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『明史』巻322・外国3「日本伝」より、豊臣秀吉の条

最初の公開　2010/07/23
秀吉、信長の家来となる。
日本故有王、其下称関白者最尊、時以山城州渠信長為之。偶出猟、遇一人臥樹下。驚起衝突。執而詰之。自言「為平秀吉、薩摩州人之奴」。雄健蹺捷、有口弁。信長悅之、令牧馬、名曰「木下人」。後漸用事、為信長画策、奪並二十余州、遂為摂津鎮守大将。 日本にはもと王あり、そのしたに関白と称する者ありて最も尊し。時に山城州のかしら、信長をもってこれと為す。 たまたま猟にいで、一人の樹下にガするものにあう。驚起して衝突す。とらえてこれをなじる。みずから言う 「たいらの秀吉、薩摩州の人のやっこたり」と。ユウケンキョウショウにして口弁あり。信長、これをよろこび、馬をボクせしめ、名づけて「木下人」という。のちにようやく事を用う。信長のために画策し、二十余州をあわす。ついに摂津の鎮守大将となる。
秀吉、信長の権力を受け継ぐ。
有参謀阿奇支者、得罪信長。命秀吉統兵討之。俄信長為其下明智所殺、秀吉方攻滅阿奇支、聞変、与部将行長等乗勝還兵誅之。威名益振。尋廃信長参子、僭称関白、尽有其衆、時為万暦十四年。 参謀のアケチなるものあり、罪を信長に得たり。秀吉に命じて兵をすべ、これを討たしむ。にわかにして信長、そのしもの明智の殺すところとなる。秀吉、まさにアケチを攻め滅ぼす。ヘンを聞き、部将の行長らと勝ちに乗じて兵をかえしてこれをチュウす。威名ますますふるう。ついで信長の三子を廃し、関白をセンショウし、ことごとくその衆をユウす。ときにバンレキ十四年なり。
秀吉、日本を統一し、海外諸国も脅かす。
於是益治兵、征服六十六州、又以威脅琉球、呂宋、暹羅、仏郎機諸国、皆使奉貢。乃改国王所居山城為大閣、広築城郭、建宮殿。其楼閣有至九重者、実婦女珍宝其中。其用法厳、軍行有進無退、違者雖子婿必誅、以故所向無敵。 ここにおいてますます兵をおさめ、六十六州を征服し、また威をもってリュウキュウ、ルソン、シャム、フランキの諸国をおびやかし、みなホウコウせしむ。すなわち国王のおるところの山城を改めてタイコウをつくり、広くジョウカクをきずき、宮殿をたつ。そのロウカク九重にいたるものありて、フジョチンポウをそのうちにみたす。その法をもちうるにゲン、グンコウはすすむ有りてしりぞくこと無し。たがうものはシセイといえどもかならずチュウす。ゆえをもって、むかうところ敵なし。
秀吉の中国征服計画、始まる。
乃改元文禄、並欲侵中国、滅朝鮮而有之。召問故時汪直遺党、知唐人畏倭如虎、気益驕。益大治兵甲、繕舟艦、与其下謀、入中国北京者用朝鮮人為導、入浙閩沿海郡県者用唐人為導。慮琉球洩其情、使毋入貢。 すなわち文禄と改元し、ならびに中国をおかし、朝鮮を滅ぼしてこれをユウせんとほっす。故時のオウチョクの遺党を召問し、唐人の倭をおそるること虎のごときなるを知りて、気ますますおごる。ますます大いに兵甲をおさめ、シュウカンをつくろいて、そのしもと謀り、中国の北京に入るには朝鮮人を用いて導きとなし、セツ・ビン沿海の郡県に入るには唐人をもちいて導きとなさんとす。琉球のその情をもらさんことをおもんばかり、ニュウコウすることなからしむ。
琉球から情報が中国にもたらされる。
同安人陳甲者、商於琉球。懼為中国害、与琉球長史鄭迥謀、因進貢請封之使、具以其情来告。甲又旋故郷、陳其事於巡撫趙参魯。 同安のひとチンコウなるもの、琉球にあきないす。中国の害とならんことをおそれ、琉球の長史のテイケイとはかり、進貢請封のつかいによりて、つぶさにその情をもってきたり告ぐ。コウまた故郷にまわり、そのことをジュンブのチョウサンロにのぶ。
中国から朝鮮王に情報を通知するが、朝鮮王はその情報を生かせなかった。
参魯以聞、下兵部、部移咨朝鮮王。王但深辨嚮導之誣、亦不知其謀己也。 サンロもってブンし、兵部にくだし、部は朝鮮王に移しはかる。王、ただ深くキョウドウのフなることをベンずるのみにして、またそのおのれをはかることを知らざるなり。
日本国内の「諸鎮」(大名たち)は秀吉の暴虐を恨んでいた。
