戦馬超(せんばちょう)Zhan-ma-chao
これからご覧いただくのは、戦馬超、「馬超(ばちょう)と戦う」という芝居です。
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馬超が登場して歌います。
「われこそは、無敵の馬超
葭蔭関(かいんかん)のまえに、軍隊を集結させた
わたしは陣地のなかにすわり
偵察(ていさつ)に出た家来の報告をまっている」
馬超の二人の家来、馬岱(ばたい)と楊柏(ようはく)がやってきます。
馬超はふたりの様子がなんとなく変なので、たずねます。
実は、楊柏の方がは、馬超に無断で、勝手に劉備の軍隊と戦って負け、馬岱に命を救ってもらっていたのでした。
馬超は、家来の楊柏が自分のゆるしも無く勝手に戦っていたという事実を知り、怒ります。
馬超は勇敢な英雄ですが、怒りっぽくて頭が悪いのが玉にきずです。
馬超ははじめ楊柏の首をはねようとしますが、部下のとりなしを聞いて思い直し、四十回の棒たたきに減刑します。
棒たたきに減刑された楊柏は、馬超に礼をいいます。
馬超は、馬岱にたずねます。
「劉備の軍隊と戦ってみて、強さはどうだった」
馬岱は「劉備の軍隊のなかで、魏延(ぎえん)という武将には勝ちましたが、張飛(ちょうひ)には歯が立たちませんでした」と告白します。
馬超も、張飛が強いことは噂でかねがね知っていました。
馬超は、陣地の守りを固めるように、と、馬岱に命令します。
馬超は、敵をもとめて出陣します。
京劇は、舞台装置や大道具をあまり使いません。馬に乗るときも、舞台には馬のぬいぐるみは登場しません。そのかわり、俳優の服装や、俳優のしぐさによって、馬に乗っていることをあらわします。一見、俳優が歩いているように見えても、京劇の約束ごとでは馬にのっている、という場合がありますので、ご注意ください。
馬超は前線に到着します。
馬超は張飛に戦いを挑むため、家来たちに大声で張飛の名前を呼ばせます。
場面かわって、こちらは劉備の陣地です。
張飛は「これから馬超のやつをたたきのめしてやる」と、はりきっています。
劉備は張飛にむかって、自分は高いところから二人の戦いぶりを見せてもらう、と言います。
劉備も馬にのって戦場にむかいます。
馬超は、張飛をあれこれと挑発します。
いよいよ、馬超と張飛のたたかいです。
舞台のうえに馬のぬいぐるみは出てきませんが、京劇の約束ごとで、ふたりとも馬に乗っているという設定です。
京劇の戦闘場面では、俳優たちは激しい打楽器の音色にあわせて、立ち回りをします。
立ち回りの途中、ときどき打楽器の音がやみ、俳優が動きをとめ、「みえ」を切るときがあります。
京劇の俳優が「みえ」を切るときは、中国の観客は「好(ハオ)!」と声をかけます。「ハオ」とは中国語で「良い」という意味です。
舞台のうえで俳優が「みえ」を切ったとき、日本の観客のみなさんも、拍手と同時に大きな声で「ハオ」と言ってあげてください。舞台の俳優も、心のなかで嬉しく思うことでしょう。
張飛は笑います。
「おーい、馬超。人はおまえを戦争の神というが、実物を見ると、ただの人間じゃないか」
劉備は、高いところから二人の戦いを見て、二人ともすごい腕前であると感心します。
張飛は、「馬超を生け捕りにするまでは、決して戦いをやめない」と歌います。
二人の戦いぶりは、五分と五分。しだいに太陽は西にかたむき、あたりは暗くなってきます。
あたりは夕闇につつまれてきます。それでも、二人の戦いは終わりません。
馬超と張飛は、それぞれ自分の軍隊に、松明(たいまつ)を持ってこさせました。
劉備は、二人がずっと五分と五分の戦いをしているのを見て、その戦いぶりに感心して歌います。
「敵ながら、あの馬超という男はたいした豪傑。なんとか私の仲間になってもらいたい」
(湖広会館で一団が上演する場合は、ここはカット)劉備は言います。
「馬超どの。その昔、わたくし劉備は、あなたのお父上と力をあわせ、逆賊・曹操を討つクーデターに加わったことがあります」
馬超は、自分の父親の名前を出されたので、とまどいます。
劉備はかさねて言います。
「ふたりとも疲れを知らぬ戦いぶり。さすがです。しかし、馬のほうは相当疲れている様子。とりあえず、馬を休ませ、戦いの続きは明日にしては?」
馬超はとまどいますが、結局、劉備の言葉を信用し、とりあえず今夜は陣地に帰ることにします。
(完)