虹橋贈珠(こうきょうぞうしゅ)Hong-qiao-zeng-zhu
これからご覧いただくのは、虹橋贈珠、虹(にじ)の橋で女神から魔法の宝石をプレゼントされる、というお芝居です。
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水の女神・凌波仙子が、恋心を歌います。
「(歌)夜風はすずしく、月のひかりは清らかで
明るい月に照らされて、身も軽やかにおどります
水のなかの冷たい貝殻の宮殿を抜け出して
風光明媚(ふうこうめいび)な虹の橋にやってきました
あら、まあまあ、絵にも描けない美しさ
素晴しい恋人に、声をかけてみましょう
みどりの小枝(こえだ)で静かにねむる小鳥さんの
目をさまさせて、夢をやぶらぬよう
そっと静かに」
人間の若者・白泳が、召使(めしつかい)の少年を連れて歩いています。
白泳は歌います。
「(歌)突然、笛や太鼓の音色が聞こえて
川の中から美しい女神さまがあらわれた」
凌波仙子の家来である仙女(せんにょ)がふたり、白泳に声をかけます。
「あなたさまは、泗州城(ししゅうじょう)にお住まいの、白さまですね。わたくしどもの主人は、あなたさまの学問と才能に惚れこんで、ずっとお会いしたいと思っております。今日、こちらまでいらしたのですから、ぜひ、水のなかの宮殿にもおいでくださいませ」
白泳は突然の申し出にとまどいますが、結局、ふたりの仙女の案内で、水のなかの宮殿に行くことにします。
白泳は、水の女神・凌波仙子の宮殿に着きます。
凌波仙子は、おおよろこびで青年を迎えます。
白泳も、水の女神の輝くような美貌に一目ぼれして、歌います。
「おお!
彼女の天性の美貌は絵にも描けない美しさ
おお、彼女は・・・
彼女はまるで、雪のなかに咲いた梅の花
思いがけず、素晴しい人と出会うことができた
彼女が、手のとどかぬ、鏡の中の花でなければよいけれど」
仙女たちは白泳にむかい「ご主人さまは、あなたさまの才能に、ずっと惚れ込んでおられました。ぜひ、ご結婚なさいまし」と言います。
白泳は「わたくしごときには、もったいないお話しでございます」と結婚を承知します。
仙女たちは凌波仙子に向かい「おめでとうございます」と言います。
凌波仙子は歌います。
「わたしたちの心と心は、ユニコーンの角のようにチクリと通じあい
貝殻の宮殿で、比翼連理(ひよくれんり)の良縁(りょうえん)を結びました」
凌波仙子は歌います。
「あなたに、魔法の宝石をさしあげます
この宝石の永遠の輝きのように、わたしたちの愛も変わりません」
凌波仙子は「白泳さま。こまったときは、この宝石の魔法の力があなたをまもってくれるでしょう」と言い、宝石を渡します。
凌波仙子の宮殿では、結婚の祝いが盛大に行われることになりました。
場面かわって、こちらは神々が住む天国の世界。
神と人間の恋愛は、天のおきてに違反する大きな罪です。神々はとても怒りました。
二郎神(じろうしん)が、神々の軍隊をひきいて登場します。二郎神は、むかし孫悟空とたたかって一度は勝ったことがあるほどの強い神様です。
「ふとどきな凌波仙子め。神の身分を忘れ人間と恋愛し、泗州城の長官・白太守(はくたいしゅ)の息子・白泳とひそかに結婚の約束をかわし、天の掟をやぶった。いまわれらは、天帝(てんてい)の勅命(ちょくめい)を奉じて、凌波仙子を逮捕・連行する。みなのもの、ぬかるでないぞ」
神々の軍隊は歌います。
「おお
天の神の御命令にしたがって、空をかけおり
泗州城の川に殺到して、凌波仙子のやつを捕まえる」
凌波仙子は、天の神々の軍隊を迎かえ撃つよう、仙女たちに命令します。
水のなかの生き物たちは、凌波仙子の宮殿を守るため、天の神々の軍隊と戦います。
京劇の戦闘場面では、俳優たちは激しい打楽器の音色にあわせて、立ち回りをします。
立ち回りの途中、ときどき打楽器の音がやみ、俳優が動きをとめ、「みえ」を切るときがあります。
京劇の俳優が「みえ」を切るときは、中国の観客は「好(ハオ)!」と声をかけます。「ハオ」とは中国語で「良い」という意味です。
舞台のうえで俳優が「みえ」を切ったとき、日本の観客のみなさんも、拍手と同時に大きな声で「ハオ」と言ってあげてください。舞台の俳優も、心のなかで嬉しく思うことでしょう。
(完)