探皇陵(たんこうりょう)Tan-huang-ling
これからご覧いただくのは、探皇陵、亡くなった皇帝のお墓にお墓参りする、という芝居です。
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若い武将が馬に乗って登場します。
「(詩)人は千里の道をゆき
馬は万重(ばんちょう)の山を越える
(せりふ)わたしは、趙飛(ちょうひ)と申す者。父上のご命令により、みなの者をひきつれて、これから亡き先帝のお墓を守りに行きます。もはや夜更け、馬に鞭をあてて、先を急ぎまする」
正義の心を持つ大臣、楊波が登場します。
「(歌)国のため、心は悩み、わたしの顔かたちは変わってしまった
(せりふ)天よ、ああ天よ。わたくし楊波は、わが大明(だいみん)帝国の前途をうれい、七日七晩(なのかななばん)悩みつづけたため、髭も髪の毛もすっかり白くなってしまいました」
楊波は歌います。
「そのむかし、伍子胥(ごししょ)が昭関(しょうかん)の関所で悩んだように
わたしも夜、眠れぬまま、中秋(ちゅうしゅう)の良い季節を送る
趙飛がみんなを連れて帰ってくるはずだが、まだこない」
趙飛にひきつれられて、楊波の息子たちが登場します。
楊波は息子たちをつれて、亡くなった皇帝の墓を守りに行きます。
場正義の心を持つ大臣・徐延昭が家来を連れて登場します。
徐延昭は、顔がまるでサルのように真っ赤ですね。このような化粧を、くまどりと言います。京劇の約束ごとでは、赤いお化粧のくまどりをした人物は、熱く燃える血の通った正義の熱血漢であることを表わします。
また登場人物たちは、手にあかりを持っています。これは、いまが夜の闇の中であることを表わしています。
徐延昭は、朗々とした男性的な声で歌います。
「宵(よい)のくち、初更(しょこう)のときを告げる鐘の音色を耳にして
開山府(かいざんふ)に、それがし定国侯(ていこくこう)徐延昭がやって来た
先代の皇帝陛下は亡くなられ、お世継ぎはまだ幼くていらっしゃる
憎むべき国賊・李良(りりょう)めは、臣下(しんか)のぶんざいで皇帝の位を狙っている
家来たちよ、ちょうちんを掲げて、皇帝陛下の陵墓(りょうぼ)への道を照らしてくれ」
徐延昭は続けて歌います。
「皇帝陛下の陵墓に着いて、涙が流れて止まらない
臣(しん)・徐延昭は三度(みたび)叩頭(こうとう)の礼をして、慎んで陛下に申し上げます
亡き先帝陛下の御魂(みたま)に慎んで申し上げます
憎むべき国賊・李良(りりょう)めは、自分の娘である皇后陛下を抱き込んで
自分に明王朝を与えるよう、しむけております
願わくば、亡き先帝陛下の御加護(ごかご)がありますように
楊家(ようけ)の忠義の武将たちが早く戻って来られるよう、お守りください」
徐延昭は続けて歌います。
「むこうから、人馬(じんば)の声が聞こえてくる
おそらくは、李良めが皇帝のしるしを奪いに来たのか
家来たちよ、ちょうちんの火を消して、ものかげにかくれよ
国のためなら、この身を犠牲にしても本望(ほんもう)というもの」
(「梅蘭芳団:15分」はここで終わり。「中心」版は以下まで続く)
楊波が、若者たちを引き連れて登場します。
「(歌)みな、わたしのあとに着いてきたな
徐延昭さまのお姿が見える、最初から訳を申し上げよう
(せりふ)ここで、おいでをお待ちしておりました」
徐延昭は、楊波が李良の側に寝返って、皇帝の墓を荒しに来たのではないかと疑います。
楊波は、自分が皇帝の墓を守るために若者たちを連れてきたのだと説明します。
徐延昭は感激して、若者たちを二列に並ばせて、一人ひとりの顔を見ます。
徐延昭は楊波にむかって歌います。
「心服(しんぷく)しました、本当に見直しました
そのお年で、よくぞこれだけの若者たちを組織なさいましたな
さあ、若い衆は、ちょっとそちらにのいてくれ
これから、後宮(こうきゅう)におもむき、李艶妃(りえんひ)さまに会見いたそう」
徐延昭と楊波の二人は、亡き先代皇帝の皇后で、悪い大臣・李良の娘でもある李艶妃に会いに行き、意見を申し上げることにします。
(完)