研究報告要旨

法情報学の枠組み

(プレビュー版)

by 夏 井 高 人


日時:1998/03/07
主催:
カオス研究会阪井研
場所:明治大学和泉校舎研究棟会議室

発表に際して使用したプレゼンテーション


Table of Contents

法情報学の概念

アプローチ

法情報検索

法情報分析

法情報政策

明治大学法学部のめざす法情報学

検索・分析・政策提出の有機的結合

高度インフラ上の知的支援システム構築


法情報学の概念

 法情報学(Legal Informatics)の概念は,未だ未成熟である。

 法情報学が未成熟であるということの意味は,さまざまな角度から言うことができる。

 まず,その歴史において新しい。したがって,法情報学の「学問」としての定義が未成立なだけではなく,「存在」としての「法情報学」もまた多様で不統一のままである。そもそも法情報学は,コンピュータ技術の発達と共に急激に発展してきたという経緯がある。かつての法源論は,非デジタル社会における法情報学の機能を担っていたわけであるが,デジタル社会における法源論は,まさにデジタル社会の成立・発展と運命を一にしているのである。そして,デジタル社会が未成熟な社会であるのと同様に,法情報学もまた未成熟であることになる。

 次に,法情報学は,その研究者の員数において乏しい。ある程度までの厚さをもった層を有する学問領域では,個々の研究者の研究テーマのディレクトリを作成するだけで,その対象とする学問領域の姿を浮き彫りにすることが可能である。しかし,法情報学の世界では,そこまでの厚みをもった研究者の層が形成されていないのである。したがって,全体としての法情報学の対象領域を見定めることが難しい。

 そして,法情報学は,その業績・成果の示し方において,伝統的な方法とはかなり異なった様相を示している。すなわち,紙媒体での研究成果の公表もないわけではないが,専ら,Web上のホームページのあり方それ自体が研究成果そのものになっていることもあるため,伝統的な意味での「業績」という観念からはほど遠いところで法情報学の成果が存在している。これは,ちょうど著作権の領域においても「実演」というものの価値がようやく認められつつあるとはいえ,基本的には何らかの物体に固定された著作物のみが「著作物」として承認されているという現状と非常によく似ている。したがって,伝統的な研究スタイルを維持する他の研究者からは,法情報学の研究成果というものを評価することが困難または不可能である。

 このような理由により,「法情報学」の概念を現時点で定義することは非常に難しいことである。それと同時に,反面では,今後の法情報学の発展を見据えて考えると,現時点であえて明確な定義を決定してしまうことが本当に学問の進歩に寄与することになるのかどうかについても疑問がないわけではない。
 しかし,事実として存在する「法情報学」がどのようなものであるかを認識することは,それ自体で意味のあることである。そして,事実として認識されたところを踏まえて,明治大学法学部における「法情報学」のコンセプトを明示しておくこともまた,さまざまな意味で有益なことであると考える。というのは,すでに拙著『ネットワーク社会の文化と法』日本評論社(1997)
[0] 247頁以下にも私見を示したとおり,本来,「法情報学」は,21世紀における法学研究のインフラストラクチャないしプラットホームとしての位置づけを与えられるべきものだからである。そして,明治大学法学部における「法情報学」は,その実験であり,かつ,実践でもあるからであり,また,これまで事実として存在した法情報学研究を包含しつつも,さらに大きな目標を明確に有するものであるからである。

 そこで,本稿では,事実として存在するものとしての「法情報学」を,それぞれのアプローチの存在形式に着目して分類・観察する。次いで,この観察結果を踏まえ,明治大学法学部における「法情報学」のめざすところを明らかにする。そして,これらの作業全体の流れを通じて,あるべき「法情報学の枠組み」を提案する。

