1999.2
扈家荘(こかそう)Hu-jia-zhuang

 これからご覧いただくのは、扈家荘、「扈(こ)一族の村」というお芝居です。
 このお芝居は、中国の有名な長編小説『水滸伝』(すいこでん)の一節を京劇の舞台にうつしかえたものです。
 梁山泊(りょうざんぱく)の豪傑たちが、祝家荘を攻めたときのこと。戦場に、美しい女の騎馬武者が登場しました。彼女はさっそうと馬をかり、男まさりの腕前で長いやりをふるい、女だてらに、梁山泊の荒くれ男たちを蹴散らしてしまいました。
 この馬にまたがる強い美女が、この芝居の主人公で、名前を扈三娘(こ・さんじょう)と言います。
 梁山泊の豪傑たちは、さんざん扈三娘にてこずらされたあと、やっと彼女を生け捕りにすることに成功します。この戦いで捕虜となった扈三娘は、梁山泊の有力なメンバーとして迎えられ、梁山泊の一員として大活躍することになります。
 それでは、男まさりの女偉丈夫(おんないじょうふ)の胸のすくような立ち回りを、どうぞお楽しみください。

(梅蘭芳団:18分)

 この芝居の主人公、扈三娘が登場して歌います。
「よろいかぶとをきりりとしめて、おおとりの翼も風にはためく
 旗はまばゆくはためき、雲か霞のように戦場をおおう
 わたしは威風堂々と
 電光石火のはやわざで
 敵の陣地にとびこんでゆく
 敵が幾万いようとも、わたしはひるみません
 馬に無知をあて、さあ進みましょう」

 扈三娘はせりふで自己紹介します。
「わたくしは、人呼んで一丈青(いちじょうせい)扈三娘と申す者。さきほど、お花畑で花をつんで遊んでいたとき、悪い知らせがとびこんできました。梁山泊のヤクザども一千人あまりが、私の村に殴り込みをかけてきた、と。わたしは自分の村を守るため、女の着物をよろいに着替え、男どもを退治に行きます」

 扈三娘は、村の女たちを引き連れて、戦場にむかうことにします。

 扈三娘は、馬に乗ります。
 京劇は、舞台装置や大道具をあまり使いません。扈三娘は、馬にまたがる女騎馬武者、という設定ですが、舞台にぬいぐるみの馬は出てきません。馬にのっていることは、役者のしぐさ、服装などで表現します。

 扈三娘は歌いながら戦場に向かいます。


 場面は変わって、梁山泊の豪傑のひとり、王英が登場します。
「俺様の名は、王英。宋江(そう・こう)親分のご命令をうけ、俺様はこれから扈一族の村に行き、扈三娘を生け捕りにする。者ども、ぬかるなよ」

 扈三娘は戦う決意を歌いながら、「チビ足トラ」と向かい合います。

 扈三娘は「おまえみたいなチビは、私の相手にならぬ」と、からかいます。
 王英は扈三娘に言い返します。「チビをなめるなよ。サンショウは小粒でもピリリと辛い。おめえを俺の女房にしてやる」
 扈三娘は歌いながら戦います。

 京劇の戦闘場面では、俳優たちは激しい打楽器の音色にあわせて、立ち回りをします。
 立ち回りの途中、ときどき打楽器の音がやみ、俳優が動きをとめ、「みえ」を切るときがあります。
 日本の歌舞伎で俳優が「みえ」を切るときは、観客はその役者の屋号などを呼びます。京劇の俳優が「みえ」を切るときは、中国の観客は「好(ハオ)!」と声をかけます。「ハオ」とは中国語で「良い」という意味です。
 舞台のうえで俳優が「みえ」を切ったとき、日本の観客のみなさんも、拍手と同時に大きな声で「ハオ」と言ってあげてください。舞台の俳優も、心のなかで嬉しく思うことでしょう。

 扈三娘は、王英を生け捕りにするため、わざと逃げるふりをします。

 王英は、待ち構えていた女兵士たちによって、生け捕りにされます。

 王英をつかまえた扈三娘は、勢いにのって、敵の本陣に攻め込もうとします。彼女は「憎むべき敵を残らず退治してやろう」という内容の歌を歌います。

(完)


