1999.2
活捉三郎(かっそくさぶろう)Huo-zhuo-san-lang

 これからご覧いただくのは、活捉三郎、女性の幽霊がサブロウを捕まえ地獄へ引きずり込む、というお芝居です。
 登場人物は二人だけです。閻惜[女交](えん・しゃくこう)という名前の女性の幽霊と、彼女の生前の浮気相手だった張三郎(ちょう・さぶろう)という男性です。
 『水滸伝』(すいこでん)の初めの方の物語。貧しい閻惜[女交]は、まだ役人だったころの宋江(そう・こう)に拾われて愛人となります。彼女は、宋江の同僚である張三郎と不倫の関係になり、宋江に殺されてしまいます。彼女は死んで幽霊となり、夜中、生前の浮気相手であった張三郎のもとを訪れ、恨みの言葉を述べます。
 それでは、活捉三郎、どうぞごゆっくりお楽しみください。

(梅蘭芳団: 25分)

 幽霊となった閻惜[女交]があらわれ、うらめしげに歌をうたいます。

 幽霊は、張三郎の家の門のところにやって来ます。

 男は、こんな夜更けに訪ねてくるなんて、一体誰だろう、と不審に思い、相手の名前を訪ねます。
 幽霊はただ「わたしよ、もうわたしの声も忘れてしまったの?」と恨めしそうに言います。

 男は、まさか相手が幽霊だとは思いませんでした。
 男は「わたし、わたし、って、ぼくは女性のつきあいが広いから誰だかわからないよ」と言います。

 男は「君は誰誰だろう」と次々に思いつく名前を歌で言ってみます。しかし、みんなはずれます。

 男は、相手が幽霊であることに、まだ気がつきません。

 男は扉をあけて、女を中に入れます。

 男は女の顔を見てびっくりします。死んだはずの閻惜[女交]が、夜中にあらわれたからです。
 男は、これはきっと職場の同僚たちの手のこんだいたずらに違いない、と思います。
 しかし、目のまえの幽霊は本物でした。

 男はふるえおののいて言います。
「君を手にかけたのは、ぼくじゃない。ぼくのところに化けて出てくるなんて、おかどちがいだ。明日、お寺で手厚い供養をしてもらうから、迷わず成仏しておくれ」

 幽霊は男にたずねます。
「幽霊になってからの私の顔と、生きていたときの顔と、どっちが奇麗?」
 男は、今のほうが奇麗だよ、と答えます。

 幽霊は「死んだあともずっとあなたのことが忘れられないの」という内容の歌を、綿々と歌い続けます。

 最後に女の幽霊は、男を生きたまま「あの世」に引きずってゆきます。

(完)


(その2)

 閻惜[女交]の幽霊が登場して、歌います。
「寒い風が吹く冷たい月の夜は更けゆく
悔やんでも悔やみきれない、私は不倫の罪を犯した代償として
若い命を失い、幽霊となってさまよう身となってしまった
思い起こせば、生前の私は、父親に死なれてしまい
母ひとり娘ひとりの貧しい生活だったけれど
宋江さまに拾われて、ようやく楽な生活ができるようになりました。
悔やんでも悔やみきれない、私は宋江さまの同僚と不倫の関係になってしまった
宋江さまは怒り、私は刀で斬り殺された
私が殺されたのは不倫の代償として諦めましょう
しかし、諦めきれないのは、私を不倫にひきずりこんだ、あの張三郎という男
不倫の最中は、さんざん甘い言葉を吐き、永遠の愛を誓っておきながら
私が死んだらすぐに私を忘れ、新しい女に夢中になっている。
恨めしい気持ちでいっぱいの私は、
気が着いてみれば、幽霊となって、あの張三郎の家に来てしまいました」

 幽霊は、男の家の玄関の扉をたたきます。

 男は、こんな夜更けに訪ねてくるなんて、一体誰だろう、と不審に思い、相手の名前を訪ねます。
 幽霊はただ「わたしよ、もうわたしの声も忘れてしまったの?」と恨めしそうに言います。

 男は、まさか相手が幽霊だとは思いませんでした。
 男は「わたし、わたし、って、ぼくは女性のつきあいが広いから誰だかわからないよ」と言います。

 男は「君は誰誰だろう」と次々に思いつく名前を言ってみます。しかし、みんなはずれます。

 男は、相手が幽霊であることに、まだ気がつきません。

 男は扉をあけて、女を中に入れます。

 男は女の顔を見てびっくりします。これはきっと職場の同僚たちの手のこんだいたずらに違いない、と思います。

 男はふるえおののいて言います。
「君を手にかけたのは、ぼくじゃない。ぼくのところに化けて出てくるなんて、おかどちがいだ。明日、お寺で手厚い供養をしてもらうから、迷わず成仏しておくれ」

 幽霊は男にたずねます。
「幽霊になってからの私の顔と、生きていたときの顔と、どっちが奇麗?」
 男は、今のほうが奇麗だよ、と答えます。

 幽霊は歌います。
「おぼえてるでしょう
私がまだ生きていたころ
あなたと過ごした甘い日々のこと
ふたりで手をとりあい、目と目で心を通じ合い
ハスの花のとばりの小部屋で、甘い言葉をささやきあった
わたしたちは、永遠の愛を誓いました
私は死にましたが、誰も恨んではいません
ただ恨めしいのは、あなたとの愛情が途中で断ち切れそうなこと
わたしが死んだとて、わたしを忘れては嫌ですよ
さあ、ふたり一緒に、三途(さんず)の川を渡りましょう
あの世で甘い夢の続きをみましょう」

 女の幽霊は、男を生きたまま「あの世」に引きずってゆくのでした。

(完)


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