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朝日カルチャーセンター・千葉教室
平成二十五年(2013)10月25日(金) 旧暦九月二十一日 加藤 徹
 
   この道を行く人なしに秋の暮
 
 松尾芭蕉が五十一歳のとき、元禄七年九月二十三日(1694年11月10日)の窪田意専・服部土芳宛書簡の俳句。芭蕉はこの直後の十月十二日(11月28日)に死去した。
 
    秋日
耿?(8世紀)
返照入閭巷
憂来誰共語
古道少人行
秋風動禾黍
返照 閭巷に入る
憂へ来たりて誰と共にか語らむ
古道 人の行くこと少に
秋風 禾黍を動かす
 
【語注】返照・・・夕日の光。 閭巷・・・村里。 禾黍・・・イネとキビ。
シュウジツ  コウイ
                    ヘンショウ リョコウにイる 
                    ウレえキたりて タレとトモにかカタらん
                    コドウ ヒトのユくことマレに
                    シュウフウ カショをウゴかす
        f?n zhào rù l? xiàng   y?u lái shuí gòng y?
        g? dào sh?o rén xíng   qi? f?ng dòng hé sh?
 
二十四節気と七十二候
 【秋】(立秋→処暑→白露→秋分→寒露→)
 霜降(10月23日 旧暦九月十九日)
 【冬】
 立冬(11月7日  旧暦十月五日)
 小雪(11月22日 旧暦十月二十日)
 大雪(12月7日  旧暦十一月五日)
 冬至(12月22日 旧暦十一月二十日)
 小寒(1月5日   旧暦十二月五日)
 大寒(1月20日  旧暦十二月二十日)
霜始降
【初候】
山茶始開
虹蔵不見
閉塞成冬
乃東生
芹乃栄
款冬華
霎時施
【次候】
地始凍
朔風払葉
熊蟄穴
麋角解
水泉動
水沢腹堅
楓蔦黄
【末候】
金盞香
橘始黄
?魚群
雪下出麦
雉始?
鶏始乳
 
          ※次の「旧正月」は2014年1月31日(旧暦甲午年一月一日)
『礼記』月令第六より
 孟冬之月、日在尾、昏危中、旦七星中。其日壬癸、其帝??、其神玄冥、其蟲介、其音羽、律中応鍾、其数六、其味鹹、其臭朽、其祀行、祭先腎。水始氷、地始凍。雉入大水為蜃。虹蔵不見。
 
 孟冬の月、日は尾に在り、昏に危中し、旦に七星中す。其の日は壬癸、其の帝は??、其の神は玄冥、其の虫は介、其の音は羽、律は応鍾に中り、其の数は六、其の味は鹹、其の臭は朽、其の祀は行、祭るに腎を先にす。水始めて氷り、地始めて凍る。雉、大水に入りて蜃と為る。虹、蔵れて見えず。
 
ライキ、ガツリョウダイロクより。
 モウトウのツキ、ヒはビにアり、コンにキ、チュウし、アシタにシチセイ、チュウす。ソのヒはジンキ、ソのテイはセンギョク、ソのシンはゲンメイ、ソのムシはカイ、ソのオンはウ、リツはオウショウにアタり、ソのスウはロク、ソのアジはカン、ソのシュウはキュウ、ソのシはコウ、マツるにはジンをサキにす。ミズ、ハジめてコオり、チ、ハジめてコオる。キジ、タイスイにイりてシンとナる。ニジ、カクれてミえず。
 
【語注】孟冬・・・冬の初め 尾・危・七星・・・天文用語で星の「二十八宿」の名前。 壬癸・・・「みずのと」「みずのえ」。十干のうち五行の「水」にあたる 帝・・・主任的な神 神・・・副主任的な神 蟲・・・「むし」「動物」。本来は「虫」とは別の字。 介・・・「魚介類」の「介」。 羽・・・音楽用語で「ドレミファ」の「ラ」にあたる音。 応鍾・・・音楽用語で「十二律」の十二番目の音。 行・・・旅行 蜃・・・「蜃気楼」の「蜃」。ミズチないし巨大なハマグリ。
 
 
周興嗣(470?〜521)「千字文」より
 寒来暑往    寒さ来たれば暑さ往き
 秋収冬蔵    秋に収め冬に蔵す
                        シュウコウシ「センジモン」より。
  サムさキたれば アツさユき
  アキにオサめ フユにゾウす
カンライショオウ、     hán lái sh? w?ng
シュウシュウトウゾウ。  qi? sh?u d?ng cáng
藤原公任撰『和漢朗詠集』(1013年ごろ)
                               三五六 冬夜

