HOME > 授業教材集 > このページ

漢文万華鏡 座右の銘の虚と実

最初の公開2011-12-8 最新の更新2011-12-17
朝日カルチャーセンター新宿 12月17日(土)13:00-15:00 担当講師 加藤徹
この講座の詳細・お問合せ連絡先等
目 次
[信長の「人間五十年」]  [信玄の「風林火山」]  [西郷の「敬天愛人」]

織田信長「人間五十年」
『信長公記』より、桶狭間の戦いの直前の場面。
此時このとき、信長 敦盛あつもりまいを遊ばし候。人間にんげん五十年 下天げてんの内をくらぶれば、夢幻ゆめまぼろしのごとくなり。一度ひとたび しょうを得てめっせぬ者のあるべきか、と候て、 ほらがいふけ、 具足ぐそくよこせと仰せられ、 御物具おんぶつぐ召され、たちながら御食みおしをまいり、 御甲おんかぶとめし候ひて卸出陣なさる。

正しい解釈 ○ 人間世界の五十年の歳月は、下天の世界の一昼夜にしか当たらないほど短いので、夢か幻のようである。
誤った解釈 × 人間の平均寿命は五十年である。

人間 ニンゲン(呉音) ジンカン(漢音)
  意味  (1)人の世  (2)人の世に住む者=人、人類
※(1)の意味のときはジンカン、(2)の意味のときはニンゲンという読み分けが確立したのは明治時代から
※以下の音源・楽譜は、私がYouTubeで、福岡県みやま市瀬高町の幸若舞保存会による上演の動画(下記の「ビデオ(1)」参照)を見ながらメモ的に作ったものです。あくまでメモです。(^^;;
幸若の節回し [
MIDIで聴く] [MP3で聴く]
信長,人間五十年,敦盛,幸若舞

ビデオ(1)「幸若舞−敦盛 (2010年版)」
福岡県みやま市瀬高町
55秒目から「人間五十年…」
ビデオ(2)「織田信長の敦盛」 ビデオ(3)「幸若舞−敦盛(福岡県瀬高町で復元された本流゛敦盛゛) 」
ビデオ(1)を正面から見たもの。2009.1.20大江天満神社。
【幸若・敦盛の詞章より】
……思へばこの世は常の住み家にあらず / 草葉に置く白露、水に宿る月よりなほあやし / 金谷に花を詠じ、栄花は先立つて / (※ビデオ(1)ここから)無常の風に誘はるる / 南楼の月を弄ぶ輩も 月に先立つて有為の雲にかくれり / 人間五十年、化天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり / 一度 生を享け、滅せぬもののあるべきか / これを菩提の種と 思ひ定めざらんは / 口惜しかりし次第ぞ……
大正大蔵経
世親(vasubandhu ヴァスバンドゥ)著、唐三藏法師玄奘訳
『阿毘達磨倶舍論』巻十一より
……頌曰
北洲定千年 西東半半減
此洲寿不定 後十初叵量
人間五十年 下天一昼夜
乗斯寿五百 上五倍倍増…
……頌に曰く
北洲は千年と定め、西と東は半半に減ず。
此の洲は寿 定まらず。後十初めて量り叵し。
人間の五十年は、下天の一昼夜なり
斯に乗れば寿は五百、上五は倍倍に増ゆ……
六道:天界、人間界、修羅界、畜生界、餓鬼界、地獄界
天界:下から欲界・色界・無色界
六欲天:下から順に、下天、忉利天、夜摩天、兜率天、楽変化天、他化自在天の六つ。
>
天の大分類天の
小分類
各天の名称閻浮提からの
高度
各天での寿命
( )内は人間界換算
各天での
1日の長さ
(人間界換算)
住人
欲界
(六欲天)
地居天下天
(四大王衆天)
4万由旬
(28万8千km)
500歳
(900万年)
50年四天王など
忉利天
(三十三天)
8万由旬
(57万6千km)
1,000歳
(3600万年)
100年帝釈天など
空居天夜摩天
(焔摩天、須夜摩天)
16万由旬
(115万2千km)
2,000歳
(1億4400万年)
200年閻魔など
兜率天
(覩史多天、兜率陀天)
32万由旬
(230万4千km)
4,000歳
(5億7600万年)
400年釈尊、弥勒菩薩など
楽変化天
(化楽天)
64万由旬
(460万8千km)
8,000歳
(23億400万年)
800年
他化自在天128万由旬
(921万6千km)
16,000歳
(92億1600万年)
1600年第六天魔王波旬など
1由旬=約7.2km。地球と月の平均距離は38万4千km。地球と火星の「大接近」時の距離は約5600万km。
参考:http://tobifudo.jp/newmon/betusekai/ten.html http://www.sougi.to/butuzo/syumisen.html