アプローチ

法情報検索

 法情報検索としてのアプローチをとる法情報学がある。

 これは,2つの流れを汲むものである。

 一方は,英米におけるリーガル・リサーチ Legal Research を意味し,法律情報 Legal Information の検索 Research を主要な研究テーマとしている。[1]英米とりわけアメリカでは,コンピュータ・ネットワークを利用した判例等の法情報検索がむしろ常態になっているといわれている。[2]これは,「ロー・スクールにおいて,ほぼ無償でLEXIS[3]やWEST[4]のシステムを利用していた者が現実に弁護士になった暁には,もはやこれらのシステムなしには仕事ができなくされてしまっているからだ」という皮肉な見解も多く聞かれるところではあるが,実際問題として,その分量においても質においても世界でも有数の法典国であり,しかも,各州毎に異なる法制と膨大な法典を持ち,しかも,無尽蔵に近い判例資料を抱えてしまっているアメリカの現状からすると,電子的な手段による法情報検索がアメリカの法律家にとって不可欠のものであることは,むしろ,自然の流れというべきであろう。なお,この点に関しては,日本を含む情報後進国と異なり,アメリカでは,「情報の公開」ないし「情報の自由」が民衆主義を維持するために不可欠のものであり[5],それゆえに,実際にほとんどすべての領域における法情報が公開され,公衆にとって利用可能な状態になっているということを忘れてはならない。いすれにしても,現在,アメリカ合衆国の弁護士をはじめとする法曹が高度に電子化された存在であり,電子化された情報検索技術を最大限に駆使する職業となっているという事実は,否定しようがない。[6]

 他方は,情報学[7]の一部をなすものであり,主として法学分野の情報を対象として,情報の作成・発信・保存・検索・応用等の方法を研究することを内容とする。この立場では,ネットワーク上に存在する法情報であると伝統的な紙媒体上に存在する法情報であるとを問わず,ある分野に属する法情報への効率的なアクセスの方法が最初の検討対象とされ,その方法として電子的な方法が重要なものであるとみなされている。それゆえに,この分野における研究者の多くがWeb上にホームページを持ち,その中で実際に法情報を発信し,また,法情報へのアクセス・インデックスとしてのリンク集などを公表しているのである。また,この分野の研究者の中には,法情報を一定のフォーマットに整形し,人工知能技術を応用して,意味や概念を含んだより高度の情報検索を実現しようとする研究もある。[8]これらに加え,電子的な道具を用いた法律文書の作成[9]とか「法情報の発信」を研究する研究者もある。たとえば,電子メール等を利用した法情報の発信,ワープロによる法律論文の作成,作成された法律論文のPDFファイル化やSGMLへの変換の研究などもこれに含まれるであろう。

 現在,「法情報学 Legal Informatics」と冠したWebサイト中で最も多いのは,この類型に属するものである。たとえば,次のようなサイトが代表例である。

JURISTISCHES INTERNETPROJEKT SAARBRÜCKENhttp://www.jura.uni-sb.de/

[独語,英語,日本語] ザールラント大学のMaximilian Herberger教授及び Helmut Russman教授によるドイツ最大の法情報学サイト。サイバー法関連の有益な情報も多数含まれている。

Institutes for Law & Informatics / Computers /Technology http://www2.arnes.si/~rzjtopl/usa/institut.htm

[英語] Janez Topli?ek氏が運営する法情報学サイト。コンピュータ法及びサイバー法関係のリソースも多数含まれている。

Legal Informaticshttp://mailbox.univie.ac.at/~a3311man/li/li.html

[英語] Viktor Mayer Schonberger氏が運営するオーストリアの法情報学サイト。リーガル・リサーチを重視している。

 ところで,日本においても,次第にコンピュータ・データベースを用いた判決検索が普及していきている。とりわけ,特許情報に関しては,インターネットを利用した情報検索が普及してきている[10]。その他の法分野に関しても,ある程度まではインターネットによる法情報検索が普及しつつある。たとえば,指宿信・米丸恒治『法律学のためのインターネット』日本評論社(1996)は,そのための現在最良のガイドである。しかし,現段階における一般的な法学研究レベルでは,CD-ROMによる判決情報検索が一般的である。この点については,石川幹人「文献検索技術と判例データベース明治大学情報科学センター年報9号27頁(1997)[11]が詳しく論じている。