 
一盞寒灯雲外夜
数盃温酎雪中春
一盞の寒灯は雲外の夜
数盃の温酎は雪の中の春
                                    フユのヨ
                     イッサンのカントウは ウンガイのヨ
                     スハイのウンチュウは ユキのウチのハル
y? zh?n hán d?ng yún wài yè
shù b?i w?n zhòu xu? zh?ng ch?n
【参考・白居易=白楽天の原詩】
 「和李中丞与李給事山居雪夜同宿小酌」 白居易(772〜846)
憲府触邪峨豸角、瑣?駁正犯竜鱗。那知近地斎居客、忽作深山同宿人。
一盞寒灯雲外夜、数盃温酎雪中春。林泉莫作多時計、諌猟登封憶旧臣。
 
 
                          『和漢朗詠集』三五八 貫之
おもひかね妹(いも)がりゆけば冬の夜の川風さむみ千(ち)(どり)なくなり
 
 
 
   冬夜読書 冬夜、書を読む
菅茶山(1748〜1827)
 雪擁山堂樹影深
 檐鈴不動夜沈沈
 閑収乱帙思疑義
 一穂青灯万古心
雪は山堂を擁して 樹影深し
檐鈴 動かず 夜沈沈
閑かに乱帙を收めて 疑義を思ふ
一穂の青灯 万古の心
 
              トウヤ ショをヨむ   カンサザン(カンチャザン)
                 ユキはサンドウをヨウして ジュエイ フカし
                 エンレイ ウゴかず ヨル、チンチン
                 シズかにランチツをオサめて ギギをオモう
                 イッスイのセイトウ バンコのココロ
【語注】檐鈴・・・軒下の鈴 帙・・・和本を入れる箱のようなカバー
 左遷至藍関示姪孫湘 左遷せられて藍関に至り姪孫湘に示す
                      韓愈(768〜824)







 
一封朝奏九重天
夕貶潮州路八千
欲為聖明除弊事
肯将衰朽惜残年
雲横秦嶺家何在
雪擁藍関馬不前
知汝遠来応有意
好収吾骨瘴江辺







 
一封 朝(あした)に奏す 九重(きゅうちょう)の天
夕べに潮州に貶
(へん)せらる 路(みち)八千
聖明の為に弊事を除かんと欲す
(あへ)て衰朽を将(もっ)て 残年を惜しまんや
雲は秦嶺に横たはりて 家 何
(いづ)くにか在る
雪は藍関を擁して 馬前
(すす)まず
知る 汝が遠く来る 応
(まさ)に意有るべし
(よ)し 吾が骨を収めよ 瘴江(しょぅこう)の辺(ほとり)
 
サセンせられてランカンにイタり、テツソン、ショウにシメす。カンユ。
イップウ アシタにソウす キュウチョウのテン/ユウべにチョウシュウにヘンせらる ミチ ハッセン/セイメイのタメに ヘイジをノゾかんとホッす/アエてスイキュウをモッて ザンネンをオしまんや/クモはシンレイにヨコたわりて イエ イズくにかアる/ユキはランカンをヨウして ウマ ススまず/シる ナンジがトオくキタる マサにイ アるべし/ヨし ワがホネをオサめよ ショウコウのホトリに
   【語注】左遷・・・韓愈は五十二歳のとき刑部侍郎から潮州刺使に左遷された。
       姪孫湘・・・韓愈の甥の子、韓湘。
 
『常山紀談』「稲葉一徹文学に依て死を免れし事」
稲葉一鉄(1515〜1589)
 稲葉伊予守(いよのかみ)一徹、織田信長に従ひけれども、信長、心解(とけ)ず。数(す)(き)(や)にて茶を賜はり、其の席にて刺殺すべしとの巧(たくみ)なり。一徹、数寄屋に入る時、相(しょう)(ばん)の三人、挨拶に「掛物の絵を読給へ」といふ。是(これ)は韓退之の詩にて「雲横秦嶺家何在、雪擁藍関馬不前」といふ句なり。一徹、少し学問ありて読けるに、相伴、其故を問ふ。一徹から/\子細を咄(はなし)しければ、信長、壁(かべ)(ごし)に是を聞き、つと走(はしり)(いで)て「一徹には荒勝負ばかりする勇士と思ひしに、今聞く処(ところ)、文学にも達せり。奇特の事感ずる余りに実を語るべし。今日のもてなしは茶の湯にあらず。其方(そのほう)を刺殺さんとせし巧みなり。相伴の三人、皆、懐剣を差(さし)たり。今日より永く我に従ひて謀を致されよ。ゆめ/\害心を止たり」と云はれければ、三人の相伴、懐より小(こ)(わき)(ざし)を取出す。一徹平伏して「死罪を御免下され候事忝(かたじけなく)候。私も内々、今日殺さるべきにて候はんと察し申候へば、詮(せん)(かた)なく是非一人相手を取可申(とりもうすべく)と存(ぞんじ)、用意仕(つかまつり)候」とて、是も懐剣を取出して、信長に見せ申しければ、信長いよ/\其の心がけを誉(ほめ)られけり。