1999.2
鬧天宮(とうてんきゅう)Nao-tian-gong

 これから見ていただくのは、鬧天宮、孫悟空が天の神さまの宮殿で大暴れする、という芝居です。
 孫悟空がまだ三蔵法師の弟子になるまえで、暴れんぼうだったころのこと。孫悟空は、天の神さまの宮殿にやってきて、不老長寿の桃を勝手に食べたり、不老不死の薬を盗んで食べてしまいました。天の神さまは怒って、孫悟空を捕まえようとします。しかし孫悟空は、天の神さまの軍隊をやぶって、悠々と地上に帰ってゆきます。
 それでは、孫悟空の自由自在の活躍ぶりを、どうぞこの京劇の舞台で御堪能ください。

(中心:20分)

 ここは、天の神さまの宮殿のなかです。
 ふたりの天使が、不老長寿の大切な桃の実を、守っています。
 孫悟空が登場します。まだ三蔵法師の弟子になるまえなので、頭にワッカをはめられていません。
「(歌)神々の池を見ると
  めでたい雲がたちこめている
  緑の松柏(しょうはく)の木々が枝をさしかわしている」

 孫悟空は、自分の毛をぬいて「ねむり虫」に変え、桃を見守っているふたりの天使を眠らせてしまいます。
 孫悟空は「ごきげんだぜ」と歌いながら、桃をむさぼり食べます。
 孫悟空は、食べ切れないぶんを、地上で待っている家来たちに持ち帰ってやるため、袋につめ、その場を立ち去ります。

 孫悟空は、老子(ろうし)の館(やかた)を通りかかります。
 老子は、古代中国の哲学者でしたが、京劇では偉大な仙人として登場します。
 老子の姿は見えません。どうやら、天の神さまが主催するパーティーに行って、留守のようです。
 孫悟空は、老子の館に置いてあった不老不死の薬を見つけ、まるでピーナッツのようにポリポリと食べつくしてしまいます。
 孫悟空は、その場を立ち去ります。

 天の神さまの命令を受けて、神々の軍隊が孫悟空を追いかけます。
 孫悟空は、神の軍隊と戦います。

 京劇の戦闘場面では、俳優たちは激しい打楽器の音色にあわせて、立ち回りをします。
 立ち回りの途中、ときどき打楽器の音がやみ、俳優が動きをとめ、「みえ」を切るときがあります。
 日本の歌舞伎で俳優が「みえ」を切るときは、観客はその役者の屋号などを呼びます。京劇の俳優が「みえ」を切るときは、中国の観客は「好(ハオ)!」と声をかけます。「ハオ」とは中国語で「良い」という意味です。
 舞台のうえで俳優が「みえ」を切ったとき、日本の観客のみなさんも、拍手と同時に大きな声で「ハオ」と言ってあげてください。舞台の俳優も、心のなかで嬉しく思うことでしょう。

 孫悟空は戦いに勝ち、得意の如意棒(にょいぼう)をふりまわして、悠々と地上にひきあげてゆきます。

(完)


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