法情報分析

 非デジタル媒体とりわけ伝統的な紙媒体上に印刷された文字列による法情報の伝達であっても,デジタル社会における電子記憶媒体上のキャラクタ・データによる法情報の伝達であっても,それが単にデータとして存在しているだけでは,何の意味も持たない。それが一定のシンボルとして人間に認識され,そのシンボルに対する「意味付与」という思考プロセスを経ることによって,ようやく,単なるデータは,法情報へと変化する。このプロセスは,人間が法を思考する限り,今後も不変である。

 このことを明確に認識してなされた法哲学的分析結果は,いわゆるポスト・モダンや人間行動学に属する研究者達によって様々な試みがなされてきたが[12][13],結論からすると,見るべきものに乏しい。というのは,装置としての人間ないし装置としての社会のメカニズムに関する研究成果はあるが,そのいずれもが,ある問題に関する言及を常に避けているいるからである。すなわち,シンボルに対する「意味付与」がユニークな(個性的な)現象である以上,シンボルが法情報へと変化した瞬間に,そのシンボルが持つシンボルとしての普遍的情報媒介能力を直ちに喪失するという問題である。このことは,究極的には,人間におけるコミュニケーションの不成立という結論へと導くであろう。人間は,相互に,コミュニケーションが成立していることを想定しているだけであり,コミュニケーションの成立を検証する確実な方法はない。仮に第三者として他人同士のコミュニケーションを観察し,その結果を考察したとしても,その観察それ自体が,その観察者個人の範囲内のできごとであり,現実に「存在した」と想定されるコミュニケーションそのものをトレースしているわけではない。にもかかわらず,我々人類は,「想定された」コミュニケーションに依存して生き続けなければならないわけであり,それを「存在する」ものとして認識するように強制されている。

 このことは,法情報を媒介するデータないしシンボルの情報化(脳の内部的処理可能化)のプロセスの研究の重要性を否定するものではなく,むしろ,その必要性を明らかにするものである。すなわち,従来,法は,存在するものであり,特に問題なしに伝達可能なものとして理解され,そのようなものとして使用され,そして,そのようなものして法学教育も組み立てられてきた。しかし,存在するのは,シンボルとして認識するための一定の刺激を提供するデータのみであり,それがシンボルとしてどのように認識され,そして,内面化されて法情報へと変化するかは,個々の情報受容者にとって常に一定であるとは限らない。したがって,特定のデータの法情報としての受容プロセスの研究は,憲法学や犯罪学などを含むすべての法領域にとって,実は,最も基本的な部分に属するものである。

 この分析は,法情報の構造それ自体の分析,それが構造として認識されるプロセスの分析,それが構造として機能する環境に関する分析,受容された法情報が再利用されるプロセスに関する分析等を含むものとなろう。

 この点に関する研究成果もまた非常に乏しいが,石村善助は,その著書[14]において,「法情報の名宛人」及び「法情報の伝達」という観点から,この問題に関する研究成果を発表している。
 石村は,
Wiener [15]におけるコミュニケーション論に着目し,これに触発されて,情報としての「法」の「送り手」とその「受け手」が誰であり,それがどのようにして「伝達」されるのかという問題について考察している。この問題は,既に憲法学の領域においても議論されてきたものの一部ではあるが,憲法学においては,「法」の存在は,所与の前提である。石村においても,所与の前提としての「法」という束縛から完全には脱していない。「法」として認識されるルールは,所与のものとして後から説明することは可能であるが,その瞬間々々において,何が「法」を認識され,「法」として機能するのかは,常に所与のものではない。この点において,石村の研究成果は,伝統的な法学研究の呪縛の中の世界にとどまるものであると言わざるを得ないが,そうっであるとしても,この研究成果は貴重である。
 なぜなら,「法」は,「存在する」ものとして「存在する」ものではなく,情報として伝達され「受け手」の認識を待って初めて機能するものであるということが明確に述べられているからである。
[16]

