小商河(しょうしょうが)Xiao-shang-he
これからご覧いただく京劇は、小商河、という川を戦場とした戦いのお芝居です。
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北の「金」の大軍の総司令官が登場します。
「余は、中国の北半分を征服した大帝国・金の四番目の王子、兀朮(こつじゅつ)である。これより、満州民族による世界統一という大理想実現のため、わが帝国の総力を結集し、南部中国に攻め込まんとするものである」
総指令官の兀朮は、部下の将軍たちに、陣地の守りを固めること、南中国の漢民族の軍隊に出会ったら必ず全滅させること、などを命令します。
兀朮は、あたりに大雪が降り積もっているのを見て、作戦をたてます。
敵軍の大将は、楊再興(よう・さいこう)という槍(やり)の名手。近づいて戦うと、手痛い反撃にあう可能性があります。そこで、楊再興の鋭い槍を封じこめるため、小商河という川の狭い戦場に誘いこみ、雪で身動きが取れないところを、遠くから弓矢で射殺する、という作戦を、兀朮は立てたのでした。
宋の軍隊の将軍が登場します。
この将軍の名前を、楊再興と言います。楊再興は歌います。
「忠勇無双のわが軍の、雄々しきときの声は天地にひびき渡る
わが槍の腕前は、一万の軍隊に匹敵する。
単騎、馬を駆って、一本の槍を振り回せば、
どんな敵も蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
いにしえの名将・項羽や班超にも恥じない戦いをしよう」
中国の歴史上、満州人は二度、中国を征服して大きな国を立てました。一回目は、中国の北半分を領土とした「金」。二回目は、中国最後の王朝となった「清」(しん)です。
京劇が生まれたのはいまから二百年前ですが、そのときの中国は満州人の皇帝が支配する「清」王朝の時代でした。京劇の演目に、満州人と漢民族との戦いを描いた芝居が少なくない理由の一つは、そうした時代背景にあります。
激しい戦闘の末、楊再興は、壮烈な戦死を遂げました。
このあと金の軍隊は、岳飛(がく・ひ)将軍ひきいる宋の主力部隊と、激しい戦闘を交えることになります。
(完)