1999.2
虎牢関(ころうかん)Hu-lao-guan

 これから見ていただくのは、虎牢関、という関所で三国志(さんごくし)の英雄が戦うという芝居です。
 登場人物は、みなさまよくご存じの三国志の英雄たち、劉備(りゅうび)・関羽(かんう)・張飛(ちょうひ)の三兄弟と、呂布(りょふ)です。
 三国志のはじめの方の物語。董卓(とうたく)という悪い権力者を打倒するため、地方の豪族たちは連合軍を結成し、都に攻めのぼろうとしていました。その連合軍のまえに立ちふさがったのは、董卓の懐刀(ふところがたな)・呂布という武将でした。連合軍は、呂布の大軍と虎牢関で戦いますが、呂布に圧倒されます。そのとき連合軍の中から、劉備・関羽・張飛の三人が出てきて、呂布と戦ってみごとに勝ち、周囲をあっと言わせました。
 それでは、三国志の英雄たちの戦いを、どうぞこの京劇の舞台で御堪能ください。

(青年団:30分)

 連合軍の武将・公孫[王賛](こうそん・さん)が登場します。
「わたしの名は公孫[王賛]。いまわが漢王朝の中央政府は、董卓に乗っ取られ、皇帝も臣民も董卓の圧政に苦しんでいる。いまわれら連合軍は曹操(そうそう)どのの指揮のもと、国賊(こくぞく)・董卓を打倒するために結集した。わたしはいま、曹操どのの命令を受け、劉備・関羽・張飛の桃園(とうえん)の三兄弟を連れて、攻撃部隊の先鋒(せんぽう)をつとめることになり、こうして参った」

 場面はかわって、こちらは敵の陣地です。
 董卓の懐刀(ふところがたな)、呂布が登場します。
「(詩)あたまに黄金のかんむりをかぶり
  体は凛々(りり)しい鎧(よろい)で身を固める
  一日に千里(せんり)をはしる赤兎馬(せきとば)にまたがり
  命令をうけて虎牢関を守る
 それがしは呂布と申す。董卓さまの命令を受け、天下の要衝(ようしょう)・虎牢関を守っておる。情報によれば、敵のなかには劉備・関羽・張飛の桃園三兄弟もおるとのこと。斥候兵(せっこうへい)を出して偵察(ていさつ)に行かせたが、いまだ戻らぬ」

 偵察に出ていた兵隊が帰ってきて、呂布に「劉備たちが虎牢関に攻めてきました」と報告します。
 呂布は兵隊に再び偵察するよう命令したあと、言います。
「思ったとおり、劉備たち桃園三兄弟め、虎牢関に攻めてきよった。やつらの勝手にはさせん。みなのもの、出陣じゃ」

 呂布と、劉備・関羽・張飛の桃園三兄弟は、馬にのって戦います。
 京劇では、馬のきぐるみは使わず、俳優の演技や手に持っている小道具によって馬に乗っていることを表わします。長いヨロイを着て、厚い底のくつをはき、手に長いヤリを持っているのは、馬に乗って戦う騎馬武者(きばむしゃ)であることを表わしています。

 呂布は頭にかぶった冠をヤリではじき落とされ、逃げ帰ります。
 こうして、劉備・関羽・張飛の桃園三兄弟の名前は、天下にとどろいたのでした。

(完)


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