 このような機能論的考察方法は,それ自体として,今後ますます重要性を持つことになるであろう。とりわけ,ボーダーレスなインターネット空間において,一定の文化圏に属する法またはルールが他の文化圏に認識ないし受容されるプロセスは,インターネット・ウオッチングという方法を採る以外に観察手段が存在しない。しかし,伝統的な法制史等の領域において化石化した文献資料から類推して「法の継受」を推測するという考古学者のような作業が,リアルタイムの資料によって,同時代的な「考現学」として成立可能なのである。このことは,法情報学が,新しい法学方法論を持った新しい法学分野として成立可能なことを示唆するものである。

 このような問題意識を持ちながら構成されたWeb サイトとしては,次のようなものがある。

LIAL - Legal Informatics at Liverpool (http://www.csc.liv.ac.uk/~lial/

[英語] リバプールに本拠を持つ法情報学サイト。法情報としての法律文書に関する分析検討等のリソースが含まれている。

法情報政策

 伝統的に,立法論は,法解釈学とは別の領域に属するものであり,場合によっては,「学問ではない」との評価を受けることが多かった。

 しかし,成文法を固定し安定した法と仮定し,判例法や慣習法も相当程度の長期間を経て「法的確信」を得られるに至るまでは「法」ではない,と考える時代は終わった。

 現代社会は,国際的に標準的なルールが何であり,それを国内法として採り入れる場合の問題点は何であり,その問題点を具体的にどのような方法論によってクリアするのかを,かなり頻繁な修正・変更を当然の前提にしながら実行していかなければならない「変動の時代」である。この「変動の時代」は,いずれ「安定の時代」へと移り変わっていくであろう。しかし,それまでの間,何もしなくても良いということが許されないところに,現代を典型的に表現する「国際化」とか「グローバル化」というものの法領域における本質がある。日本では,古代中国の儒学者達から伝授された「朝令暮改」に対する忌避的態度が一般的であるが,このような伝統的態度を堅持することが極めて合理的でないという時代状況の中に立たされてしまっているのである。
 このことは,法ないしルールの認識・検討・設定という場面においてのみならず,来るべき時代における「法律実務」ないし「司法運営」,そして,「法学」ないし「法学教育」の基本的な枠組みに関しても,同様に妥当するであろう。
 おそらく,労働関係を含めた組織そのものの再構築を含め,真の意味で基本的な部分における発想の転換が求められているのであり,そのための政策論的提案機能を誰かが(あるいは,どこかが)合理的に果たしていかなければならないのである。しかも,これは,日本の第2次世界大戦後のあり方がそうであったような,行政庁の主導による全国一律的なやり方とは全く正反対のものでなければならない。これからの行政庁は,「指針」を示し,関連する「情報」を提供し,変革を「支援」する機能を十分に果たすことに全勢力を傾けるべきであり,「指導」や「拘束」のような類のものは,捨て去らなければならない。なぜなら,全国一律方式は,その徹底に時間を要し,特定の政策の実施が徹底されたころには,その指導が意味を持たないか状況に合わないものになっている可能性が高いからであり,また,状況の変化に対応した政策の変更を徹底するのにも同様の問題が発生するからである。専門家の領域に限定して言えば,現在なされるべきことは,あくまでも「自己責任」を中心理念とするさまざまな模索を支援することであり,それ以上でもそれ以下でもない。

 このような状況の中で,新しい学問領域そして研究態度としての「法情報学」が果たすことのできる「機能」は,決して少なくないと思われる。

 

明治大学法学部のめざす法情報学

 

 以上のような問題意識を前提に,明治大学法学部において構築されるべきものとして目標とする「法情報学の枠組み」のアウトラインを示す。

 

検索・分析・政策提出の有機的結合

 前記のとおりの法情報検索,法情報分析及び政策提出は,それぞれが独立したものとして存在し得るものではあるが,それらは,相互に有機的に結合し連絡し合うように形成されたときに,最も多くその機能を果たし得るものと考える。

