古城会(こじょうかい)Gu-cheng-hui
これからご覧いただくのは、古城会、「古い城で再会する」、というお芝居です。
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伝令の兵隊が登場し「曹操さまのところから逃げた関羽は、五つの関所を次々とやぶり、五人の将軍を斬り、劉備のもとをめざして矢のように帰ってゆく。はやく蔡陽(さいよう)将軍に報告しなければ」という内容のせりふを言い、走り去ります。
曹操の武将・蔡陽が登場します。
蔡陽は、曹操の命令を受けて地方に遠征に行く途中です。
さきほどの伝令の兵隊が走ってきて、蔡陽に報告します。
「関羽のやつが、関所を守る武将を次々と殺しながら、矢のような勢いで劉備のもとに帰ろうとしております。残念ながら、辛[王其](しんき)将軍も関羽に殺されました」
関羽に殺された辛[王其]は、蔡陽のおいでした。蔡陽は悲しみます。
蔡陽は、関羽に復讐するため、軍隊の行く先を変更し、関羽を追いかけることにします。
関羽が登場します。
『三国志』にもあるとおり、京劇の関羽も、立派なひげをたくわえ、赤い顔をしています。
関羽は馬に乗っています。京劇の約束ごとで、馬のぬいぐるみは舞台には出てきませんが、関羽を演ずる俳優の歩きかたの演技で、馬に乗っていることを表わしています。
関羽は、自己紹介の歌をうたいます。
「わが兄の二人の奥がたを守りつつ、五つの関所をやぶり六人の敵将を斬り、赤兎馬(せきとば)にうちまたがり、帰心(きしん)矢(や)のごとく帰りきたる」
関羽は、兄・劉備玄徳の二人の奥がたにむかって言います。
「天気が暑いので、しばらく松林で休んでまいりましょう」
二人の奥がたは、馬車に乗っている、という設定です。舞台上に車は出てきませんが、その代わり、「車」という字を書いた旗を俳優が手に持ちます。
目の前に、古城すなわち「古い城」という町が見えてきました。
関羽は手下の者に、兄・劉備がいたら、われわれの到着を事前に報告するよう命令します。
手下の者が行こうとすると、関羽が呼び戻します。
関羽は言います。
「兄・劉備ならば問題はないが、もしも弟・張飛があの城にいるとなると面倒だ。張飛は単純な男だから、私を疑うかもしれない、気をつけろ」と、手下に注意します。
場面は変わって、こちらは城の中です。
張飛が登場します。
張飛は、劉備・関羽に続く三番目の豪傑ですが、二人の兄貴ぶんにくらべると、性格はずっと粗暴で単純です。しかし、またそこが張飛の魅力でもあります。
関羽が派遣した家来が、張飛に面会します。
張飛はてっきり、関羽は自分たちを裏切って曹操側に寝返ったのだ、と、勘違いしています。
張飛は関羽のことをののしります。
「あの赤ら顔め。俺たち義兄弟のちぎりを踏みにじり、曹操にしっぽをふりやがった。ただでは済まさん」
関羽の部下は弁明して言います。
「わたしの主人である関羽さまは、劉備さまのふたりの奥がたを保護するため、一時的に曹操のもとにいただけです。心はずっと劉備さまのもとにありました。決して裏切り者ではありません」
張飛は怒って家来を槍で刺そうとします。
関羽の家来は、間一髪で、逃げ出しました。
関羽の家来は、帰ってきて報告します。
思ったとおり、張飛は関羽のことを疑っていました。
関羽は、今度は直接、自分で城門まで行き、城内の張飛と直談判(じかだんぱん)します。
張飛は怒っていいます。
「この赤ら顔め。曹操のほうへ寝返ったくせに、臆面(おくめん)もなく顔をだしやがって。殺してやる」
関羽は、自分が曹操のところにいたのは、劉備の二人の奥がたを保護するための方便にすぎなかったこと、自分が大変な苦労をしてここまで帰ってきたこと、などを張飛に訴えます。
