死です。だが、その同じ習わしによれば、その者ひとりのためにみんなが引き返すべきだとは思わないね、と、 病気になった人にたずねることになっています。また、病気にかかった者は「はい、引き返すべきではありません」と答えることになっています。 もし君の立場だったら、 私は喜んで死ぬことを選ぶでしょう。【少年】わかりました。 【師】君は、君ひとりのためにみんなが引き返すことを望むか? それとも、習わしどおり、 谷に投げこまれることに合意してくれるか? 【少年】 (考える間)いいえ、合意しません。 【師】(弟子たちに向かって叫ぶ) おーい、おりてきなさい。 この子は習わしどおりの答えをしないのです。【弟子たち】あの子は「ノー」と言った。(少年に向かって)なぜしきたり通りの答えをしないのか!  ものごとには筋を通さねばいけない。研修旅行の前に「旅でどんな目にあっても合意するか」と聞かれたら、君は「はい」と言ったじゃないか。 【少年】あの時の私の答えは間違っていました。でも皆の今の質問はもっと間違っています。 【♪midi】【♪mp3】これこれと言った人間は、必ずしかじかと言わなければいけないわけはありません。 その「これこれ」が間違っていたことが、あとでわかることもあります。私はお母さんの薬を取りに行こうと思いました。でも自分が病気にかかって、もう取りに行けません。 新しい状況が出てきたのだから、私はすぐ引き返したいと思います。皆もどうか引き返して、私を家まで連れていってください。この研修旅行は一日を争うわけではないでしょう。 それに、それに、山の向こうで学ぶことだって、きっと、こういう場合には引き返せと教えることでしょう。昔からの習わしとおっしゃいますが、私は、このきまりは、 とてもおかしいと思います。私だったら、新しいきまりを作りたいと思います。そのきまりというのは、新しい状況にぶつかったら、新しく考え直すことだと思います。 【♪midi】 【弟子たち】どうしましょう、先生? この子の言うことは全く筋が通っています。もちろん英雄的な行動ではありませんが。 【師】君たちの行動は、君たちの考えに任せます。しかし、その前に言っておきたいことがあります。もし君たちが引き返したら、皆からも笑い者にされて恥をかくことになりますが、 それでもいいですか。 【弟子たち】あの子が自分に都合のいいことを言っているのは、みっともないことだとお思いになりませんか? 【師】(しばらく考える。間)  そんなことはない。わたしは、みっともないとは思いません。 【♪midi】【♪mp3】【弟子たち】それでは引き返すことにしよう 笑われたり少しぐらい恥を かかされても、わたしたちは 筋の通ったことをやり通そう 古いならわしは正しい考えを とり入れる邪魔にはならないはずだ。 頭を僕たちの腕によせかけるんだ。 固くなってはいけない。 注意してかつがなければ ならないのだから。 【コーラス】こうして友は友の手をとり 新しいしきたりをつくり 新しい掟を定めた 恥辱や、嘲笑に耐えるために 目をつぶって、誰も隣の者より 臆病にならぬよう 一列に並んで腕を組み 少年を連れ戻した。(終わり)
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