1999.2
羅成叫関(らせいきょうかん)Luo-cheng-jiao-guan

 これからご覧いただくのは、羅成叫関、羅成が城の門の前で叫ぶ、というお芝居です。
 登場人物はたった二人、というシンプルな芝居です。
 今から千七百年まえの唐(とう)の時代のはじめ。天下はまだ、戦乱の世でありました。
 主人公の羅成は、勇敢な武将でした。羅成がつかえる主君は、あの李世民(りせいみん)でした。 李世民は、のち唐の太宗(たいそう)皇帝となり、名君として名を残した人物です。
 羅成はこのような立派な主人に仕えていましたが、これが彼の悲劇のはじまりでした。
 羅成の主人、李世民は、あまりにも有能であったため、自分の実の父親や兄弟たちからさえ嫉妬され、憎まれていました。李世民の親兄弟は、李世民の力をそぐため、悪だくみを考えました。李世民の忠実な家来である羅成をいじめて、合法的に殺してしまおうと考えたのです。
 何も知らない羅成は、李世民の親兄弟たちから、滅茶苦茶な作戦を命令されました。それでも羅成は、一生懸命敵と戦い、つかれ果てて城にもどってきました。すると、なんと、味方の城は城門を閉ざし、羅成を中に入れてくれません。羅成は、自分が何も悪いことをしていないのに、主人の家族たちの権力あらそいに巻き込まれてしまったことを悟ります。そして羅成は、自分の死を覚悟して、つかれ切った体をふたたび戦場に運んだのでした。
 西洋のオペラでいうとテノールにあたる羅成の甲高い歌声と、チャルメラの力強い伴奏が、芝居全体の緊張感を高めています。
 それでは、羅成叫関、どうぞお楽しみください。

(その1:一団=簡略版:時間16-18分)

 羅成が馬にのって、味方の城に帰ってきます。しかし城の門は固くとざされています。
 羅成は、自分が味方に裏切られたことを悟ります。
 羅成は自分の無念さを、遠くにいる主君・李世民につたえるため、手紙を書くことにします。しかし、筆も墨も紙もありません。
 羅成は自分の服を刀できって、手紙の便箋のかわりにします。そして自分の指を歯で噛み切って、その血を墨のかわりにして、血の手紙をしたためます。

 羅成は、自分が味方の裏切りにあって無念の最後を遂げることになったこと、この城を守るため都から援軍を送る必要があること、そして、生死をともにしてきた仲間たちへの別れの挨拶を、血の手紙に書きます。

 羅成は、血で書いた手紙を、自分の本当の主人である李世民に渡すよう、城門のうえの息子に頼みます。

 羅成は城門のうえの息子と、今生(こんじょう)の別れをかわします。

 羅成は馬に鞭をあて、死に場所をもとめて、敵のいる戦場へと戻ってゆくのでした。

(完)


(その2)

 羅成の養子、羅春が登場します。
 羅春は、城の門を固くまもってあけないよう、李世民の弟から厳しく命令されていました。李世民の弟は、有能な兄に嫉妬し、兄の腹心の部下を合法的に殺してしまおうと考え、こんな変な命令を出したのです。

 羅成が、馬にのってやってきます。
 羅成は戦場から帰ってきて、とても疲れています。

 遠くの戦場で撤収(てっしゅう)の太鼓が鳴り響くのが、羅成の耳にはいります。

 羅成が今まで戦っていた敵が、部下の兵隊を休ませているのです。
 羅成は、敵の方がよほど部下のことを大事に思っている、と、味方であるはずの李世民の弟をうらみます。

 羅成は、やっと味方の城の門まで帰ってきました。

 なぜか、城の門は固くとざされています。城門のうえにいるのは、羅成の養子、羅春です。

 羅春は城門の上から父親にむかって言います。
「おとうさん、この城の門をあけてはならぬ、誰も中には入れてはならぬ、という命令が出ています」

 羅成は、自分が味方から裏切られたことを知ります。
 不幸中のさいわい、いま城の門の上にいるのは養子の羅春だけです。

 羅成は息子に頼みます。
「私はこれから、李世民さまに、血書(けっしょ)を認(したた)める。私の血で書いた手紙を、都にいる李世民さまに渡してくれ」

 城のうえの羅春は、手紙を運ぶことを約束します。

 羅成は自分の服を刀できって、手紙の便箋のかわりにします。そして自分の指を歯で噛み切って、その血を墨のかわりにして、血の手紙をしたためます。

 羅成は、自分が味方の裏切りにあって無念の最後を遂げることになったこと、この城を守るため都から援軍を送る必要があること、そして、生死をともにしてきた仲間たちへの別れの挨拶を、血の手紙に書きます。

 羅春は、いっそ親子で反乱を起こして、無能な主人(李世民の弟)を殺してしまおう、と父親に言います。
 羅成は、たとえ悪くて無能な主人でも、主人は主人、反乱してはならない、と言います。
 そしてこの血の手紙を、早く、自分の本当の主人である李世民に渡すよう、息子に頼みます。

 羅成は城の門のうえの息子と、今生(こんじょう)の別れをかわします。

 羅成は馬に鞭をあて、死に場所をもとめて、敵のいる戦場へと戻ってゆくのでした。

(完)


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