関羽はとうとう、信じてもらえぬなら、いっそ自殺して身の潔白を証明しよう、はやく二人の奥がたを城の中へ入れよ、と言います。
張飛は、いったんは関羽の言葉を信じるかに見えました。
張飛は態度を変えて、関羽のことをののしります。
「この赤ら顔め、おまえの後ろから、曹操の手の者が追いかけてくるのが見える。やつらを呼んだのは、おまえだろう」
関羽のあとを追いかけてきたのは、曹操がわの武将・蔡陽です。
関羽は、ここまで帰ってくる途中、邪魔をした辛[王其]という武将を殺しました。辛[王其]は、蔡陽のおいにあたります。蔡陽は、おいのかたきを取りに関羽を追いかけてきたのです。
さすがの関羽も、苦しい道中の旅で疲れていました。
関羽は張飛に、城の中から少し援軍を出してほしい、今すぐあの蔡陽の首をとって、この身の潔白を証明しよう、と言います。
しかし張飛は、関羽を相手にしません。関羽は、敵に寝返ったのだ、と頭からきめつけています。
関羽は、敵の武将・蔡陽と向いあいます。
二人とも、互いに馬に乗っています。
蔡陽は関羽に言います。
「よくも俺のおいを殺したな、かたきをとってやる」
関羽は、蔡陽の一瞬のすきをついて首をはねます。
張飛は、やっと関羽の言葉を信じます。
関羽は城のなかに入ってゆきます。
(湖広会館での上演は、ここまで)
劉備は、関羽が帰ってきたことを聞いてよろこび、関羽を出迎えにゆきます。
張飛は関羽を疑ってしまったので、バツの悪い思いでいっぱいです。
張飛は劉備に、自分がバカでした、なんとか関羽の兄貴にとりなしてほしい、と頼みます。
劉備は、やはり張飛が自分で頭をさげるのが筋である、とさとします。
劉備の家来が、関羽を出迎え、着替えをさしだします。
空から、渡り鳥の鳴き声が聞こえてきます。
関羽が、ふたりの奥がたを守るため敵に身を投じた日も、同じ渡り鳥の鳴き声が聞こえました。今日、再会の日にまた同じ渡り鳥の鳴き声が聞こえたので、関羽は感無量です。
外から、サイヨウの敗残兵たちの声が聞こえます。
関羽は家来に命令します。
「サイヨウの敗残兵たちに伝えよ、故郷に帰りたいものには旅費を与える、わが軍に加わりたいものは参加を許す、と。」
関羽はいよいよ、劉備と再会します。
この瞬間を、関羽はどんなに待ち焦がれていたことでしょう。
劉備は、関羽の長年の苦労をねぎらいます。
一方、張飛のほうは、関羽に会わせる顔がありません。
張飛はソワソワしています。
関羽はわざと、皮肉をこめて、張飛にたずねます。
「おや、そちらにいるのは、どなたかな。もしや、かの有名な張飛将軍では」
張飛はひやあせを流しながら答えます。
「張飛将軍なんてタマじゃありません。張飛の野郎、と呼んでください」
張飛は、関羽のまえにひざまづいて、おわびをしています。
関羽は張飛に、自分のいままでのいきさつを説明します。
「われらは桃園で義兄弟のちぎりを結んで以来、生死をともにし、苦難を分かちあい、ともに宿敵と戦ってきた。しかし、曹操との戦いで、不運にも一時的な敗北を喫し、ふたりの奥がたが捕まってしまった。
わたしは、ふたりの奥がたを守るため、しかたなく一時的に曹操のところにとどまった。曹操は私の心をつかもうと、豪華な宴会や金銀財宝をおしまなかった。しかし私が毎日、夢みていたのは、わが兄との再会。そしてまた、わが弟との再会」
関羽は、話は終わった、それじゃあ張飛、達者でな、と言います。
劉備も関羽に、どうか張飛を許してやってくれ、と頼みます。
関羽は、張飛を許します。
三人は再会をよろこび、天下統一のための戦いを続けるのでした。
(完)