西郷隆盛の「敬天愛人」
 西郷隆盛(1828-1877)の遺訓として有名。西郷ゆかりの祈念碑や雑誌、組織、社是、座右銘としてよく使われる。
 揮毫の「敬天愛人」の書は10幅あるが、いずれも明治8年(1875)以後のもの。
 
敬愛大学の命名の由来、京セラ・稲盛和夫氏、社是、etc.
 一般には、「敬天愛人」は西郷が初めて作ったオリジナルの言葉だと思われているが、実は、西郷よりも前に「敬天愛人」という語はキリスト教がらみで存在していた。
 したがって「敬天愛人」の「天」や「愛」は、純粋に儒教的な天や愛ではなく、キリスト教的な意味での神や愛のニュアンスも含んでいる、という説もある。
敬天愛人
敬天愛人
「南洲翁遺訓」第24章

道は天地自然の物にして、人は之を行ふものなれば、天を敬するを目的とす。天は人も我も同一に愛し給ふゆゑ、我を愛する心を以て人を愛する也。
※上の写真の明治24年刊本では「敬する目的」(正しくは「敬するを目的」)、「ゆへ」(正しくは「ゆゑ」)等と作る。

参考 [青空文庫の「遺訓」]
書籍の画像の出典 [国会図書館・近代デジタルライブラリーの「南洲翁遺訓」(土居十郎編 広島 阪本武雄 明24年4月)]
略年表 西郷隆盛の「座右銘」←中村敬宇著『敬天愛人説』←清の康煕帝がイエズス会に与えた扁額「敬天愛人」
【余説】西郷隆盛は、日本の英雄ではなく、アジアの英雄だった。
梁啓超『戊戌政変記』譚嗣同伝より。譚嗣同(1865-1898)が梁啓超に語った言葉。
「不有行者、無以図将来。不有死者、無以酬聖主。今南海之生死未可卜、程嬰・杵臼、月照・西郷、吾与足下分任之。」
参考 [中国の高校の国語教材のサイト(中国語)]
若き日の毛沢東が「西郷隆盛の漢詩」(実は誤認)を改作した作品。
 孩児立志出郷関。 学不成名誓不還。 埋骨何須桑梓地、 人間無処不青山。
参考 [詞詩世界・碇豊長の詩詞「留呈父親」] [人民網・領袖人物資料庫「七绝·改西乡隆盛诗赠父亲(1909年)」]


武田信玄「風林火山」
「風林火陰山雷」の歌
漫画「テニスの王子様」の
真田弦一郎の奥義

[歌詞]
孫子の旗、孫子四如、風林火山
[楽天の頁]
【謎その1 旗の形はどうだった?】
 時代劇に出てくる「孫子の旗」「孫子四如の旗」の形は、後世の想像の産物?
 どんな旗だったのか、正方形か長方形か、諸説紛々。
 実戦では一度も使われなかった、という説すらある。
【謎その2 「風林火山」は昭和の新語!!】
 信玄は「風林火山」という語は、一度も使っていない。
 「風林火山」という語は、昭和の小説家・井上靖の創作だった!?
 cf.
国会図書館の蔵書目録で「風林火山」を検索すると…
【謎その3 本当は「風林火山陰雷」!?】
 「風林火山」は、正しくは「風林火山陰雷」もしくは「風林火陰山雷」と言うべき!?
 なぜ信玄は、孫子の「六如」のうち、わざと最後の「二如」を削ったのか?
 平成生まれの子供たちのあいだでは「風林火陰山雷」が常識!?(右のビデオ参照)
『孫子』軍争篇
故兵以詐立、以利動、以分合為変者也。
故其疾如風、其徐如林、侵掠如火、不動如山、難知如陰、動如雷霆。
掠郷分衆、廓地分利、懸権而動、先知迂直之計者勝、此軍争之法也。
故に兵は詐(さ)を以て立ち、利を以て動き、分合を以て変を為す者なり。
故に其の疾(はや)きこと風の如く、其の徐(しず)かなること林の如く、侵掠(しんりゃく) すること火の如く、動かざること山の如く、知り難きこと陰の如く、動くこと雷霆(らいてい)の如し。
郷きょうを掠(かす)むれば衆に分ち、地を廓(はか)れば利を分つ。
権を懸けて動き、先づ迂直の計を知る者は勝つ。此れ軍争の法なり。
※順番を少し変えて「故其疾如風、其徐如林、侵掠如火、難知如陰、不動如山、動如雷霆」とする本もある。

豆知識
HOME > 授業教材集 > このページ