武器貿易条約―人間・国家主権・武器移転規制―
(榎本珠良著、晃洋書房、2020年)

  • 概 要
    1990 年代以降、通常兵器は、国連などの場で「事実上の大量破壊兵器」とも呼ばれ、その「不正使用」による人的被害や持続可能な開発への悪影響などが問題視され、国際的な移転規制が提唱された。 そして、2013 年4月2 日には武器貿易条約(ATT)が採択された。

    歴史を振り返れば、主権国家システムの形成後、武器移転規制は主権国家間の議論と交渉のテーマであり続けてきた。 ただし、過去の時代に提唱ないし合意された武器移転規制の方法と、ATTに反映された規制内容とは、若干の連続性があるとはいえ大きく異なっている。

    近現代の国際社会において、武器移転規制をめぐる言説や発想は、いかに構築され変容したのか。 本書は、2003年からATTをめぐる国内・海外の議論に継続的に関与してきた筆者が、様々な領域の研究やアーカイヴ資料を踏まえ、 19世紀以降の武器移転規制論を基礎づける人間像や国家主権概念を解き明かし、ATTが抱える問題を分析する、批判的安全保障研究の試みである。

    目 次
    はじめに
    凡例
    略語一覧
    第1章 武器移転規制への批判的視座

    はじめに

    第1節 批判的安全保障研究の射程と武器移転規制研究

    第2節 本書の目的と構成

    第3節 本書における用語の定義

    おわりに

    第2章 19世紀から冷戦期までの武器移転規制

    はじめに

    第1節 1890年ブリュッセル協定

    第2節 戦間期の交渉

    第3節 冷戦期―1970年代まで―

    第4節 冷戦期―1980年代―

    おわりに

    第3章 19世紀末から冷戦期までの武器移転規制論と人間像・国家主権概念

    はじめに

    第1節 19 世紀―「文明」と「野蛮」―

    第2節 「自律した理性的な人間」像の揺らぎ

    第3節 「積極的主権」ゲームから「消極的主権」ゲームへ

    第4節 「脆弱な人間」像へ

    第5節 「南」の武力紛争や暴力の源泉論

    おわりに

    第4章 1990年代以降の武器移転規制

    はじめに

    第1節 通常兵器移転規制の国際問題化

    第2節 国連SALW プロセス

    第3節 「グローバル」な移転規制合意

    おわりに

    第5章 ATT 交渉の経緯と条約の内容

    はじめに

    第1節 国連ATT プロセス

    第2節 ATT の内容

    おわりに

    第6章 1990年代以降の通常兵器規制論と人間像・国家主権概念

    はじめに

    第1節 安全保障と開発の融合

    第2節 「脆弱な人間」像の投影

    第3節 「国際法的主権」の安定性の維持と「脆弱な人間」像

    おわりに

    第7章 ATT の実施とその困難性

    はじめに

    第1節 ATT 発効後のプロセス概観

    第2節 「ATT 違反の武器移転」問題

    第3節 「ATT 違反」をめぐる曖昧さ

    第4節 報告書問題

    第5節 武器移転規制をめぐる対立と摩擦

    おわりに

    終章 人間、国家主権と武器移転規制

    あとがき
    武器移転規制・SALW規制を含む主要な国際合意の一覧
    参考文献
    索引