1999.2
改容戦父(かいようせんぷ)Gai-rong-zhan-fu

 これから見ていただくのは、>改容戦父、顔かたちを変えて父親と戦う、という芝居です。
 少女・万香友(ばん・こうゆう)は、父親から、悪い権力者の息子と結婚するよう命令されます。万香友は正義の心をもつ強い女性でしたので、結婚を拒否し、乳母(うば)と一緒に家を出て、山にたてこもります。
 山にこもった万香友はある日、若い学生と出会い、一目ぼれしますが、あいにく若い学生にはすでに結婚を約束した恋人がいました。その若い学生は、悪い権力者に恋人を奪われてしまいます。万香友は、自分が愛した若い学生のために、彼の婚約者である女性を助けだすことを決意します。
 凛々(りり)しさと気品をあわせもつ万香友の演技を、どうぞお楽しみください。

(青年団20分)

 万香友が、幕の中で歌います。
「わたくしは、結婚の罠から逃げ出してきました」
 万香友が登場して歌います。
「たとえお父さまの意にそむくことになろうとも、わたしは家を飛び出しました
 娘にも、夫を選ぶ権利はあります
 いかになんでも、韓栄(かんえい)のような悪党のドラ息子と、結婚はできません
 大空をはばたくフェニックスのように、わたしは家を飛び出して
 この山に立てこもり、自由な生活を謳歌(おうか)しております
 女性の仲間たちも山に集まり、武術(ぶじゅつ)の腕をみがいています
 わたしたちの女の城の平和を乱そうとする者は、相手が誰であれ、ひっとらえてやります」

 万香友は続けてせりふを言います。
「(詩)わたくしが身につけているのは
  宝石ではなく、刀です
  眉と頬にも薄化粧(うすげしょう)だけ
  贅沢(ぜいたく)なお嬢様の暮らしには、未練はありません
 わたくしは万香友と申します。わが父・万鴻飛(ばんこうひ)は、天下に名前をとどろかせたヤリの名手で、正義の心を持つ憂国(ゆうこく)の士(し)でありましたが、志(こころざし)を曲げ、悪い権力者である韓栄(かんえい)のところに身を寄せ、その顔色をうかがうようになりました。韓栄にはバカ息子がおります。韓栄は、そのバカ息子とわたしを結婚させようと、わが父に提案しました。父は縁組みに乗り気でしたが、わたくしは結婚を拒否したので、父とも対立するようになってしまいました。わたしは夜、乳母を連れてこっそり屋敷を抜け出し、この山のなかに立てこもり、自分の城をつくったのでございます。わたくしは、いつか必ず、あの悪辣(あくらつ)な韓栄おやこを始末して、国のため、民百姓(たみひゃくしょう)のために悪(あく)を退治しなければ、この胸のうちが晴れませぬ。
 そろそろ、時間になりました。わたくしは乳母を呼び、一緒に山をおりて、付近を見回ることにします」

 万香友は歌います。
「女英雄・万香友は
 自分を安くは売りません
 いつか韓栄たちをつかまえて
 正義の鉄槌(てっつい)をくだしましょう
 乳母を連れて山の入り口に行くと
 だれか慌ててやってくる人影が見えます」

 若い学生・何玉郎(かぎょくろう)が登場します。
 彼の声が高いのは、まだ変声期が完全に終わっていない若者であることを表わします。
「(歌)わたしの恨みは、言葉では言い尽くせない
 わたしは結婚相手の恋人を奪われてしまった
 わたしの名前は、何玉郎
 こうなったらもう、わたしの命なんかどうでもいい
 女城主(おんなじょうしゅ)さま、どうぞお怒りにならずに聞いてください
 わたしは、イトコの玉娘(ぎょくじょう)と結婚の約束をしていたのです」

 万香友は歌います。
「韓栄に対する怒りの炎があらたに燃えあがります
 昔の恨みと、新たな憤(いきどお)りで体が震えます
 何玉郎のイトコ玉娘とわたくしとは
 姉と妹も同然の親友です
 韓栄めは、わたしに魔の手を伸ばそうとしただけではなく
 何玉郎たちの結婚までこわしてしまいました
 親友とか知り合いであるとかをぬきにして
 たとえ、被害者が見知らぬ他人だったとしても、わたしは許せないでしょう
 わたしはこれから変装し、韓栄のやしきになぐりこみます
 そして彼女を救い出し、あなたたちを必ず再会させてあげます
 韓栄と息子は、わたしの刀のサビにしてやりましょう
 血沸(ちわ)き肉おどり、胸のうちは燃え上がる
 ふたつの仇(かたき)をこの一度でうちはらすのです」

 万香友は歌います。
「韓栄の命運も、今夜まで
 わたくしは今夜、刀をふるいます
 何玉郎と玉娘が、めでたく夫婦となれるように
 わたくしはこれから、泥棒のまねごとをします」

(完)


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