[KATO Toru's HOME]>[授業教材集]>この頁
※このhtml版は「副」版です。ネット検索のための、「文字化け」や「レイアウト崩れ」を覚悟の簡易版です。
 弊サイトにupしてある「正」版(PDF、一太郎、Word、等)も御覧ください。

漢詩・漢文教材 朝日カルチャーセンター千葉

平成二十三年七月二十二日 加藤 徹

 

  破山寺後禅院   破山寺後の禅院   常建

清晨入古寺   清晨(せいしん) 古寺に入れば

初日照高林   初日 高林を照らす

曲径通幽処   曲径 幽処に通じ

禅房花木深   禅房 花木深し

山光悦鳥性   山光 鳥性を悦ばしめ

潭影空人心   潭影 人心を空しくす

万籟此倶寂   万籟(ばんらい) 此に倶に寂たり

惟聞鐘磬音   惟だ鐘磬(しょうけい)の音を聞くのみ

 

   参考 閑さや岩にしみ入る蝉の声 芭蕉 山形市の立石寺

 

  夏日題悟空上人院    夏日 悟空上人の院に題す  杜荀鶴

三伏閉門披一衲   三伏 門を閉ざして一衲(いちのう)()

兼無松竹蔭房廊   兼ねて松竹の房廊を(おお)う無し

安禅不必須山水   安禅は必ずしも山水を(もち)いず

滅却心頭火自涼   心頭を滅却すれば火も自ら涼し

 

参考 快川紹喜「心頭滅却すれば火もまた涼し」←織田信長

 

  憫農      農を(あわ)れむ  李紳

鋤禾日当午   (いね)を鋤いて 日 (ひる)に当たる

汗滴禾下土   汗 禾の下の土に(したた)

誰知盤中餐   誰か知らん 盤中の(さん)

粒粒皆辛苦   粒粒(りゅうりゅう) 皆辛苦なるを

 

 

  山泉煎茶有懐  山泉にて茶を()て懐い有り  白居易

坐酌泠泠水   坐して酌む 泠泠(れいれい)の水

看煎瑟瑟塵   看て煎る 瑟瑟(しつしつ)の塵

無由持一碗   一碗を持して

寄与愛茶人   茶を愛する人に寄せ与うるに(よし)無し
  望廬山瀑布  廬山(ろざん)瀑布(ばくふ)を望む  李白

日照香爐生紫烟   日は香炉を照らして 紫烟生ず

遙看瀑布挂長川   遥かに看る 瀑布の長川を挂くるを

飛流直下三千尺   飛流 直下 三千尺

疑是銀河落九天   疑うらくは是 銀河の九天より落るつかと

 

 

  飲湖上初晴後雨   湖上に飲み初め晴れるも後に雨ふる  蘇軾

水光瀲晴方好   水光 (れんえん)として晴れて(まさ)(よろ)

山色空濛雨亦奇   山色 空濛として雨も()た奇なり

欲把西湖比西子   西湖を()って西子と比せんと欲せば

淡粧濃抹総相宜   淡粧 濃抹 (すべ)て相い(よろ)

 

参考 象潟や雨に西施がねぶの花 芭蕉

 

  独坐敬亭山   独り敬亭山に坐す  李白

衆鳥高飛尽   衆鳥 高く飛んで尽き

孤雲独去間     孤雲 独り去ること(しずか)なり

相看両不厭   相い見て(ふたつ)ながら(いと)わざるは

只有敬亭山   只だ敬亭山有るのみ

 

 参考  山村暮鳥『雲』

  雲

丘の上で/としよりと/こどもと/うっとりと雲を/ながめている

  おなじく

おうい雲よ/ゆうゆうと/馬鹿にのんきそうじゃないか/どこまでゆくんだ/ずっと磐城平の方までゆくんか

  ある時

雲もまた自分のようだ/自分のように/すっかり途方にくれているのだ/あまりにあまりにひろすぎる/涯のない蒼空なので/おう老子よ/こんなときだ/にこにことして/ひょっこりとでてきませんか
     『日本三代実録』貞観十一年五月廿六日条    貞観十一年=西暦八六九年

 

廿六日癸未、陸奥国地大震動。

流光如昼隠映。頃之、

人民叫呼、伏不能起。

或屋仆圧死、

或地裂埋殪。

馬牛駭奔、或相昇踏。

城郭倉庫、門櫓墻壁、

頽落顛覆、不知其数。

海口哮吼、声似雷霆。

驚濤涌潮、泝漲長、

忽至城下。

去海数十百里、

浩々不弁其涯涘。

原野道路、惣為滄溟。

乗船不遑、

登山難及。

溺死者千許、資産苗稼、殆無孑遺焉。

 

廿(にじゅう)六日(ろくにち)癸未(きび)、陸奥(むつ)の国の地、大いに震動す。

流光、昼の如(ごと)く隠(いん)(えい)す。之(これ)を頃(しばら)くして、

人民叫呼(きゅうこ)し、伏して起()くること能(あた)わず。

(ある)いは屋(おく)(たお)れて圧死し、

或いは地裂けて埋(まい)(えい)す。

()(ぎゅう)は駭奔(がいほん)し、或いは互いに昇踏(しょうとう)す。

城郭(じょうかく)・倉庫、門(もん)()・墻壁(しょうへき)

頽落(たいらく)して顛覆(てんぷく)すること其()の数を知らず。

海口は哮吼(こうこう)し、声、雷霆(らいてい)に似たり。

驚濤(きょうとう)と涌(ゆう)(ちょう)と、泝(そかい)し漲長し、

(たちま)ち城下に至る。

海を去ること数十百里、

浩々(こうこう)として其の涯涘(がいし)を弁ぜす。

原野道路、惣(すべ)て滄溟(そうめい)と為()る。

船に乗る遑(いとま)あらず、

山に登るも及び難(がた)し。

溺死者千許(ばか)り、資産・苗稼(びょうか)、殆(ほと)んど孑(ひと)つとして遺(のこ)ること無きなり。