初、秀吉広徴諸鎮兵、儲参歳糧、欲自将以犯中国。会其子死、旁無兄弟。前奪豊後島主妻為妾、慮其為後患。而諸鎮怨秀吉暴虐、咸曰「此挙非襲大唐、乃襲我耳」。各懐異志。由是、秀吉不敢親行。 はじめ秀吉、ひろく諸鎮の兵をチョウし、三歳の糧をたくわえ、みずからひきいてもって中国を犯さんとほっす。たまたまその子死して、ほかに兄弟なし。さきに豊後の島主の妻を奪いてショウとなし、そのコウカンとならんことをおもんばかる。しかして諸鎮は秀吉の暴虐を恨み、みないわく「この挙は大唐を襲うにあらずして、すなわちわれらを襲わんとするのみ」と。おのおの異志をいだく。これによりて秀吉、あえてみずから行かず。
万暦20年(1592)開戦。清正、行長らが朝鮮を攻略した。
二十年四月、遣其将清正、行長、義智、僧玄蘇、宗逸等、将舟師数百艘、由対馬島渡海陥朝鮮之釜山、乗勝長駆、以五月渡臨津、掠開城、分陥豊徳諸郡。朝鮮望風潰、清正等遂偪王京。 二十年四月、その将、清正、行長、ヨシトモ、僧のゲンソ、ソウイツらをつかわし、シュウシ数百艘をひきいて対馬の島より海を渡り朝鮮のプサンをおとしいれ、勝ちに乗じて長駆し、五月をもってリンシンを渡り、開城をリャクし、わかれて豊徳の諸郡をおとさしむ。朝鮮、フウを望んでついえ、清正らついにオウケイにせまる。
朝鮮の首都はたちまち陥落し、朝鮮王は逃げた。
朝鮮王李昖棄城奔平壌、又奔義州、遣使絡繹告急。倭遂入王京、執其王妃、王子、追奔至平壌、放兵淫掠。 朝鮮王リエン、城をすててピョンヤンにはしり、また義州にはしり、使いをつかわしてラクエキとして急を告ぐ。倭、ついにオウケイに入り、その王妃・王子をとらえ、追いはしりてピョンヤンに至り、兵を放ちてインリャクす。
中国の援軍がかけつけたが、大敗した。
七月、命副総兵祖承訓赴援。与倭戦於平壌城外、大敗、承訓僅以身免。 七月、副総兵の祖承訓に命じて赴きて援けしむ。倭とピョンヤン城外にて戦うも大敗し、承訓わずかに身をもってのがる。
中国は国防次官の宋応昌と、司令官の李如松を派遣した。
八月、中朝乃以兵部侍郎宋応昌為経略、都督李如松為提督、統兵討之。 八月、チュウチョウはすなわちヘイブジロウのソウオウセイをもって経略となし、トトクのリジョショウをテイトクとなし、兵をすべてこれを討たしむ。
国防大臣の石星は、日本に対して打つ手がなく、ネゴシエーター兼スパイとして沈惟敬をやとった。
当是時、寧夏未平、朝鮮事起。兵部尚書石星計無所出。募能説倭者偵之。於是、嘉興人沈惟敬応募。星即仮游撃将軍銜、送之如松麾下。 この時にあたり、寧夏いまだたいらかならざるに、朝鮮のこと起こる。兵部尚書石星、はかりごとのいずるところ無し。よく倭に説くものをつのりてこれをうかがわしめんとす。ここにおいて、カコウの人、シンイケイ応募す。星、すなわち游撃将軍のカンをカし、これをジョショウのキカに送る。
中国軍はピョンヤンでは勝ったが、ヘキテイカンでは負けた。
明年、如松師大捷於平壌、朝鮮所失四道並復。如松乗勝趨碧蹄館。敗而退師。 明年、ジョショウの師、大いにピョンヤンにかち、朝鮮の失うところの四道ならびに復す。ジョショウ、勝ちに乗じてヘキテイカンにおもむく。敗れて師をしりぞかしむ。
中国側は、日本に「封貢」を許すという条件での講和の交渉を始めた。
於是、封貢之議起、中朝弥縫惟敬以成款局、事詳「朝鮮伝」。 ここにおいてホウコウの議おこる。チュウチョウはイケイにビホウせしめ、もってカンキョクをなさんとす。事は「朝鮮伝」につまびらかなり。
秀吉が死に、日本人たちは帰国して戦争は終わった。
久之、秀吉死。諸倭揚帆尽帰、朝鮮患亦平。 これを久しくして、秀吉死す。諸倭、帆をあげてことごとく帰る。朝鮮のうれい、また平らぐ。
中国と朝鮮の損害は甚大で、日本に対して最後まで勝算はなかった。
然自関白侵東国、前後七載、喪師数十万、糜餉数百万、中朝与朝鮮迄無勝算。至関白死、兵禍始休、諸倭亦皆退守島巣、東南稍有安枕之日矣。秀吉凡再伝而亡。 しかれども、関白の東国をおかせしより、前後シチサイ、師をうしなうこと数十万、かてをついやすこと数百万、チュウチョウと朝鮮とついに勝算無し。関白の死するに至りて、ヘイカはじめてやみ、諸倭もまたみなしりぞきてトウソウを守り、東南ようやく枕をやすんずる日あり。秀吉およそ再伝してほろぶ。
中国の庶民は、子供が騒ぐと「黙らないと日本人が来るよ」と脅すほどだった。
終明之世、通倭之禁甚厳。閭巷小民、至指倭相詈罵、甚以噤其小児女云。 シュウミンのよ、倭に通ずるの禁、はなはだ厳なり。リョコウのショウミン、倭を指してあいリバするにいたり、はなはだしきはもってそのショウジジョをキンずという。
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