 法情報の検索は,その検索に先立ち,検索の目的と検索結果の予測ないし仮説が存在しなければ検索そのものを実行することができない。これは,検索されるべき情報の分析が予め実行され暫定値としての検索結果が準備されていることを意味する。そして,この暫定値を発生させるためには,意味からシンボルへの逆方向での変換作業が必要である。現実に,データベースでキーワード検索を実行するためには,一定の範囲の意味集合を予定しておき,この意味集合を代表するシンボルとしてキーワードの設定作業がなされる。これは,特定のキーワードによる検索対象データ範囲のシミュレーションというプロセスを抜きにしては考えられない作業である。そして,この作業こそは,まさに各自の脳内においてはユニークなものとして存在する意味から普遍的なシンボルへ,そして,シンボルを表現するために無機的なデータへの変換作業にほかならない。したがって,法情報の分析能力を十分に持たない者が法情報の検索を実行しても効果的な成果をあげることができないことは当然であり,そのために,法情報検索の教育においても,検索対象であるデータの集合論的な考察とその意味づけ並びに一定のシミュレーションのトレーニングが必須となるのである。

 さらに,日本の成文法等の文字列によって明確に記号化されたものではないルールや法情報の検索のためには,ルールそれ自体の予測ないし仮説設定が必須である。ここでも,一定の集合論的な検討がなされるが,その集合論的な検討は,意味論を含んだものであるがゆえに,各人にとってユニークなものであり,それ自体としては,ブール代数による表記は,原理的に不可能である。たかだか,各人にとってユニークな意味論的な演算の結果として生成される仮説を代表するシンボルが明確に認識された時点で,後から説明するものとしての集合要素のシンボルのデータベース(リスト)が生成され得るのみであり,この段階になってはじめてコンピュータによる形式的な演算が可能となる(ただし,その演算結果は,データ化されたシンボルのマッチングのみであって,各人にとってユニークな意味集合というものの存在は計算上では無視されるのであるから,それ自体としては何の意味も持たない単なる計算結果のデータに過ぎない。)。
 このような演算は,実際には,想定されたルールの外縁の構成部分を探索し,新たなシンボルを生成する作業である。したがって,その検索結果の中には,ルールそれ自体のシンボルが含まれることはない。存在するものとしての「ルールの発見」なるものは,実際には,仮説の提供であり,しかも,その仮説は,人間の「意欲」による生成プロセスを必ず経由するのである。それは,仮にごく些細なものであったとしても,何らかの意味での政策提案的要素を含んでいる。
 伝統的な法解釈論においては,通常,このことが巧妙に隠蔽された表現形式が採られている。それゆえに,伝統的な法解釈論の理論の形式面のみに目を奪われると,コンピュータの論理演算による法的推論が容易なことであるかのような誤解を生む原因ともなっているのである。しかし,政策提出的な思考プロセスを含まない法的思考プロセスというものは,各人にとって(主観的には)客観的なトレースであると認識されるような思考プロセスとして存在するのに過ぎず,このプロセスが常に一定のシンボルに対する意味付け作業を伴うものである。この仮に些細なものであるとしても存在する「意欲」による「政策提出」プロセスの存在を無視することは,事実に合致しない。

 このように見てくると,法情報の検索と検討と政策提案とは,最初から相互に密接に関連するものなのであり,ただ,それが明確に認識されているかどうかは,各研究者の研究態度の厳しさの程度いかんにかかっている,あるいは,いわゆる「言葉の魔術」に頼る程度のいかんにかかっているだけだ,ということができそうである。

 明治大学における法情報学は,この点を最初から明確に認識し,特定の者がどのような環境の下で何を目的に何をしており,それがどのような存在形式をもつものとして認識されているのか,その認識のシンボル化のプロセスにおいては何がどのように機能しているのかを意識したものであることを目指したい。

高度インフラ上の知的支援システム構築

 目下,明治大学においては,駿河台に建築された「リバティー・タワー」を中心に,21世紀に向けた高度情報インフラストラクチャの構築が進められている。前記のような有機的結合関係を意識した「法情報学」の存在それ自体をデジタルな状態で記録し,その記録それ自体が明治大学における「法情報学」の存在のシンボル(記号データ)となるように,研究態度を進めたい。