(その2 中心:30分)
 この芝居の主人公、扈三娘が登場して歌います。
「よろいかぶとをきりりとしめて、おおとりの翼も風にはためく
 旗はまばゆくはためき、雲か霞のように戦場をおおう
 わたしは威風堂々と
 電光石火のはやわざで
 敵の陣地にとびこんでゆく
 敵が幾万いようとも、わたしはひるみません
 馬に無知をあて、さあ進みましょう」

 扈三娘はせりふで自己紹介します。
「わたくしは、人呼んで一丈青(いちじょうせい)扈三娘と申す者。さきほど、お花畑で花をつんで遊んでいたとき、悪い知らせがとびこんできました。梁山泊のヤクザども一千人あまりが、私の村に殴り込みをかけてきた、と。わたしは自分の村を守るため、女の着物をよろいに着替え、男どもを退治に行きます」

 扈三娘は、村の女たちを引き連れて、戦場にむかうことにします。

 扈三娘は、馬に乗ります。
 京劇は、舞台装置や大道具をあまり使いません。扈三娘は、馬にまたがる女騎馬武者、という設定ですが、舞台にぬいぐるみの馬は出てきません。馬にのっていることは、役者のしぐさ、服装などで表現します。

 場面は変わって、梁山泊の豪傑のひとり、王英が登場します。
(湖広会館はこの部分をカット)
 王英は、せりふで自己紹介します。
「俺様の名は、王英。人呼んで、"チビ足トラ"の王英、と申す者。宋江(そう・こう)親分のご命令をうけ、俺様はこれから扈一族の村を探索にまいる。うわさでは、扈一族の村には、扈三娘という名前の女豪傑がいて、これがまた絶世の美女とか。ウヒヒヒヒ、つかまえて女房にしちゃおう。野郎ども、ぬかるなよ!」

 扈三娘は、王英と向かい合います。

 扈三娘は「おまえみたいなチビは、私の相手にならぬ」と、からかいます。
 王英は扈三娘に言い返します。「チビをなめるなよ。サンショウは小粒でもピリリと辛い。おめえを俺の女房にしてやる」

 京劇の戦闘場面では、俳優たちは激しい打楽器の音色にあわせて、立ち回りをします。
 立ち回りの途中、ときどき打楽器の音がやみ、俳優が動きをとめ、「みえ」を切るときがあります。
 京劇の俳優が「みえ」を切るときは、中国の観客は「好(ハオ)!」と声をかけます。「ハオ」とは中国語で「良い」という意味です。
 舞台のうえで俳優が「みえ」を切ったとき、日本の観客のみなさんも、拍手と同時に大きな声で「ハオ」と言ってあげてください。舞台の俳優も、心のなかで嬉しく思うことでしょう。

 扈三娘は、王英を生け捕りにするため、わざと逃げるふりをします。

 王英は、待ち構えていた女兵士たちによって、生け捕りにされます。

 王英をつかまえた扈三娘は、勢いにのって、敵の本陣に攻め込もうとします。
 扈三娘は「敵をみんなやっつけてやる」という内容の歌を、おどりながら歌います。

 (湖広会館はこの部分をカット)
 舞台のうえに、「黒旋風(こくせんぷう)の李逵(り・き)」が登場します。梁山泊の豪傑たちの中でも、一番あばれんぼうの男です。
 「黒旋風の李逵」は得意の斧を武器にして、扈三娘に挑戦します。
 扈三娘はみごとな槍さばきで、李逵を地面のうえに刺したおします。
 李逵は、女に負けてしまったくやしさを歌います。

 舞台のうえに「林冲(りんちゅう)」が登場します。梁山泊の豪傑たちの中で、一番スマートな美男子です。

 (湖広会館はこの部分をカット)
 林冲は歌で自己紹介します。
「わたしはもともと正義の男。しかし腐った政府の、腐った役人の陰謀にあい、梁山泊に逃げ込んだ。われこそは、戦いの天才、林冲なり。そこの女、馬をおりて鎧(よろい)をぬぎすてれば、命ばかりは助けてやるぞ」
 扈三娘は、歌で言い返します。
「この槍であなたの首はポロリと落ちる、死ぬのはそっちだ」と。

 扈三娘は林冲と戦います。

 梁山泊の豪傑たちは、扈三娘の武芸の腕前に惚れ込みます。
 扈三娘はこのあと、梁山泊の豪傑たちの仲間にくわわります。彼女は梁山泊の頭目のひとりとして、腐った政府の悪い役人たちを相手に、はなばなしく戦うことになります。

(完)


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