【原文】 廿六日癸未、陸奥国地大震動。 流光如昼隠映。頃之、 人民叫呼、伏不能起。 或屋仆圧死、 或地裂埋殪。 馬牛駭奔、或相昇踏。 城郭倉庫、門櫓墻壁、 頽落顛覆、不知其数。 海口哮吼、声似雷霆。 驚濤涌潮、泝漲長、 忽至城下。 去海数十百里、 浩々不弁其涯涘。 原野道路、惣為滄溟。 乗船不遑、 登山難及。 溺死者千許、資産苗稼、殆無孑遺焉。 |
【書き下し】 廿(にじゅう)六日(ろくにち)癸未(きび)、陸奥(むつ)の国の地、大いに震動す。 流光、昼の如(ごと)く隠(いん)映(えい)す。之(これ)を頃(しばら)くして、 人民叫呼(きゅうこ)し、伏して起(お)くること能(あた)わず。 或(ある)いは屋(おく)仆(たお)れて圧死し、 或いは地裂けて埋(まい)殪(えい)す。 馬(ば)牛(ぎゅう)は駭奔(がいほん)し、 或いは互いに昇踏(しょうとう)す。 城郭(じょうかく)・倉庫、門(もん)櫓(ろ)・墻壁(しょうへき)、 頽落(たいらく)して顛覆(てんぷく)すること其(そ)の数を知らず。 海口は哮吼(こうこう)し、声、 雷霆(らいてい)に似たり。 驚濤(きょうとう)と涌(ゆう)潮(ちょう)と、泝(そかい)し漲長し、 忽(たちま)ち城下に至る。 海を去ること数十百里、 浩々(こうこう)として其の涯涘(がいし)を弁ぜす。 原野道路、惣(すべ)て滄溟(そうめい)と為(な)る。 船に乗る遑(いとま)あらず、 山に登るも及び難(がた)し。 溺死者千許(ばか)り、資産・苗稼(びょうか)、 殆(ほと)んど孑(ひと)つとして遺(のこ)ること無きなり。 |