 このことは,新たな時代のための法学のプラットホームを構築することを意味する。それは,法学方法論の基本構造それ自体であり,法学研究のあり方の提案そのものでもあり,そして,新たな時代のための知的支援システムの構築の実験でもある。

 これには,次のような諸要素が含まれるべきものであり,そのような枠組みを持つものとして,明治大学法学部の「法情報学」が構築される。

1 ネットワーク・システムによる法情報の提供[17]

2 関連する研究サイトをネットワーク上で相互に結合したネットワーク・データベースすなわち本来の意味での「電子図書館」の構築

3 ネットワークによる法情報学研究の成果の公表[18] 

4 法情報学研究のためのバーチャル研究室の提供

5 ネットワークによる専門研究者の意見交換及び研究成果の公表[19] 

6 リモートによる将来の研究者の育成・指導

7 上記1ないし5を通じてなされる法学プラットホームの構築

 


<注 記>

[0] http://www.isc.meiji.ac.jp/~sumwel_h/prof/txt1997-1.htm

[1] 武士俣 敦「法学教育とコンピュータ」福岡大学法學論叢35巻4号449頁(1991),37巻1号33頁(1992)

[2] Edward A. Nolfi, 'Basic Legal Research', Glencoe, 1993

[3] LEXIS-NEXISサポートセンター(http://www.tesco-direct.com/lxnx.htm

[4] WestLaw.com Homepage (http://www.westlaw.com/

[5] FOIA(Freedom of Information Act) Office (http://www.cdc.gov/od/foia/foi.htm

[6] P.Leith, The Computerised Lawyer - A Guide to the Use of Computers in the Legal Profession -, Springer-Verlag, 1991

[7] 学術審議会「情報学研究の推進方策について(建議)」(http://www.monbu.go.jp/singi/gaksin/00000192/
  電総研コミュニケーション社会の情報技術の調査・提言委員会「
情報主導社会における情報学研究のあり方」(http://www.etl.go.jp:8080/etl/captain/teigen/main.html
  科学技術庁「
科学技術会議情報科学技術部会(第2回)議事録」(http://www.sta.go.jp/shimon/cst/giji2.html

[8] 和田 悟「法律知識ベースの構築」明治大学情報科学センター年報9号37頁(1997)(http://www.isc.meiji.ac.jp/~sumwel_h/junc/Logic/logic1998-1.htm),大嶽能久,新田克己,前田茂,小野昌之,大崎宏,坂根清和「法的推論システム HELIC-II」情報処理学会論文誌35巻986頁(1994).

[9] Marjorie Dick Rombauer, 'Legal Problem Solving - Analysis, Research & Writing -', West, 1991

[10] http://www.jsdi.or.jp/~mug/mugkaise.html

[11] http://www.isc.meiji.ac.jp/~sumwel_h/junc/Logic/logic1998-2.htm

[12] T.エックホフ・N.K.ズントビー(都築廣巳・野崎和義・服部高宏・松村 格訳)『法システム―法理論へのアプローチ―』ミネルヴァ書房(1997)

[13] 木下冨雄・棚瀬孝雄編『法の行動科学』福村出版(1991)

[14] 石村善助・良永和隆・日高義博・井上 大『法情報学要論』専修大学出版局(1991)第T章

[15] Nobert Wiener, 'The human use of human being, Cybernetics and Society', Avon Books, 1967

[16] 機能論的な考察の応用として,荒木伸怡「裁判−その機能的考察−」学陽書房(1988),等がある。

[17] http://www.isc.meiji.ac.jp/~sumwel_h/lib/index.html

[18] http://www.isc.meiji.ac.jp/~sumwel_h/links/index.html

[19] http://www.isc.meiji.ac.jp/~sumwel_h/cyberlaw/index.html

 


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最終更新日:Jun/29/1998

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